《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第1章 再婚、義兄、同居!?(2)私が彼を嫌っている理由

年明けから私のいる部署には、大學二年生のの子がインターンとしてってきた。

私が社した翌年はうちの部署には新社員の配屬はなく、これが初めてできた後輩で私としてはとても可がっていたのだ。

後輩ちゃんも年が近いこともあって、懐いてくれたし。

けれど、ひと月ほどがたったあの日。

その日は午後から出勤の後輩ちゃんと待ち合わせして、外でランチした。

今日も午後から頑張ろうね、なんて話ながら帰ってきたところで、後輩ちゃんが八雲専務とぶつかった。

「きゃっ!」

あまりにも勢いよく彼が歩いてきたものだから、後輩ちゃんは突き飛ばされてその場に餅をついてしまった。

「大丈夫!?」

慌てて彼を助け起こす。

けれど八雲専務は彼を冷たく見下ろしただけで、あやまりもせずに去っていった。

「せ、先輩。

わ、私、八雲専務を怒らせちゃったんですかね……?」

後輩ちゃんはガタガタ震えて怯えている。

あのレンズの奧の瞳はそれだけの威力があったし、八雲専務を怒らせてクビになった人がいるとの噂もあった。

「そんなことないよ。

悪いのは向こうだし」

「でも、でも……」

半泣きになっている後輩ちゃんをめる。

「それにあの人、笑わないって有名だよ。

社長の渾のギャグにその場にいた全員が大笑だったのに、八雲専務だけが真顔で立っていた、って。

だから大丈夫だよ、きっと」

でも彼は出勤と同時にインターンを辭めた。

あの八雲専務を怒らせたから、どうせここには就職できない。

それにあんな怖い人の下で働くのは嫌だって。

それだけでも腹立たしいのに、さらに。

翌日になって八雲専務が私のいる部署へ下りてきた。

私を見つけてつかつかとその長い足で一気に距離を詰めて寄ってくる。

「なあ、昨日の子は……」

その眼鏡と同じくらい冷え冷えとした目で、遙か下にある私の顔を見下ろされた。

「あなたのせいで!

あのあとすぐに辭めました!」

あんなに彼を怯えさせ、辭めるまでに追い詰めたくせに、さらに叱責するつもりかと腹の底にカッと火が點く。

「どうみても前を見ないで歩いてきた八雲専務が悪いのに、助け起こさないどころかあやまりもしないで。

しかも睨まれたら怖くて誰だって辭めますよ!」

「ああ、……そうか」

短くそれだけ言って、來たときと同じで顔ひとつ変えずに彼は出ていった。

あんな人でなしが次期社長だなんて最悪だ。

和気藹々としたアットホームでいい會社だと知って社したし、実際もそうだった。

けれど彼が社長になったら會社を辭めよう。

そう、私に誓わせた。

母の再婚によってその男が私の義兄になるのだ。

これほど嫌なことはない。

がしかし、いままで苦労してきた母には幸せになってもらいたいわけで、私が我慢するしかないだろう。

もっとも、もう社會人になった義兄妹でなにかあるとも思えないから、大丈夫だと思うけど。

「最近、涼夏の住むマンションに下著泥棒が出て」

「ほう、それは危ないな」

ぼーっと八雲専務とのあれこれを思いだしている間に、私の話題になっていた。

「被害はなかったのか」

眉間に皺を刻み、八雲社長が訊いてくる。

そういう気の遣い方はすでに、父親のようだ。

「被害のあったのは一階で二階の私の部屋は大丈夫だったんですが。

犯人、二階に登ろうとしていたところを見つかって捕まったので、引っ越しを考えています」

下著ドロが出たのは四月にってすぐ。

春の気にわれたのかなんなのか。

とにかく、ギリギリ被害がなかったのはよかったが、そういう合なので怖い。

それから引っ越し先を探していた。

できれば、いまよりもセキュリティの高いところ。

そうなると、同じ家賃でとなると辺鄙な場所で本末転倒だし、かといってこれ以上の家賃は厳しい。

それでなくても大學進學時に借りた、奨學金の返済に追われているのに。

そういうわけで、ひと月がたとうといういまでも決められずにいた。

「それは有希も心配だろう。

そうだ、仁の部屋に引っ越せばいい」

「……は?」

さもいいことを思いついたかのように社長が頷く。

けれど私と専務は仲良く同じ一音を発し、口は開きっぱなしになっていた。

「仁のマンションの部屋は余っているし、遊ばせておくより涼夏さんに住んでもらった方がいいだろう。

それに、男が一緒に住んでいるとなるとなによりの防犯にもなる」

「それはいい考えだわ!」

母も同意し、うんうんと満足げに八雲社長と共に頷いているが、……どこがいい考えなんだろう。

「いや、父さん。

いい年の、若い男が同じ屋の下とか問題があるだろう」

平靜を裝い、八雲専務が抗議する。

しかしあの彼でも揺は抑えられないらしく、眼鏡の奧の瞳はきょときょとと落ち著きがない。

それは私も一緒だけど。

「私も……その……」

同意だとばかりに小さく手を上げる。

私にこの男とどうこうなんて気持ちはないが、相手の意思はわからない。

いや、下著ドロよりも危険かも。

「もう兄妹になるんだから問題ないだろ。

それに仁には咲夜子さやこさんという婚約者がいるんだし」

「いや、それでも……」

八雲専務はなおも反論しようとしているが、遮るように社長が続ける。

「それともなにか?

お前は妹に手をつけるような最低な男なのか」

「そんなことはないです!」

力強く、専務が言い切る。

社長は納得して頷き、私へと話を振った。

「涼夏さんには付き合っている男でもいるのか」

「えっ、い、いない、……です」

もしかしてそれならば専務との同居が避けられたのかと、生まれて初めて彼氏がしいと思った。

……無理だけど。

「なら、問題はないだろう?」

「……わかりました」

渋々だけれど結局、八雲専務は承知してしまった。

「涼夏さんもいいな」

「えっ、あっ、……はい」

さすが大企業の社長とあって、たたみかけられると反論できない。

こうして私は、苦手な八雲専務との同居に、同意してしまった……。

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