《同期の曹司様は浮気がお嫌い》元カレ曹司は元カノの元カレを許さない
◇◇◇◇◇
引っ越してから二週間たった。
優磨くんからの連絡はもちろんなくて、私は同居する前の日常を再び送っている。仕事が楽しいのは救いだった。
ピリリリリリリリ
著信音が鳴り優磨くんかもしれないと期待したけれど、畫面には知らない番號が表示されている。
誰だろうとスマートフォンを耳に當てた。
「もしもし……」
「安西波瑠様のお電話でよろしいでしょうか?」
「はい……」
男の聲だ。
「滝沢です」
「……滝沢さん?」
そんな名前の知り合いはいない。
「あの、どちらの滝沢さんでしょうか?」
「滝沢泉です」
「滝沢……泉……え? 泉さん!?」
優磨くんの書の泉さんだ。
「失禮かとは思いましたが、麗さんに番號をお聞きしてかけさせていただきました」
「ああ……はい……」
てっきり泉さんは苗字かと思っていた。まさか下の名前が泉さんだとは意外だった。
「どうされたんですか?」
「ぶしつけで申し訳ございませんが、優磨さんと復縁していただきたくご連絡いたしました」
「え?」
「ここのところ優磨さんは仕事にがらず、ボロボロの狀態です」
「優磨くんがですか?」
「はい」
それは本當のことだろうか。あの優磨くんがボロボロとはどういうことだ。
「あの……優磨くんから聞いていませんか? 私は優磨くんに振られたのですが……なので私から復縁したいなどと言えないです……ボロボロだなんて間違いでは?」
「私はお二人の間の詳しい事は存じません。ですが優磨さんが揺して毎日仕事にならないのは確かです」
「そうですか……でも復縁は優磨くんがまないと思います」
私の顔なんて見たくもないし、聲も聞きたくないだろう。手を振り払うくらいに拒絶されている。
「一度優磨さんの様子を見ていただきたいのですが」
「え……」
「遠くから見るだけで構いません。話さなくても結構です。一度波瑠様に今の優磨さんの狀態を知ってほしいのです。正直に申し上げると私では今の優磨さんは手に負えません」
「………」
あの泉さんが手に負えないなんて、優磨くんはそんなに大変なのだろうか。
「わかりました……」
泉さんにこんなお願いをされるなんて意外で、つい了承してしまった。
様子を見るのに指定された場所は優磨くんの會社の前にあるカフェだった。正面玄関を出りする人がはっきり見えるこの場所で、まるで探偵にでもなった気持ちで優磨くんを待っている。
前もって泉さんに言われていた通りの時間に車が會社の前に停まった。
後部座席から降りてきた優磨くんを見た瞬間驚いた。二週間ぶりに見た彼はびた髪を整えることもなく、寢ぐせなのか後ろ髪が跳ねている。
駐車場に向かう泉さんの車を見送る彼は痩せたように見える。道路の向こうからでもわかるほど顔が悪く俯きがちだ。調が悪いのだろうか。
會社にるときに突然つまずいた。段差でもないところで転びそうになるなんて優磨くんらしくない。いつも完璧になりを整えて隙を見せないように仕事に行くのに。
泉さんが駐車場からこっちに歩いてくる。カフェにってくると私の前に座った。
「おはようございます。わざわざすみません。優磨さんをどう思いましたか?」
「あの……いつもと違う印象でした……」
別人のようにだらしなく見えた。確かにあれでは泉さんも戸うだろう。
「ここ最近はずっとあの姿です。寢ぐせは私が指摘するまで気づいていませんし、ネクタイを忘れてきたこともあります。會議の時間を間違える、話しかけてもぼーっとしていることが多くなりました」
「顔も悪いように見えました。調はいかがですか? 今はホテル暮らしですか? ご実家ですか? マンションにはまだ帰ってませんか? ちゃんと食べているのでしょか?」
矢継ぎ早の質問に泉さんは目を見開いた。
「すみません……優磨くんの心配をする立場ではないのに……」
別れたのに図々しい。私は本來泉さんとこうして會うのも許されないのかも。
フッと泉さんが笑った。
「すみません、波瑠様が優磨さんを気にかけてくださっていて安心しました」
「いえ……みっともなく引きずっているだけです……」
いつまでも想うなと彼は呆れるだろう。
「最近はずっとホテルとご実家を行き來しています。麗さんも優磨さんの様子を心配しています」
「確かに今見て驚きましたが、どうすることもできません。私に怒っているんです。だから優磨くんは怒りで仕事が手につかないのでしょう。申し訳ありません」
泉さんに頭を下げた。あんなに熱心だった仕事を疎かにさせるほど優磨くんを怒らせてしまったのだ。
「お二人に何があったのか詳しいことは聞いておりません。怒っているのかもしれませんし、悲しんでいるのかもしれません」
泉さんの言葉に頭を上げた。
「波瑠様と離れて後悔しているようにも見えます」
「え?」
後悔? 優磨くんが?
「失ってから気づくんです。大事な人ほど何かあると揺する。だから、もう一度優磨さんと話し合ってほしいのです」
そう言われても振られたのは私だ。
「私の連絡を優磨くんは無視しているんです。電話もLINEも。今更話すことは私にもありません……」
「このままでは優磨さんの進退に関わります」
「どういうことでしょう?」
「社長子息の優磨さんには敵も多いのです。このまま足を掬われて仕事に影響が出るのはまずい。會社は優秀な優磨さんに継いで頂かないと私も社員も困るんです。本來優磨さんは関係であんな風になる人じゃありませんから」
「でも……」
「差し出がましいこととは重々承知しておりますが、今の優磨さんは見ていられません」
どう答えたものか迷っているとLINEの著信音が聞こえた。
反的に手に取る癖がついてしまったため、私はすぐにスマートフォンの畫面を見た。いつものように下田くんからの連絡に顔が青ざめる。
今も相変わらずメッセージが來ていた。ほとんどストーカーと言ってもいいかもしれない。LINEもブロックしてしまおうかと思うけれど、『無視するな』と言われてついメッセージを確認してしまう日々だ。
『明後日、金持って駅前のファミレス』
命令する文面に手が震える。
どうしよう……まだお給料日は先なのに明後日って……。でも優磨くんと別れたのだからお金を渡す必要もないよね? それを伝えればもう下田くんが私に連絡してくることもなくなるんじゃ……?
私の様子に泉さんは不思議そうな顔をする。
「波瑠様? 大丈夫ですか?」
「はっ、はい! 大丈夫です……」
下田くんが関わると揺してしまう。今は平常心を保たなきゃ。
「優磨さんのこと、ご検討ください。ご自宅までお送りします」
「お仕事は大丈夫なのですか?」
「この後取引先に行く用事がありますので一緒にお乗りください」
「ありがとうございます」
泉さんに甘えて家まで車に乗せてもらった。
何度かこの車に優磨くんと乗ったな……。
泉さんには申し訳ないけど優磨くんと會うことは無いな。まだ私が下田くんと不倫してると思ってるんだし。私の言葉はもう屆かない。
◇◇◇◇◇
ファミレスに行くと下田くんは既に壁際の席に座ってハンバーグセットを食べていた。
前後と橫の席は會社員だろうスーツの男が數人座っているので、ジャージの下田くんは浮いていた。開店したばかりだからかお客さんは下田くんの周りにしか座っていない。
「また地味な服に戻ってんじゃん。優磨とケンカでもしたの?」
「………」
下田くんの言葉を無視して向かいに座る。
この人はまだ會社に在籍していて副業もしているのに、いつも暇そうに見えてしまうのはどうしてだろう。私に頻繁に連絡してくる時間を無理矢理作っているのだろうか。
「波瑠は何食べるの?」
「いらない。すぐに帰るから」
「つれないねぇ」
ニヤつく下田くんに飲みをかけたい衝に駆られる。
無理矢理キスされたことを忘れていない。そのせいで優磨くんと別れることになったのだから。
今も下田くんと會うのは怖い。でもここは人目があるし、本當に今日で最後にするつもりだ。
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