《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》最終章 社長、婚約者、結婚!?(8)一緒にいたい、でも……

翌朝、仁とふたりで帰ったマンションには、咲夜子さんの姿はなかった。

「これ……」

リビングのテーブルに置かれた手紙を読んだ仁は、私にも渡してきた。

そこにはお幸せに、さっさと婚約解消を実家に連絡してちょうだい、と書いてあった。

「咲夜子さん、いいんですか」

「いいんだ。

あいつはイギリスに好きな男がいるからな。

ここに來たのも大方、それで実家に帰れないからだろう」

テキパキと電話をかけはじめた仁の口からは、婚約を解消、改めてご挨拶に、なんて言葉が出ている。

「さて。

あとは父と有希さんを説得しなければな」

やっぱり反対されるのかな。

ううん、絶対仁とだったら、乗り越えられる。

支度を済ませて仁の実家に向かう。

妹にし損ねた私へのプレゼントだと咲夜子さんが置いていった化粧品で、見よう見まねでメイクした。

「……可い」

眼鏡を上げた仁が私から目を逸らす。

「そんなに可くなったら家から出せない」

「えっ、あっ!」

ハンカチを出したかと思ったら、ゴシゴシと顔を拭いてきた。

「化粧は止だ。

こんな可い涼夏を知られたら、誰かに取られる」

「ちょっ!

わかりましたから!」

仁を待たせ、ちゃんとクレンジングで落としてを整える。

あんなに仁がヤキモチ妬きだなんて知らなかった。

……ん?

もしかして兄妹だから普通とか言って私に挨拶のキスをしていたが、あれは本當はしたかったからとか?

「これならいいですか」

いままでどおりのメイクで仁の前に出る。

「それならまあ、いい」

ようやく許可が出て安心した。

これからはちゃんと化粧しようと思っていたけど、どうしようかな……。

実家では急な來訪にもかかわらず、巌さんも母も快く迎えれてくれた。

「今日は話があるということだが」

和やかな雰囲気のふたりとは違い、私も仁も張していた。

仁の婚約を破棄して、付き合いたいなんて反対されるに決まっている。

「その」

「うん」

「涼夏さんと結婚させてください!」

「うん?」

私と巌さんの口から、同じ二文字が出た。

巌さんはもちろんそうだろうけど、私にとっても想定外だったから。

「……はぁーっ。

なにを言いだすかと思えば」

深い息を吐き出した巌さんは、厳しい目で私たちを見た。

「仁には婚約者がいる。

そしてお前たちは兄妹だ。

そんなこと、認められるわけないだろ」

彼の言うことは正しい。

私だってわかっている。

それでも私は仁といたい。

「神月には婚約破棄を申し出ました。

きちんと筋を通して説得します。

涼夏とだって戸籍上は兄妹じゃないんだ。

問題はないはずです」

ピシッと姿勢を正したまま、仁が巌さんの説得を続ける。

「世間というものがあるんだ!」

ドン!と巌さんがテーブルを叩き、ガシャンと食が跳ねた。

「世間がなんだ!

そんなものに僕は屈しない!」

「お前ひとりがよくても、會社のイメージにも繋がってくるんだ!」

「なら、僕は社長になどならない!

會社も辭める!」

仁が、そこまで思ってくれているのだとじん、とが熱くなる。

でも、そんなことダメだ。

だって仁は、いままでそのために努力してきたのだから。

それが全部、私のためにダメになるなんてあってはならない。

「あの!」

私が聲を上げると全員の視線が集まり、一瞬、怯んだ。

けれど小さく一度深呼吸して自分の気持ちを伝える。

「私は自分が、仁を好きだって認めるのが怖かったです。

だって、父と母があんな別れ方をして、それからずっと恐怖癥だったから」

申し訳なさそうに母が視線を逸らす。

ううん、母さん。

私は母さんを恨んでないよ。

むしろ。

「でも、母と巌さんを見ていたら、もいいかなって思えてきて。

それで、仁を好きだって自分を認めてあげることができました」

ずっとずっと怖かった。

でも、母と巌さんが、咲夜子さんが、きっと千里部長も背中を押してくれた。

「仁が好きです。

仁とずっと、一緒にいたい。

でも、それで仁が社長になれないっていうのなら。

……私は仁を、諦めます」

最後の言葉はがつかえて震えていた。

口を開こうとした仁の手を摑んで、じっとその目を見つめた。

私はこれでいいから。

仁を私の犠牲にしたくない。

私を見下ろす、彼の目の縁は、眼鏡の影で赤くなっていた。

「……涼夏」

わかってくれたのかと息をつこうとした、が。

「……そんなこと、僕が許さない」

私を抱き締めた仁が、ぼそっと耳元で囁く。

「僕は社長就任を辭退します。

會社も去る。

僕は涼夏がいないと生きていけないから」

真っ直ぐに巌さんを見る仁の目に迷いはない。

それでもダメだと何度も首を振った。

「いいんだ、涼夏。

誓っただろ、ずっと涼夏と一緒にいるって」

笑っている仁には微塵の後悔もなかった。

いいのかな、本當に。

私のためにこんな決斷させて。

「……そんなことを言われたら、許すしかなくなるじゃないか。

なあ、有希」

「はい、あなた」

抱き寄せた巌さんに母がそっと寄り添う。

「父さん……?」

仁とふたり、顔を見合わせた。

きっと許してもらえないのだろうと思っていたのに。

「娘からこんなに嬉しいことを言ってもらえるだけでも天にも昇りそうなのに。

……仁」

仁に視線を向けた巌さんの顔は、経営者からただの父親になっていた。

「お前がこんなに我を通すなど初めてだ。

頼子よりこが死んでからというもの、なにひとつワガママを言わなかったお前が。

それほどまでに涼夏さんが大事なんだな」

「はい」

巌さんが目を下げ、これ以上ないほど幸せそうに笑う。

「とやかく言う奴は実力で黙らせろ。

いままでお前が、そうしてきたように」

「はい。

ありがとうございます……!」

仁と一緒にあたまを下げた。

まだこれからもいろいろあるだろうけど、それでもこれで一安心だ。

「ねえ、あなた。

一緒に結婚式を挙げるとか素敵じゃない?」

「おお、それはいい考えだ」

一瞬前まではあんなに厳しく反対していたとは思えないほど、巌さんは母に甘く同意している。

「と、いうわけだから。

いいな、お前たち」

「……」

「いいな!」

「……はい」

母にどこまでも甘い巌さんは、母の言いなりみたいだけど……大丈夫、なのかな?

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