《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》第3章 家族 兄妹 !?(7)勝負の賞品は私?

「仁、ひさしぶりに勝負しよーぜ」

トイレから戻ってきた千里部長がくいっと親指で、リビングの一角に鎮座しているビリーヤード臺を指した。

「……いいだろう」

ふたりがそちらへ移するので、私も著いていく。

「ゲームは?」

「ナインボール。

その方が三ツ森もわかりやすくていいだろ」

「わかった」

仁は準備をはじめたけれど、私はルールなんて知らないんですが。

「三ツ森は見學な。

いまからはじめるナインゲームっつーのは、簡単にいったら一番から九番までのボールを順番に落としていって、最後に九番を落とした人間の勝ち」

わかったような、わからないような。

まあ、見學ならいいかな。

「んで。

なに、賭けるよ?」

右頬を歪め、千里部長が仁を煽る。

「君の好きにしたらいい」

けれど仁は乗ることなく、冷靜にキューを手に取った。

「……じゃあ。

三ツ森、とか」

「はいっ!?」

なぜか私の名前が出てきて、変な聲がれる。

「俺が勝ったら三ツ森は俺のもの。

三ツ森は俺と付き合え」

「えっ、あっ、ええーっ!?」

素知らぬフリで千里部長がキューを手に取る。

ふたりの間には靜かに火花が散っていた。

「僕が勝ったら?」

仁が勝ったら?

そのときは――仁と付き合う、の?

その事実に気づき、心臓がどくんと大きく跳ねた。

でも私と仁は兄妹で。

けど戸籍は別だから他人であって。

いや、それ以前に、私は仁に、そんななんて――。

「考えてなかったわー。

……ん、わかった。

三ツ森を書に譲ってやる。

いいぞ、三ツ森は。

よく気が利くし」

仁と千里部長が同時に球を突き、反対側のヘリに當たって戻ってきた。

「俺が先行、っと」

仁より手前まで球が戻ってきた千里部長が、嬉しそうに笑う。

「さっきからなに言ってんですか、第一、私に仁の書なんて無理ですよ!」

千里部長と付き合うだとか、仁の書だとか。

この人たちは本気なんだろうか。

「了解だ」

ニヤッ、と仁がを歪めて笑う。

「ちょっと待ってください、仁も本當にいいんですか!?」

「待ったなし、っと!」

賞品になっている私はおいてけぼりで千里部長が手球を突き、ゲームがはじまった。

「一応訊いておくが。

彪は涼夏をしているのか」

ごと、と一番の球がポケットに落ちた。

続けて千里部長が二番の球を狙って手球を打つ。

「もちろん、してるに決まってるだろ。

……とか俺が言ったらどうするんだ?」

二番も危なげなくポケットに吸い込まれる。

もしかしてこのまま全部、千里部長が落としてしまうんじゃ?

「彪が真剣に涼夏をして幸せにするのならかまわない」

「そうか、よっ!」

手球が打たれ、三番の球に向かっていく。

仁は兄として、妹の私を幸せを願ってくれているだけ。

わかっているのに、脇がじっとりと汗を掻いてくる。

「くそっ!」

白球は三番を掠め、し先で止まった。

三番の球を落とすことができず、千里部長が悪態をついた。

すかさず、仁がその球をポケットにれる。

「じゃあ俺が、三ツ森と結婚してもいいんだな」

「ああ、かまわない。

必ず幸せにできると約束できるなら」

その後は順調にミスすることなく、仁はつぎつぎに球をポケットに沈めていった。

「するに決まってんだろ。

というか、そんなこと訊くお前は、幸せにしてやらないのかよ」

「僕は……」

言い淀んだ仁が、七番の球を外す。

「よっしゃっ!」

千里部長がガッツポーズした。

もしこのまま全部、彼が落としてしまえば彼の勝ち、だ。

「三ツ森はどっちに幸せにしてほしい?」

「私は……」

すぐに千里部長が七番を落とし、私が迷っている間に八番も落とした。

殘りは九番のみ。

あれを千里部長が落とせば、私は彼と付き合うことになる。

「どっちだ?

早く決めないと俺が落としちゃうぞ」

「わ、私は……」

どっち?

そんなの、わかんない。

だって私は――が、怖い。

「もう待てないぞ、っと!」

千里部長が突いた手球が九番に當たる、カツンという音が妙に大きく響いた。

祈る気持ちでその行き先を見つめる。

「ああーっ」

千里部長の落膽の聲と共に、腰が抜けてその場にぺたんと座り込んだ。

私はどうなってほしいと思っていた?

なんでいま、こんなにほっとしているんだろう。

「もういいだろ。

だいたいこんな涼夏の意思を無視した賭、いいわけがない」

自分だって乗っていた癖に、仁はテーブルの上に殘った九番の球を取り上げ、片付けをはじめた。

「仁はさっきの答え、どうなんだよ」

キューを臺に戻していた仁の手が、一瞬止まる。

「僕か?

幸せにするにきまってるだろ。

……兄として」

でもすぐに何事もなかったのように終わらせ、私へ手を貸してくれた。

「涼夏、大丈夫か」

「……はい」

仁の手を借りて立ち上がる。

さっきのしの間、仁は一なにを考えていたんだろう。

こちらには背を向けていたからわからなかったけど。

「すまなかったな、変な賭の賞品にしたりして」

「ええーっ、俺はけっこう、本気だったんだけどなー」

そう言うってことは、冗談だったんだ。

本気かと思って、パニクってた私がバカみたい。

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