《【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族~》エピローグ 神、初、義妹!?~仁side

父の再婚相手とその娘との顔合わせが終わり、僕はその足で友人の彪のもとを訪れていた。

「聞いてくれ。

最悪なんだ」

出してくれた缶ビールを一気にごくごくとへと流し込む。

もう酔っ払いでもしないとこんなこと、正気でいられるはずがない。

「最悪ってなにが最悪なんだよ。

今日は社長の再婚相手に會ってきたんだろ?

あ、あれか。

財産目當ての最低なだったとか?」

他人事のように、というかこいつにとって完全に他人事なんだが、ケラケラと面白そうに笑いながら、彪は冷蔵庫から出したビールを新たに僕の前へ置いた。

「いや、有希さんはとてもいい人だった。

いし、父が惚れるのもわかる」

プルタブを起こし、さらに口をつける。

館巡りが趣味の父が、どこかのマイナーな館に取材に來ていた彼と出會ったのはいつだったか。

とても素敵な人に會ったと聞いたっきりその後の話は聞いていなかったので、まさか再婚なんて話になっているとは思わなかったが。

「なら、なにが最悪なんだよ」

彪も僕の前に座り、持ってきたビールを飲みはじめた。

「再婚相手の娘が、三ツ森さんなんだ。

このままでは三ツ森さんと兄妹になってしまう」

「三ツ森って俺の部下の三ツ森かよ」

「ああ」

ぐいっとさらに、ビールを呷る。

「そりゃ……ご愁傷様としか言いようがないな」

「くそっ、なんでこんなことになっているんだよ」

缶を傾けたが、すでに空になっていた。

もっと寄越せと彪を睨んだら、今度は氷とウィスキーを持ってくる。

「まあ飲め。

飲んで忘れろ。

……って、事実は消えないからな……」

「……はぁーっ」

著いた酒臭いため息は、どこまでも憂鬱なをしていた。

僕が三ツ森さんと出會ったのは、三ヶ月ほど前。

その日、急いでいた僕は誰かとぶつかった……気がした。

なにしろ、いまから向かう得意先の案件であたまはいっぱい、それ以外のことは全く目にっていなかったから。

夜、家に帰ってようやく、晝間犯した自分の過ちに気づいた。

あろうことかとぶつかって転ばせ、あやまりもせずに立ち去ってしまったなんて。

「謝罪せねば……」

しかし父と違い、全社員の顔と名前があたまにっているわけじゃない。

途方に暮れかけて、一緒にいたのが彪が可がっている部下だと思いだした。

翌日、彪が率いる部署、営業戦略部に降りる。

すぐに彼を見つけて聲をかけた。

「なあ、昨日の子は……」

みるみる彼の顔が怒りに染められていく。

言い終わらないうちに、噛みつかれた。

「あなたのせいで!

あのあとすぐに辭めました!」

辭めた?

僕のせいで?

呆然と立ち盡くす僕に彼がさらに続ける。

「どう見ても前を見ないで歩いてきた八雲専務が悪いのに、助け起こさないどころかあやまりもしないで。

しかも睨まれたら怖くて誰だって辭めますよ!」

真っ直ぐに僕の目を見つめ、彼が僕を叱ってくる。

なぜかそれが――酷くしく見えた。

いや、こんなときだ、申し訳ないとかいう気持ちにならなければいけないはずだ。

でも僕を恐れることなく、僕を叱る彼しく、――神だ。

などと考えている自分が理解できない。

「ああ、……そうか」

結局、自分のを処理できなくなった僕はその場を逃げた。

昔からの悪い癖だ。

わかっているのだが、この年になっても治らない。

専務室に戻ってきて、自分のがドキドキと高鳴っていることに気づいた。

「なんだ、これは……?」

と付き合ったことはあるが、いままでこんな気持ちにはなったことがない。

もっと彼のことが知りたい。

もっと彼を見ていたい。

抑えきれない求が次から次に出てくる。

「意味がわからない」

冷たい水を飲めば、幾分気持ちも落ち著いた。

いま、僕がやらなければならないことは、この謎のの分析ではなく、昨日のあの子への謝罪のはずだ。

もう一度、営業戦略部へ降りようかと思ったが、また彼に會うのかと思うと、謎の悸が起きるのでやめた。

代わりに、彪を呼びつける。

「お前が俺を呼びつけるなんて珍しいね」

しばらくしてやってきた彪はおかしそうにくつくつと笑った。

「あれか?

また三ツ森に怒られるのが嫌だからか」

「さっきの子は三ツ森というのか」

平靜なフリをしながら、よし、名前ゲット! などと心はしゃいでいる自分が理解できない。

「いい子だぞー。

気は利くし、有能だし。

それに化粧がヘタだからあれだけど、絶対ちゃんと化粧したらあれはバケる」

「そうか」

なぜか、バケるとかいう彪にムッとした。

三ツ森さんはあのままで、十分しいのに。

「それで、なんの話だったっけ?」

自分から無駄話を振って本題を忘れるのは彪の特だから、そこはスルーした。

「昨日、君の部署で辭めたがいるだろ。

のことについて知りたい」

「ああ、室戸むろとのこと?

まいるよなー、インターンとはいえ突然辭められると」

彪の口ぶりからは全く困っているようには思えない。

「ああそうだ。

辭めたの、お前のせいだから責任取って?」

「……らしいな」

僕には三ツ森さんが言っていたような睨んだつもりなどないのだが、考え事をしていて表が消えると、どうも冷たく見えてしまうようだ。

し前も考えに集中するあまり、話しかけてきた社員に適當に相づちを打っていたら、八雲専務を酷く怒らせてしまった、もうここにはいられないと勝手に辭めていった。

全くもって解せん。

「その件は謝罪の手紙を送らせてもらう。

人手は……考えておく」

「よろしく頼むぞ。

將來の新社員、ひとり逃がしてるんだし」

「うっ」

耳が痛いが、自分が悪いんだから仕方ない。

室戸さんにはそのあと、誠心誠意お詫びと、よかったらインターンとして戻ってきてもらえないだろうか、悪いようにはしないと手紙を書いて送った。

しかし斷りの手紙が返ってきて、そこまで怯えさせたのかとさすがに落ち込んだ。

あれから僕はなにか用で彪のところへ行ったとき、さりげなく三ツ森さんを観察している。

「どうぞ」

ここでは、彼が必ず飲みを出してくれた。

が淹れてくれたってだけでいつもは味をじないお茶が、味しいと思ってしまうのはなんでだろう。

そのうち、三ツ森さんがよく彪と一緒にいるのに気づいた。

しかも楽しそうに話までしている。

上司と部下だからといわれればそれまでだが、それでも得も言われぬがわき上がってきた。

三ツ森さんを知ってひと月ほどたった頃、僕はひさしぶりに彪と飲みに出ていた。

「なあ。

彪と三ツ森さんは付き合っているのか」

きっとそのとき、僕はかなり酔いが回っていたんだと思う。

そうじゃなきゃ、こんなこと。

「なんでそんなこと訊くんだよ。

あ、もしかしてお前、三ツ森のこと」

ニヤニヤ笑いながら僕をはやし立て、彪はグラスのバーボンをぐいっと呷った。

「バッ、バカをいうな……!

そんなこと、あるわけ……」

はた、とそこで言葉が止まる。

もしかして、そうなのか?

三ツ森さんを見るたびに起こる謎の悸も、彪に笑いかける彼に嫌な気持ちになるのも、それならば全部、説明が付く。

「あるわけ、なんだよ?」

「あるわけある」

「なんだよ、それ」

彪のケラケラという笑い聲を聞きながら、ようやく自分の気持ちがわかってきた。

これが、好きという

きっといままで付き合ってきたにはこんなが持てなかったから、すぐに別れてきた。

今頃になってようやく、その事実を知る。

「僕は彼が好きだ」

三十になってやってきた、遅すぎる初

が、こんな気持ちだなんて知らなかった。

「おー、そうかよ。

でもどうするんだ、婚約者は」

「……」

黙って、スコッチを舐めた。

彪の言うとおり、僕には大學を卒業してすぐに決まった、婚約者がいる。

いまはイギリスに留學しているが。

「務めは果たして咲夜子と結婚する。

けれど僕が誰を好きになろうと勝手なはずだ。

想うだけならば」

僕はただ、三ツ森さんの幸せを見守ろう。

が幸せならば、それでいい。

「つらいぞ」

「かまわない」

僕には、その道しか選べないのだから。

なのに、彼は父の再婚相手の娘として現れた。

名前を聞いたときにまさか違うだろうと高をくくっていたが、彼がその場に現れるとショックが大きい。

そんなこんなでしでもショックを和らげるために、彪の家を訪れたというわけだ。

「でもまああれだ、妹っていったって、そうなにかあるわけじゃなし」

適當なことを言って彪がめてくる。

がしかし、深刻な問題があるのだ。

「……同居することになった」

「へえ、そうか。

はぁっ!?」

流していた彪もさすがに、目をこれ以上ないほど見開いて僕を見てきた。

「なんで、また」

「三ツ森さんの住んでいるマンションに下著ドロが出たらしい。

それで引っ越し先を探していて、なら……と父が」

下著ドロは恨んでも恨みきれない。

そんなものが出なければこんなことには。

……あ、いや、けれど今回出なかったとしても、彼はそんな危険なマンションに住んでいるということで、それはそれで悩ましい。

「また社長はなんで。

仁と同居なんて下著ドロより危険だぞ」

「……うるさい」

手近にあった空き缶を投げつける。

けれど彪は危なげなくキャッチして、余計に腹が立った。

「……でも、妹になるんだ」

こんなことでもなければ、永遠に彼と僕の道はわらなかった。

けれど妹に、――家族に、なるんだ。

「仁?」

「よし、決めた。

僕は三ツ森さんの兄になりきる。

兄ならば彼の幸せも見屆けられるからな」

これでもう、彼は他人ではなくなる。

たとえ夫婦にはなれなくても、家族になれるのならば。

それはそれで、喜ばしい。

「できるのかよ」

「できるか、じゃない。

やるしかないんだ」

「……そうかよ」

彪はそれっきり、黙ってしまった。

また彼なりに心配をしてくれているのだろう。

彪は口が悪くて態度もでかいが、面倒見がいいから。

だから僕もここまで気を許しているのもある。

「僕は三ツ森さん――涼夏の、兄になる」

もう、そう決めた。

それしか、僕の選べる道はないのだから。

これは、僕と涼夏の長い夏がはじまる直前の話。

【終】

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