《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》始まりは意地と恥(3)
「『気持ち悪い。吐く』って」
「え」
「急いでトイレに運んだんだが、蓋開けてる間に……」
音を立てて全のの気が引いていくのがわかる。
きっと私のは今、冷たくなっていることだろう。
「久瀬の服と俺のジャケットが被害にあった。抵抗はあったがそのままにもしておけないからな。お前の服がせて俺のジャケットと一緒にバスルームで洗ったんだ。でもどうしても臭いが取れなくて、大量のシャンプーに付け込んで臭いを取って乾燥させて、今に至るというわけだ。……どうした久瀬?」
完全にベッドに倒れ込んでしまった私に掛けてくれた聲に、指一本も反応することはできない。
平嶋課長から語られた真実はあまりにも殘酷だ。
強引に服をいで迫ってた方が、どれだけ可らしかっただろう。
語りたくないと言われたのだから、聞かなきゃよかったのに。
私のバカヤロウ。
「さすがに風呂にはれてやることはできなかったからな。けるならシャワーでも浴びてこい」
「あまりにもショックでけません……」
「風呂行け」
「はい……」
まるで井戸から出てくるホラー映畫さながらにベッドから這い出ると、私はフラフラになりながらバスルームに向かった。
熱めのシャワーを頭から浴びると、平嶋課長から聞いた點と點が繋がってその場にしゃがみ込んだ。
これは本當に恥ずかしすぎるだろう。
として、人として、最も醜い姿を平嶋課長に見せてしまった。
もう無理だ……。
として平嶋課長に近付いて梨央を見返すどころか、一社會人として今後の私のポジションも危ないじゃないか。
せっかく平嶋課長が新規開拓した大きな病院の窓口に指名してもらえるまでに長できたというのに。
平嶋課長がこの件で、私の進退をどうこうするような人でないのはよく知っているけれど、本當にいろんなことがやり辛い。
何度も座り込みたくなるような自己嫌悪に苛まれながらも、平嶋課長を待たせてはいけないと懸命に気力でシャワーをすませた。
所には綺麗に畳まれた私の服が置いてあり、クンと臭いをかいでみると、ほんのりと先ほど使ったシャンプーの香りがした。
ドライヤーで髪を乾かすと、自分がすっぴんなことに気付いてしまった。
うっかりカバンの中にっているコスメポーチを持ってくるのを忘れてしまった。
こんな間抜けな顔を平嶋課長に見られるのはちょっと……。
一瞬そう思ったけれど、それよりも凄いものをお見せしているので開き直ることにした。
「お持たせしました……」
しでも顔を見られないように、髪で顔を隠しながら俯き加減でバスルームを出ると、平嶋課長は椅子に座ったままスマホを作していた。
「終わったのか?」
私の方に顔を上げ、平嶋課長の視線はすっぴんの私を捉える。
「すみません。すっぴんなんで簡単に化粧だけさせてください」
カバンを漁りながら申し訳なくいうと、「そんなに隠さなくても、全然変わらないぞ?」と平嶋課長は軽く笑った。
こんなセリフをサラリと言ってのけるなんて。
さすがの扱いには長けているようだ。
不覚にもキュンとしてしまったじゃないか。
何故だか悔しい気持ちになって、私は素早くバスルームに戻り、洗面臺で簡単な化粧を施す。
再度バスルームを出ると、ちょうど平嶋課長がジャケットを羽織っているところだった。
會社で何度も見たことのある景がこんなに格好よく見えるのは、やはりこの狀況下のせいだろう。
「用意はできたか?」
腕時計を付けながら平嶋課長がそう聞いたので、私は慌ててポーチをカバンにしまい、「はい。お持たせしてしまってすみません」とかしこまった。
平嶋課長は何も言わず、すれ違い様に私の頭をポンポンとでてドアへと向かう。
その背中を見るとなんだかを羽でなぞられたかのような覚で。
元をきゅっと握って課長の背中を追いかけた。
フロントに鍵を返しに行く際、財布を出した私を平嶋課長は手で制す。
スマートにカードで算した平嶋課長の後ろをついて行き、フロントを離れたところでもう一度財布を出そうとカバンに手をれると。
「どんな形であっても、こんな時にが払おうとするな。大丈夫だから」
平嶋課長はそう言って私を諭してくれる。
やだ……。
男からこんな扱いされたことなんて一度もない。
こういうところがを虜にするポイントなんだろうな。
平嶋課長のプライベートなんて一ミリも知らないけれど、私はなんとなくわかった気になっていた。
ホテルを出るとそこはもう駅の真ん前で、昨日の歓迎會の會場からもそう離れてはいない。
このまま電車で帰る事もできるけれど、服やメイクの心配もあることだしタクシーで帰ろう。
「平嶋課長」
私がそう呼びかけると、課長は「なんだ?」と振り返る。
その姿に、不覚にも私のが大きな音を立てた。
だってそれは仕方がないことだと思う。
いつもはワックスで綺麗にセットされている髪はサラサラで、カッチリとキメているスーツだって今は著崩しているしノータイだ。
あまりにもかけ離れた日常に戸ってしまうのは、としては仕方のないことじゃないだろうか。
この容姿から繰り出される『非日常の姿』というカウンターパンチに、平嶋課長を苦手とする私もジワジワと心臓にダメージをくらう。
容姿端麗というのは、時として恐ろしいものだとをもってじた。
「どうした?まだ合でも悪いのか?」
平嶋課長からそう問われて、自分が思い切り課長に見とれていたということに気が付いた。
「いえ、大丈夫です。課長、ご迷をおかけして本當に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるが、そんなことしかできないなんて嘆かわしい。
お詫びや償いをどんな形であらわしていいかもわからない私は、とにかく頭を下げるほかなかった。
「もういいから頭上げろ。戸ったけど、これはこれで面白い経験だったぞ」
思いもよらない言葉にパッと顔を上げると、平嶋課長はしだけ意地悪っぽく笑ってくれていた。
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