《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》最終章 社長、婚約者、結婚!?(6)私はまだなにか、誤解してる?
朝になっても仁は帰ってこなかった。
「……」
咲夜子さんとふたり、向かいあって食べる朝食は非常に気まずい。
「ほら、さっさと食べちゃって。
殘すなんてダメよ。
今日はたくさんくんだから、しっかり食べておかないと」
「……はい」
仕方なく、口の中に詰め込んで流し込む。
食事が終わったら強引に、街へと連れ出された。
「うーん。
どんなのがいいかしら?」
私が絶対行かない高級ブティックで、咲夜子さんは私の服を選んでいる。
「あの……」
「けっこうが白いから、パステルなんてよく映えると思うのよね」
私の意見なんて完全無視で、彼は私を著せ替え人形にしていくつも試著させた。
いいんだろうか、婚約者である仁が家を出ていってどこにいるのかわからない狀態なのに、こんなことをしていて。
「うん、これにしましょ」
「はぁ……」
どうしてそんな結論が出るのかわからない。
服と顔が全くあっていないのに。
「あっ、払います……!」
「いいの、いいの。
義姉からのプレゼントだから、遠慮せずにけ取っちゃって」
止める間もなく咲夜子さんが會計を済ませてしまう。
それは、そのあと行った靴やアクセサリーショップでも一緒だった。
「疲れたわ。
ちょっと休憩しましょ」
「はい……」
適當にったお店が高級イタリアンで驚いた。
もっとも、周りの店のほとんどがセレブ用達だから、そうなるんだろうけど。
「荷持ちがいなくなると、ほんと困っちゃう」
「そう、ですね……」
はぁっ、と呆れるように咲夜子さんがため息をつき、とりあえず笑ってあわせておいた。
クロークに預けた大量の紙袋は全部、私が持ち歩いている。
別に嫌々じゃなく、買ってもらったのでせめて、と。
「あいつ、いつもそうなのよ。
がバグるととりあえず逃亡するの」
「がバグる……」
とは、どういうこと?
「あいつの中にはこういう場合、こういうを持つべきだって定義があるのね。
でもそれと違うを持ってしまったときにどうしていいのかわからなくなって逃げるの」
それはなんとなく、思い當たる節がある。
インターンの後輩の件のとき、私に叱られた仁はなにも言わずに、唐突に去ってしまった。
あのときもそうだったのかもしれない。
高級イタリアンだからと構えたが、咲夜子さんが自然なのでさほど張せずに済んだ。
それでもいまの狀況じゃ楽しめないけど。
「私と初対面のときも、會った途端に逃げたのよ?
ありえる?」
「えっと……」
フォークを振るのはちょっと行儀悪くないかな、と思いつつもスルーする。
「まあそれだけ、私たちの相が最悪だって一目でわかったんでしょうけど。
私もそうだったし」
しだけ眉を寄せて咲夜子さんが笑う。
最悪……なのかな。
そういえば仁は咲夜子さんがすることになにも反対しなかったけど、もしかして面倒くさかったから?
「私たちはそういう関係だから、あなたが気にすることはないの。
所詮、親が決めた結婚だし」
「え……」
突然の彼の言葉はいったい、なにを意味しているのか見當が付かない。
「でも仁は咲夜子さんをしてるんじゃ……?
だって同じアクセサリーを私にプレゼントして代わりに……」
「は?」
鴨のローストを口にれようとして、咲夜子さんが止まる。
そのままいったん、フォークを下ろした。
「バカじゃないの、あいつ!
自分のセンスに自信がないからって、他のが持っているのと同じものをプレゼントするなんて!」
盛大に、咲夜子さんはあたまを抱えてしまった。
「あいつにプレゼント選びのセンスがないのは知っているでしょ?」
「ええ、はい」
そのせいでつい、千里部長に愚癡ってしまったくらいだし。
「きっとそれで困って、安直に年の近い私の持っているものならあなたも喜ぶだろうって選んでるのよ。
ほんとバカだわ」
はぁーっ、と咲夜子さんの口から落ちたため息は深く重い。
「それって……」
本當は、私を喜ばせようとしてくれていた?
代わりじゃなくて?
「そういうこと。
どこまでバカなのかしら、あいつは」
千里部長は仁はいろいろわかりにくい人間だと言っていた。
それはすでに、わかっているつもりだったけど……まだ私は、仁を誤解している?
「まあいいわ。
……早く食べてしまいなさい?
まだ次がつかえているから」
「あっ、はい!」
ぼーっと考えるのをやめて、急いでまた食べはじめた。
仁にちゃんとあやまりたい。
それでまだ、やり直せるかな。
妹としてでいいから。
食事のあとは容室へ連れていかれた。
「この重たい髪、どうにかして」
容師に命令して、咲夜子さんといえば優雅にソファーで、雑誌片手にお茶をはじめた。
「よろしくお願いします……」
「おまかせください」
容師のお兄さんの手で、重たいボブはあっという間に軽やかされボブに変わっていた。
さらに化粧を施され、先ほど買った服に著替えさせられる。
促されるように後ろから咲夜子さんに肩を叩かれ、鏡を見た。
「えっ。
これ、誰ですか……?」
「誰って涼夏さんだけど?」
ウェストに黒のリボンベルトのあるピンクのワンピースを著て、鏡の中からこっちを見ているのが私だなんて信じられない。
あの、特徴のない顔はどこへ?
「せっかく化粧映えする顔をしているのに、なにもしないなんてもったいないわよ。
これからはちゃんとなさい?」
「そう、します……」
自分でも知らなかった、私がこんなに可いなんて。
こんな顔、化粧したって無駄だって諦めていた自分がバカみたい。
「あなたは、人よ?
まあ、私には劣るけど。
だからもっと、自分に自信を持ちなさい。
顔を上げて背筋をばし、あなたが本當に歩きたい道を歩みなさい」
鏡越しに真っ直ぐに咲夜子さんが私の目を見つめる。
「あなたは私のようになっちゃダメよ」
彼らしくなく、気弱に微笑んで私から離れた。
「咲夜子さん……?」
「さて。
そろそろ時間ね」
振り切るように咲夜子さんが自信満々に笑う。
けれどそれはまだ、どこか傷ついているように見えた。
なにか言葉をかけないと、とは思うけれど、私にはそれが見當たらない。
考えている間に店を出て、咲夜子さんは私をタクシーに乗せた。
「いまから行く先で仁が待ってる。
行って、仁に自分の気持ちを伝えてらっしゃい」
「え……?」
今日の彼はなにがしたいのだろう。
仁の話をしたり私を可くしたり。
「あなたたちがどういう結論を出そうと、私は口を出さないわ。
でも、絶対に後悔だけはしないようにして」
私の手を摑んだ咲夜子さんが、強い目で私を見つめる。
その目は、私にそうしないといけないと誓わせた。
「はい」
私も、力強く頷き返す。
きちんと、仁と話をする。
後悔のないように。
「じゃあ、いってらっしゃい」
タクシーは高級ホテルのエントランスに停まっていた。
「あの、咲夜子さんは」
「ふたりで話をするの。
ほら、行って」
「わかりました。
行ってきます」
追っ払われるように手を振られ、あたまを下げてホテルにった。
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