《同期の曹司様は浮気がお嫌い》

「大丈夫! 私は一人で平気!」

「そっか……波瑠がしてほしいことは? 何かんでることはある?」

「ないよそんなこと……もう帰って」

「何でもいいんだ。波瑠がんでること、何でも言ってほしい」

私がんでいることは優磨くんが離れないって確かな証明だ。だけどそんなことは無理な話だ。人の気持ちが変わらない保証なんてない。だから早く私を見限ってほしい。

「帰って。それがみ」

優磨くんが寂しそうにするから悪いことをしている気持ちになる。

「波瑠は俺が來ると迷?」

この言葉に閃いた。

「今から彼氏が來るから帰って」

「彼氏?」

「そう! 新しい彼氏ができたの。今からここに來るから帰って! 優磨くんがいるところを見られたくないの。迷!」

こう言えば優磨くんは諦めてくれるだろうと思ったけれど笑いだした。

「ははっ……彼氏ねぇ」

「何がおかしいの?」

「いや……俺と別れたばっかりでもう次の彼氏ができるなんて早いなと思ってね」

そんなバレバレの噓に決まりが悪くなり目が泳ぐ。

「私は優磨くんの嫌いな、男をとっかえひっかえする汚い人間なの! もう誰とも深い付き合いをしないんだって!」

優磨くんがを噛んだ。いくら謝罪の言葉を聞かされても、思わず嫌みを言って責めてしまう。

「だから帰って。彼氏がいるのにしつこく來るなんて私が嫌がるって優磨くんはよく知ってるでしょ?」

傷つける言い方が止まらない。でも優磨くんは悲しい顔ではなくなった。

「彼氏ってどんな人?」

「え? それ聞く?」

「波瑠の好きな人がどんなやつなのか知りたい」

「………」

噓彼氏のプロフィールまでは考えていなくて困った。優磨くんは面白そうな顔をして私の答えを待っている。

「優しくて……イケメンで……」

「それから?」

「え……」

「他は? 波瑠はそいつのどこが好きなの?」

私への質問をやめる気はないようだ。

「えっと……仕事に一生懸命で……でもいつも私のことを一番に考えてくれて……」

「それだけ?」

「もういいでしょ!」

顔を真っ赤にすると「帰って!」と怒った。それでも「ほんとに彼氏できたの?」と聞いてくる。

「私の言葉を信じるって言ったでしょ?」

「そうだね……」

優磨くんは困ったように笑った。

「俺よりもそいつのこと好き?」

「大好き! だから帰って」

「波瑠に想われてるそいつが羨ましいよ」

がぎゅっと締め付けられる。

「じゃあ明日も來るね」

「え? だから來なくていいから!」

噓彼氏の話をしたら諦めると思ったのに、何事もないようにまた來るのか。

「彼氏いるんだってば……來ないでよ……」

してる」

「っ……」

「波瑠に新しい人がいるとしても、俺は波瑠をしてる」

「そんなの同じじゃん……」

しつこく私に會おうとした下田くんと同じではないか、と言いかけてやめた。優磨くんも言いたいことはわかったのか複雑な顔をして、それでも一杯笑う。

「波瑠の顔が見れるだけで嬉しい。だからまた來る。本音は、別れて俺のところに戻ってほしいって思ってる」

本當に下田くんと同じだ。あれほど責めた彼と優磨くんは同じことをしようとしている。

拒否する言葉が言えなくなる。だって私も優磨くんをしている気持ちは変わらない。それでもまた嫌われるのが怖くて戻れない。私を拒否するあの顔を忘れられない。

優磨くんの手が私に向かってびるけれど、ビクッと思い出したように止まってまた下がる。私にれたいのに自分で「るな」と突き放した手前できないのだろう。

「じゃあね。また明日。してるよ」

優磨くんは今日も『してる』を殘して帰っていった。

自分が子供で嫌になる。優磨くんにされて幸せなのに、失うことを恐れて素直になれない。

私に彼氏がいるという噓を信じて、このままどうか諦めて私の前に現れないでほしいのに。

退勤後にお店でパンを買う。お客様にお勧めできるように店の商品は全部食べて味を確認しておきたい。今日買った分で全制覇だ。

「波瑠さん、優磨はこれが好きだよ」

社長である慶太さんがコロッケパンを指した。各店舗を巡回している慶太さんに會うのは採用してもらったとき以來だ。私が優磨くんの分もパンを買って帰ると勘違いしたようだ。

慶太さんはまだ私と優磨くんが一緒に住んでいると思っている。そういえば引っ越したことを會社に言い忘れていた。けれど今慶太さんに言える雰囲気じゃない。

きっと今夜も優磨くんが來る。仕事終わりでお腹が空いているかもしれないから、パンを差しれようかなと思った。

「これと、あとこれも。優磨が中學のころから特に好きだったやつ」

「中學生の頃から知り合いなんですか?」

「優磨は一號店の近くにある有名私立中學に通っていたんだけど、學校帰りによく買いに來てくれたんだよ。城藤の人間じゃ惣菜パンなんて珍しかったんだろうね」

「中學生の優磨くんは可かったんだろうな」

「今は生意気だけどあの頃は可かったよ。パンのショーケースをが開きそうなほど見てた。だからこれを買っていけば今夜の晩ご飯は満足するよ」

曖昧に笑って誤魔化し、優磨くんのパンも買って店を後にした。

マンションの前には思った通り優磨くんがいた。

「波瑠、おかえり」

優磨くんが笑顔になるから私まで顔が緩むのを止められない。まだ私はこの人をしているのだと思い知る。

「毎日ここにきて大変じゃないの?」

「全然! 波瑠に會えて元気貰ってるし」

ストレートに言われては照れて言葉を返せない。

「これ……お土産」

「何?」

私が広げた袋の中を見た優磨くんは「コロッケパン!」と大聲を上げる。

「波瑠が俺に?」

ニコニコと私に笑顔を見せるから「慶太さんがこれを優磨くんにって」と『慶太さんが』を強調した。

「めちゃくちゃ嬉しい!」

袋の中には私が食べるパンもっているので、どこか座って食べようと思った。恥ずかしいけれど私の部屋にれるべきだろうか。

「優磨くん、よければ部屋にどうぞ……パン食べよ……」

「今夜は彼氏來ないの?」

「あ、うん……」

そういえばそんな噓をついていたんだった。

「週末なのに會いに來ないなんて彼氏は不定期休みの人?」

「まあそんなとこ……」

優磨くんは「へー」と信じていないような聲を出す。

「波瑠の部屋にはりたいけど、彼氏に悪いからやめとくよ」

「どうせ私は彼氏がいるのに男を部屋にうようなですよ……」

また嫌みをぶつけてしまう。それなのに優磨くんは「くくっ」と笑いを堪えている。

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