《同期の曹司様は浮気がお嫌い》4
「そんな噓は笑えないよ……」
聲が震えている。
「私の言葉を信じるって言ったでしょ?」
「まだ學生だろ? 子供じゃないか! あいつじゃ波瑠を幸せにできない……」
「優磨くんには関係ない!」
狹い車でんだ。
「私が誰と付き合おうと口出す権利はないじゃない!」
優磨くんが息を呑んだ。
「そう……だよね……」
そう呟いて車を発進させた。
しばらく無言だった。ハンドルを握る優磨くんの手が震えている。私はそれに気づかないふりをして窓の外を見ていた。
私のマンションの駐車場で車が停まった。
「送ってくれてありがとう……」
車から降りてマンションに足を向けると優磨くんも急いで降りて私の行く手を遮った。
「波瑠、やっぱりこのまま俺のところに戻ってほしい」
「え?」
「今すぐ俺の部屋に連れて帰りたい」
「できない……さっきの優磨くんを見て増々そう思った」
強引に手を摑まれた。強引に車に乗せられた。
「波瑠を幸せにするから! 信じて!」
「どう信じたらいいの?」
視界が霞む。目が潤んできた。
「私のことを信じられないって言って突き放したのは優磨くんなのに、信じてなんて……私には無理だよ……」
目に溜まった涙が瞬きと共に頬を伝った。
「怒った優磨くんが怖い……強引な優磨くんが怖い……されるのが怖い! 嫌われるのが怖い!」
「本當にごめん……できることなら時間を戻したいよ。俺がバカなことをやる前に」
突然抱き締められた。んでもいない行に驚いてがピクリとく。
「怖がらせてごめん……勘違いで怒ってごめん……どんな波瑠も、もう嫌いにならないから」
「放して……私たち離れた方がいいんだって。うまくいかないから……」
「波瑠が離れたくても俺は無理なんだ。もう波瑠の前だと余裕なくなる」
「私、汚いかららないで……」
優磨くんの嫌いな穢れただから、もう私を解放して……。
「波瑠、俺と浮気して」
「え?」
「二番目でもいい。俺が浮気相手でもいいから、波瑠がしい」
切実な聲に涙がとめどなく溢れる。
優磨くんも、そんなことを私に願うの?
「他の男を好きでも、俺に気持ちがなくても、ほんのしの時間でもいいから波瑠のそばにいたいしれたい。俺は波瑠がいないとボロボロになる……」
「もっと無理っ……」
不貞行為が嫌いな優磨くんを浮気相手になんてできない。
「私が浮気したって責めたのに、その優磨くんが浮気相手になるなんて言うの?」
「俺の価値観もプライドも、全部捨てる……最低な存在に墮ちてもいい。それほどに波瑠がしいって願うから」
優磨くんの腕が私の腰を一層引き寄せた。
「私はもう男とまともに付き合えないと思う。適當に付き合う彼氏の、さらにそれ以下の存在で優磨くんはいいの?」
「そばにいられるならどう扱われてもいい。俺を拒絶しないで……頼むから……」
誰よりも浮気を嫌っていたはずなのに、そんな立場に自分からなることをむの? そんなこと、私は優磨くんにまない。
「勝手だよ……拒絶して責めたくせに……信じてくれなかったのに……」
「ごめっ……ごめんなさい……」
優磨くんも今きっと泣いている。私の頭に顔をつける彼の聲は震えている。
「本當にしでいいから……俺のそばで笑って……聲を聞かせて……指一本でもにれさせて……波瑠をじられたら、それだけで俺は頑張れるから……」
「優磨くんの気持ちに向き合ってくれる相応しいはいるよ。曹司と私じゃ住む世界が違うんだから」
「俺は……」
「いずれ社長になるんでしょ。私みたいな凡人の浮気相手なんかになっちゃだめ」
「波瑠……」
「優磨くんがずっと離れないって保証がしいの。けど未來なんてわからないし、形のないものをどうやって保証できるの? が変わらないって証明はどうすればいい?」
「………」
そんなの優磨くんにだって分からないだろう。人の心の移り変わりを永遠に止めることはできない。
「浮気相手だなんて、そんな軽い立場でいるのに私からずっと離れないなんてどうして言い切れるの? 二番目なんて、いつだってすぐに離れられる都合のいいポジションじゃん」
優磨くんのが小さく震えた。
「波瑠、ごめん……」
「帰って……」
「でも、俺は……」
「優磨くんを信じることができなくてごめんなさい。もう帰って」
「聞いて」
「何も聞きたくない」
「ずっと前から波瑠とけっこ…」
「もう聞きたくないの!」
両耳を手で塞いだ。
優磨くんが必死で言葉を発しても私にはくぐもった音しか聞こえない。塞いだ手を優磨くんの手が強引に耳から引きはがそうとする。
「いや!」
どうして私の話は聞いてくれなかったのに、自分の話は強引に聞かせようとするのだ。
「やだよ! 聞きたくない!」
下を向いて優磨くんを拒否する。
「なんなの……」
どうして私が嫌だと抵抗しても強引に迫ってくるのだ。優磨くんも下田くんも弱い私には力ずくでどうにかすればいいと思っているのだろうか。
強引にキスをする。強引に引っ張る。聞きたくもないのに嫌な言葉を囁く。
「私の意思はいつだって無視なんだよね……」
優磨くんの手の力が抜けて焦ったように目を見開いた。私が耳から手を離すと優磨くんの手も離れる。
「帰って。そんな提案二度と私にしないで」
「でも……」
「私に信じてもらう努力っていうのが気持ちを無視した暴な扱い? これで優磨くんの何を信じればいい?」
「………」
優磨くんはもう言葉も出ないようだ。
「ね、私たちうまくいかないんだよ」
優磨くんの目から落ちた涙が頬に伝ってお互いの服に落ちる。城藤の曹司を何度も泣かせるなんて私くらいなものだろう。
「本當のことを言って。もう俺をしてない?」
「っ……」
真剣な優磨くんから目が離せない。
「お願いだから、波瑠の本心を聞かせて」
「私は……優磨くんを……」
まだしている。でもそれを言う覚悟がない。
もうしていないと言えば優磨くんも私も終わりにできる。なのにそれさえも言えない。だって優磨くんをしている。
「………」
黙ってしまう私に何も言わずに優磨くんは手で涙を拭う。
「俺は波瑠をずっと想ってるから離れない。それを証明できるまで待ってて」
そう言って私からを離した。
「今は答えを聞かない。無理強いしてごめんね」
優磨くんは車まで歩いていく。車にる直前に振り返って「してる」と私の目を見て言った。
車が駐車場から走り去ると私はその場にしゃがみこんだ。
優磨くんに摑まれた手首を指でなぞる。
二番目でもいいなんて言われたことに驚いた。優磨くんの口からそんな言葉が出るなんて、そこまで言わせるほど追い詰めたことが悔やまれる。
でも深い私のみは言葉じゃない。優磨くんのを信じられる確かな証拠がしい。
だってもう傷つきたくない。
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