《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第3章 家族 兄妹 !?(1)僕か、千里に頼め

ブラウナランドに行った翌週月曜、會社で仁とお揃いのボールペンを使うかどうか、私は悩んでいた。

『仕事で使うこと。

僕も使うし』

朝、仁はそう言って、私の目の前でビジネスバッグから出した、黒革のペンケースの中へ黒のボールペンをれた。

いや、使うのはいいのだ。

でも、れられたネームが。

「……」

目の高さに持ち上げたペンには、〝Y.Ryouka〟と刻まれている。

母が再婚しても私は八雲社長の養子にはらないことになっているので、姓はこのまま三ツ森だ。

……だから本當は書類上、私と仁は赤の他人なんだけど。

とにかく、ここには本來、〝M.Ryouka〟と刻まれるべき。

だけど仁が言うのだ、これは間違いじゃないって。

『涼夏と僕は家族だ。

なら、同じ姓が刻まれるべきだ』

その理屈はわからなくもない。

仁と家族というのは、私を嬉しくさせるから。

「ま、いっか」

仁に習って、私も持ち歩いているペンケースへれた。

名前には問題ありだが、せっかく買ってもらったのに使わないのはもったいない。

それに仁とお揃いだし。

例の、ドイツメーカーとの契約話と、週末はもう締め日なので會社の中は慌ただしい。

「営業には連絡済み、POP一式準備、と」

倉庫へ向かい、一揃えPOPを箱に詰める。

「うっ、臺車持ってくるべきだったな……」

箱に立ててれた、丸めたポスターが私の視界を奪う。

しかも中はほとんど紙だから、ずっしり重い。

よろよろとなんとかエレベーターに乗り込んだ。

部署のある階でエレベーターが止まり、出たところで誰かにぶつかった。

「す、すみません!」

慌ててあやまると、ひょいっと手の中から荷が消える。

「どこに運ぶんだ?」

おそるおそる見上げた視線の先には、仁の顔が見えた。

きっとまた、千里部長のところへ來ていたのだろう。

「あの!

そんなこと、専務にしていただくわけにはいきませんので!」

慌てて奪い返そうとするものの、仁が手を高く上げてしまって屆かない。

「いいから。

どこだ?」

じろっ、と冷たい目で見下ろされ、思わずひぃっと小さく悲鳴がれた。

「あの、會議室へ……」

「わかった」

観念して、運び先を告げる。

短く頷き、歩きだした仁を追った。

「こういうときは僕か、いないときは千里に頼め。

わかったな」

私にかまわず、つかつかと足早に仁は進んでいく。

「でも、お忙しい専務や部長にこんな雑用を頼むわけには……」

「他の男は絶対にダメだ。

必ず、僕か千里に頼め。

いいな?」

會議室でテーブルの上に箱を置き、振り返った仁は私に、その長い人差し指を突きつけた。

「一応、訊いてもいいでしょうか。

なんで他の男はダメなのかと」

無理して荷運びなどせず、誰かを頼れというのなら、近場の男社員でもいいはず。

でもそれがダメだという理由はいったい?

「そ、それはだな」

「はい」

「それは……」

「それは?」

腕を組んだ仁の視線が斜め上を向く。

そこになにかあるのかと私も見てしまったが、なにもなかった。

「結婚前の妹に、変な蟲でも付いたら困るからだ!

有希さんにも申し訳ないからな!」

ビシッ! とまた、仁が指を突きつけてくる。

「はぁ……。

そうですか……」

これは兄として、過剰な心配をしているんだろうか。

そもそも、私のどこに蟲が付く要素があるのかわからない。

「とにかく、わかったな!」

最後まで私を指さしつつ、仁は會議室を出ていった。

「いったい、なんなんですかね、あの人は……。

あ、お禮を言い忘れたじゃないですか」

を運んでくれたのは嬉しかったけれど、なにが言いたかったのかは全くわからなかった。

ただ、學習したのは。

「次からはめんどくさがらずに臺車を使おう……」

そうすれば無駄に仁と千里部長の手を煩わせなくてすむ。

お晝に社食の隅で、土曜日撮った寫真を見ながらごはんを食べていたら、後ろからびてきた手が攜帯を奪う。

「えっ、あっ、ちょっと!

返してください!」

「ふーん、仁とブラウナランド行ってきたんだ?」

私の前にトレイを置き、座った千里部長は攜帯を返してくれた。

「どうだったよ?」

いただきます、と手をあわせるのは仁と一緒でじがいい。

「た、楽しかったですよ」

「ふーん。

もっと寫真、見せろよ」

興味なさそうにカツカレーを大きな口で頬張っているくせに、さらっと言ってきた。

「い、いいですよ」

別にやましいものもっていないので、ロックを解除して千里部長へ攜帯を渡す。

「こりゃまあ、あの仏頂面がにこにこ笑って!

昨日の雨はこいつのせいか!」

今度はおかしそうにくつくつとのどを鳴らして笑いながら、彼は攜帯を返してくれた。

「それはひど……くないかもです」

「だろ?」

昨日の日曜、天気予報は曇り、降水確率三十パーセントだったにも関わらず、土砂降りの大雨。

昨日行っていてよかった、なんて笑いあっていたくらいだ。

「ふーん、でもあの仁が、三ツ森の前だとこんな顔して笑うんだな」

ふっ、と、とてもらかい眼差しで千里部長が僅かに笑った。

「あの、千里部長にだって……」

「馬鹿言え。

仁がこんな顔で俺に笑いかけたら、気持ち悪くてしょうがない」

想像したのか、千里部長は肩をすくめてぶるりとを震わせた。

「仁にとって、三ツ森はそれだけ特別な存在だってことだ」

なんだか、からかうように彼はニヤニヤと意地悪く笑っているけれど。

「それは、妹だからじゃないですか」

仁にとって私は、それ以上でもそれ以下でもないはず。

「ん、まあ、いまはそういうことでいいや」

ガツガツと殘りを、千里部長は勢いよく掻き込んだ。

「ごちそうさん。

午後から出てくるから、あと頼んだな」

「はい、わかりました」

軽く手を振りながら、千里部長は行ってしまった。

しかし、さっき彼が言っていたのは、どういう意味なんだろう?

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