《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》42
「おひっさー」
髪が明るくなっている以外は特に変わった様子もない。
底抜けに明るい笑顔に、私はついイラッとしてしまった。
席に座ると私はソフトドリンクを頼んだ。
「アルコール飲まないの?」
「明日も仕事です」
ぴしゃりと言い放つとつばきはつまらなさそうにを尖らせた。
酔いつぶれた彼を介抱するのは私なんだから……。
「――で? ニュージーランドはどうだったの?」
「超楽しかった。羊がいっぱいいたのよ」
「それは良かったね。……帰ってくるのが突然だったけど、どうかした?」
「彼氏とケンカしたからだけど」
あっけからんとつばきは言う。
「仲直りするのもだるいなーって思って、寢ているすきに荷まとめて帰ってきたわ」
この子の強引に人との縁を千切り取る癖、なんとかならないものだろうか。
羊と戯れていればよかったのに……。
「そう……」
「それと、実家から『絶縁するぞ』って脅しの連絡が來ちゃったのもある」
「あなた絶縁狀叩きつけられるのこれで何度目よ」
「分かんないわよ。さすがに今回は海外まで行っちゃってやばいなって思ってたから言うこと聞いてあげた。偉いでしょう?」
「家出している時點でぜんっぜん偉くない。反省しなさい」
彼はどこ吹く顔で運ばれてきた料理を食べる。
暖簾に腕押しとはこのことだ。私じゃ何言ってもつばきは知らん顔をする。
「お父さんが勝手に縁談決めるから悪いんだもの。政略結婚なんて時代遅れよ」
「……」
「あやめとはお似合いっぽいけど」
「そうかもね」
どきどきとつばきを伺うも、彼の表は変わらない。
もうし押せるか?
「どうするの? どうせ最後はあなたが決めるんだから。嫌なら嫌っておじさんに言えば?」
「必死ね」
見かされた言葉に、フォークを持つ手が震える。
「『つばき』を演じているうちに悠馬さんが好きになっちゃった?」
「……ッ」
「でもね、その人、わたしのだから。もともとそうだったでしょう?」
「つばき……役割を押し付けてよく言うよ……!」
「押し付けたのはわたしではなくてお父さん。わたしはその場から離れただけ」
ほんとうに、ああ言えばこう言う……。
「二か月弱いっしょに過ごして、ここまでを移せるほどなら人格的にも安心できるわあ。あなた、異に警戒心強かったものね」
「――つばきと悠馬さんは互いを知らないでしょう?」
「あやめと悠馬さんだって互いを知らないところからスタートしたんじゃないの? とくにあなたは特別大きなを抱えていたわけだし」
何も言い返せない。悠馬さんを騙し続けていたぶん、こちらの分が悪い。
しかもつばきは私の反応を楽しんでいる。趣味が悪い。
あの人は私を選んでくれると、そう理解していても心がグラつきそうになる。
「今、悠馬さんはどこ?」
「ドイツに行った。一週間は帰らないよ」
「あらまあ、タイミングの悪い。待たされるのは嫌なんだけれど」
二か月弱海外に行っていた人間に言われたくはない。
「同棲しているんだっけ? 悠馬さん帰るまでに荷まとめておいたら?」
善意の口ぶりで言われたものだから理解が追いつかない。
荷をまとめる?
悠馬さんと私の家なのに?
「なんで?」
「だって、わたしが帰って來たんだからあやめはもう私の代理をすることないじゃない」
「……え? や、噓でしょ? 悠馬さんと――婚約するの?」
おかしなこというわね。
つばきはそう言って口を隠しクスクス笑う。
「わたしが婚約していたのよ」
そうだ。その通りだ。
なにを勘違いしていたんだ。私は偽で、代わり。ただの代理。
悠馬さんの橫に居るのはつばきだ。
そんなこと毎日のように思ってきたはずなのに。
「お父さんがどういう言い訳をするのか楽しみだけれど、口裏ちゃんと合わせてね。あの人が完璧主義なのは知っているでしょう?」
「……」
「味しいわね、この魚」
口にものをいれるが味がしない。
ただただ、つばきに負けたことだけが頭の中を回っている。
この二か月悠馬さんと築いてきた関係が壊されてしまう。そんなことさせない。でも、どうすれば守れるの?
助けてほしい。悠馬さん。
傷痕が痛む。それでどうにか己を保っていられる。
実家を守るためならこれでいいんだ。完璧じゃないか。
みんな元ある場所に嵌ったのだから。ハッピーエンド。めでたしめでたし。
――私を除いては。
note+ノベルバ+アルファポリス+電子書籍でエッセイ、小説を収益化しつつ小説家を目指す日記
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