《ただいま冷徹上司を調・教・中・!》仮がホントに変わるとき(16)
思わずガバッと飛び起きて、を曝してしまった。
けれどそんな恥心もじないほど、私の頭の中はパニックに陥っていた。
え?え?え?
ちょっと待って。
何言ってんの?
なんかすっごい言葉が聞こえたんだけど?
「出てるぞ」
「出してるんですっ」
というか、そんなことをサラッと突っ込んでいる場面じゃないだろう。
「凱莉さん。……今なんて……?」
聞き間違いじゃないだろうか。
私の奧底にあるが、幻聴を生み出したのではないだろうか。
そうとしか考えられないほどに唐突な言葉だった。
「なんか……ありえない言葉が聞こえたんですけど」
「ありえなくないだろう?」
凱莉さんは布団を上げて私のを隠してくれながら、當たり前とでもいうかのように飄々としていた。
「俺はもう、千尋がいないと安眠すらできない。一緒に暮らしたいと思ったけど、千尋のご両親の心を考えたら、中途半端に同棲なんかするよりも、ちゃんと結婚という形の方が正しいと思った」
「それはなんというか……」
まさか私の両親のことまで考えてくださるなんて、本當に有難い限りなんですが。
凱莉さんほどのやり手のイケメンが、私で手を打っていいものなのだろうか?
「凱莉さん。結婚は基本的に一生に一度しかできないものなんですよ?」
もしかしたら本當の意味で凱莉さんにふさわしいが現れるかもしれないのに。
……いや、もちろん現れてほしくなんてないというのが本心だけれど。
「そんなの當り前だろう。二度も三度もしてたまるか」
「ごもっとも……」
そう、一生に一度だからこそ、後になってこんなはずじゃなかったと後悔してほしくないのだ。
凱莉さんは私と向き合って座ると、しむくれたように口を歪めた。
「千尋は俺の何が気にらないんだ?」
「はっ?」
何を言っているんだこの人は。
「何かがあるから返事ができないんだろう?俺のどこがダメなんだ?」
「何言ってんですか……」
確かに以前の凱莉さんは下手で、理想を追い求めてばかりのから頻繁にフラれていたかもしれない。
けれど進化した今の凱莉さんをフれるなんているはずがないじゃないか。
「気にらないところなんて、あるはずがないでしょう?今の凱莉さんは全てにおいて完璧です」
「じゃあどうして返事をくれないんだ?」
「そんなの……怖いからに決まってます」
そう、なんだかんだと理由を付けているが、結局のところ私は自分が傷付くのが怖いだけなんだ。
「私と一緒にいることに疑問を持たれたくないんです。私と一緒にいることを後悔してほしくないんです。凱莉さんが私を見てくれなくなる日が來るのが怖いんです」
人の心は移りゆくものだから。
いつか凱莉さんの瞳が私を移さなくなる日が來たら、と考えると自分が完全に壊れてしまいそうで恐ろしいのだ。
「そうか……」
私の言葉を理解したのか、凱莉さんは小さく頷いた。
「つまり千尋は俺の気持ちを疑っている、と。そういうことだな?」
「違います。そうじゃないの」
ちゃんと言葉にしなければ相手には伝わらない。
私達はそう學んだじゃないか。
私は意を決してのを凱莉さんに曬した。
「凱莉さんの気持ちじゃなくて、私が私自を信じられないんです。私がこのまま凱莉さんにずっとしてもらえるようなでい続けられるか、不安で仕方ないの」
本來なら私は、凱莉さんと釣り合うような立派なじゃないのだから。
姑息な手を使って凱莉さんに近づかなければ、きっと一生相手になんてされなかっただろう。
そんな私なのに……。
「そうか、わかった。千尋はなんだかんだと俺に偉そうなことを言ってきたわりに、自分も下手だったんだな。無條件にされるということに慣れてないんだ」
「……凱莉さん」
何故だか男の人に裏切られ続けるばかりをしてきた私は、確かに自分のことを信じられないし、永遠に続くすらも信じられないのかもしれない。
「そんな千尋には何を言っても逆効果だろうな。だから俺の一方的な気持ちをハッキリ言うぞ。千尋が俺をどう思おうが大した問題じゃない。俺自が千尋と一緒にいられれば、正直言ってそれでいい」
隨分と勝手な言い分だけれど、私がどう思おうが凱莉さん自が私と一緒にいたいから結婚という選択をした。
そう言ってくれているのは十分に伝わった。
「凱莉さん、本當に私でいいんですか?私、意外に面倒くさいですよ?私めちゃくちゃ凱莉さんのこと好きなんで、きっと一生離れませんよ?」
絶対凱莉さんの側を離れない。
こんなに重いをお嫁さんにしてしまっていいの?
「どんな千尋でもいいんだ。千尋が千尋でいてくれれば俺はその全部をせる自信があるからな。千尋はなんの心配もせず俺にされてればいいんだ」
「凱莉さん……」
私は夢でも見てるんじゃないだろうか。
こんなに幸せなことがあってもいいの?
苦しいくらいにしい人が、一生私をしてくれるって……言葉に言い表せないほどの幸福じゃないか。
「ありがとうございます。もう一人で悩みません。だから……もう一度だけ、言ってもらっていいですか?」
二度も言わせるなんて最悪なだけれど、今度はちゃんと自信を持って返事をしたいから。
私な気持ちを今度こそ間違いなく察してくれた凱莉さんは、優しく私に微笑んでくれた。
そして……。
「千尋。俺と結婚してくれないか?」
「はい。喜んで」
今度こそ私は素直に凱莉さんのに飛び込んだ……。 
「千尋、俺、結婚まで待てない」
「なにが待てないんですか?」
「離れるの。もう一緒に暮らしたい……」
可すぎる凱莉さんは、ベッドにコロンと橫になり、グイッと私を引き込んだ。
「同棲は中途半端なんでしょ?」
「結婚することが決まれば、中途半端という言葉は予行練習という言葉に変換されると思う」
「は言いようですね」
勝手に都合よく変換してくれちゃうほどされてる私を、私自もしくじてくるから不思議だ。
「それくらい俺は千尋をしてる。俺には千尋しかいない」
「私も凱莉さんを世界で一番してます。一生そばにいさせてくださいね」
「當たり前だ。離れたら……許さない」
に傷付き絶した私がしたのは、誰が見ても完璧な人だった。
自分を不適合者だと悩んでいた凱莉さんがしたのは、心をリアルに教えてくれる仮人だった。
いつしか私達は互いに惹かれ合い、仮の人が本當の人になった。
そして今、人が永遠のに変わろうとしている。
私達はこれからも、二人で初めてを積み重ねながら進んでいくのだろう。
きっと躓くことだってある。
いいことばかりではないのもわかってる。
けれど私達には伝え合い、理解しようとする心がある。
気持ちをさらけ出して、伝えあって、支えあって。
たくさんのを育てていこう。
まるで神聖なる誓いの儀式のように、凱莉さんは私の元に口付けて、紅い痕を殘した。
私も今この瞬間に誓おう。
世界一しいあなたに……生涯変わることのないを。
~fin~
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