《同期の曹司様は浮気がお嫌い》2
「いいよ……波瑠はベッドで寢て」
「でも……」
ソファーに寄りかかる優磨くんを見ていたら申し訳なくなる。
「大丈夫……だから寢室の話は止」
「そう?」
「これでも結構必至だから」
「え?」
「寢室の話されると……そっち行きそうになる……」
「それってどういう……」
「先風呂るね」
突然立ち上がった優磨くんはバスルームに行ってしまった。
やっぱり疲れているのだろう。本當は大きなベッドで寢たいはず。でも私に遠慮して言い出せないのかもしれない。
早く仕事探して部屋を借りなきゃ。優磨くんの負擔にならないように。
◇◇◇◇◇
「波瑠ごめん、金下ろし忘れた。これで足りるかな?」
優磨くんに渡されたお財布を開けると千円札が數枚しかっていない。
「うん、大丈夫。今日はそんなにたくさん買わないつもりだし」
「もし足りなかったらカードで払って。財布そのまま預けるから」
「え?」
クレジットカードが何枚もっている財布を預けられて恐する。
「優磨くんお財布持たないで行くの?」
カバンに書類を詰め込む優磨くんの後ろから話しかける。
「車にも別の財布があるから大丈夫。波瑠はそれ使って」
私がこの財布を持つことが怖くなる。絶対に落とさないようにしないと。
「今日は頑張って早く帰るから一緒にご飯食べよう」
「でも無理しないでね。優磨くんのペースでいいから」
私の言葉に優磨くんは微笑む。いつも笑顔を向けてくれるから安心して甘えたくなってしまう。
「悪いけど今日は先に出るね。送っていけなくてごめん」
「気にしないで。いってらっしゃい」
優磨くんを送り出すと私も出勤の準備をする。ここのところ調が良い。退職を決めたから回復するなんて自分のはわかりやすい。
退職日まであとしだし、頑張ろう。
優磨くんの財布をれたカバンを離さず置いて、帰りもいつも以上に気を張って移した。
こんなにカードがっているのだから萬が一落としたり盜まれたりしたら大変だ。財布自もブランドの上等なものだし。
スーパーに寄ると週末の獻立に迷ってしまう。私が作るものは何でもおいしいと言ってくれるから結局私が食べたいものを作ってしまうけれど、優磨くんの好きなものを中心にしたい。
あれもこれもと考えているとカートが食材でいっぱいになる。
怒られるかな? 無駄遣いするなって言われたらどうしよう。でも作ってあげたい料理だし……。
結局現金では足りなくてカードで支払うことになってしまった。
今夜はカレーにしよう。明日からの休みはちょっと気合いれて作ろうっと。優磨くん喜んでくれるといいけど。
歩きでは辛いほどの大きさになったビニール袋を持ちながらマンションに帰って、一人暮らしには大きすぎる冷蔵庫に食材をしまっていく。
この冷蔵庫も他の家家電も一人暮らしにしては大きいな。さすが財閥の曹司……ああでも、優磨くんはきっとそう思われるのが嫌いなんだよね。城藤の名前を出されることを嫌がっているようだから。社したばかりの時も『城藤』とは呼ばずに下の名前で呼んでくれってお願いされたっけ。みんな優磨って呼ぶのに優磨くんはみんなのことを苗字でしか呼んでないな。今思うと人と距離とってたのかな。
野菜を切って煮込んでいる途中で玄関のドアが開く音がした。それなのに優磨くんはリビングに顔を出さない。不思議に思って玄関に行くと収納棚の扉に付けられた鏡をじっと見ている。
「おかえり、どうしたの?」
「ただいまー……ねえ、ネクタイにシミついてる?」
「え?」
優磨くんは私に向けてネクタイを見せるから顔を近づけた。
「うーん……これかな? 黃いのが點々と……どうしたの?」
「お晝にカレーうどん食べたら飛んじゃって……他には? シャツには飛んでない?」
優磨くんの元を見るけれど他は大丈夫そうだ。
お晝がカレーうどんということは、夜もカレーじゃダメじゃん。
「夕飯カレーなんだけ……」
言いながら顔を上げると至近距離に優磨くんの顔がある。見つめ合ってしまい、私は勢いよく顔を逸らした。
「っ……ごめん!」
慌てて離れると優磨くんも「ごめん……」と顔を真っ赤にして、私の橫を抜けてリビングに行ってしまった。
「………」
思わず両手で自分の頬をる。橫の鏡を見ると優磨くんと同じくらい顔が赤い。頬は熱を持っている。
いくらなんでも近寄りすぎた。適度な距離を保つと決めたのに、これはルール違反になりかねない。
リビングに戻ると「今日カレーのつもりだったけどシチューにするね」と寢室で著替える優磨くんの背中に話しかける。今ならまだシチューに方向転換できる。ご飯は炊いちゃったけど明日食べればいいや。
優磨くんは何も言わず寢室から出てきた。私の顔を見ようとしないので怒っているのか不安になる。私がここに居るだけで落ち著かないだろうに、プライベートを邪魔されていい気がしていないかもしれない。馴れ馴れしくしちゃいけない。只の同居人がを近づけちゃダメだ。
「あの……優磨くんはシチューはパン添える派? それともシチューをご飯にかける派?」
「………」
「優磨くん?」
「あ、ごめん……どっちでもいいよ。波瑠に合わせる」
「そっか……」
目を合わせてくれなくなって困った。近づいたのがよくなかったよね……パーソナルスペース大事。
「ネクタイはシミ落ちるかやってみるね」
「うん……ごめん」
ごめん、なんて言わなくてもいいのに。優磨くんのためなら私はどんなことでも苦じゃないのだから。
會話のないままシチューを食べた。気まずいけれどテレビでバラエティ番組を流してくれたのは救いだ。靜かだったら耐えられない。
食べ終わって食を洗っていると優磨くんが聲をかけてきた。
「明日の休みどっか行こうか」
「あ……ごめん、明日面接なの」
「え? もう?」
「早く仕事決めないとダメじゃん? だから早速明日頑張ってくる」
せっかく優磨くんがってくれたのに申し訳ない。けれど私にとっては大事なのだ。
「そんなに早く決めなくてもいいんじゃない? 辭めたらしばらく休みなよ」
「甘えっぱなしは悪いし」
「俺は甘えてくれてもいいんだけど」
いつの間にか優磨くんが後ろに立っている。その顔はどこか不安そうだ。
「俺が洗うから波瑠はお風呂ってきな」
「でも……」
「いいから」
また怒った顔を見たくなくて片づけを優磨くんに任せることにした。
「あ、そうだ。お財布返すね」
私はカバンから優磨くんの財布を出した。
「結局カードで買っちゃいました……すみません……これがレシート。あとでカードの明細もちゃんと確認してね」
「大丈夫だよ、そこまで気にしないから」
片づけ終わった優磨くんは私から財布とレシートをけ取った。
「たくさん買ったんだね」
「週末優磨くんの好きそうなものを作ろうかと」
「そっか」
またも優磨くんは微笑む。その顔が見たくて私は食材を選んだ。
「大きい冷蔵庫なのにパンパンになっちゃった」
「どれ?」と優磨くんは冷蔵庫を開けた。
「波瑠、お酒はビールだけしか買ってないの?」
「うん。優磨くんビールも好きでしょ?」
「そうだけど波瑠の分は?」
「え?」
「チューハイとかカクテルとか買わなかったの?」
「ああ、私はいいよ。お酒そんなに飲めないから」
優磨くんはまた不満そうな顔になる。
「買えばいいのに。ジュースとか、お菓子もいいんだよ?」
「でも優磨くんジュース飲まないじゃん」
普段飲むのはミネラルウォーターでお酒はビールとワインが好き。お菓子は食べるかと思って買ったことはあるけれど、勧めないと自分からは好んで食べない。
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