「あ、の……諏訪くん……？」

張でかすれそうになった聲が、靜かなリビングに落ちていく。頼りげのない問いかけに、諏訪くんがふっと瞳をたわませた。

「怖くない？」

その質問の答えは、ＹＥＳだ。怖くはないし、それは間違いない。

「う、うん……」

素直に頷いたものの、持て余したままの覚をどう説明すればいいのか思いつかなくて、聲にも顔にもためらいが顕著に出てしまった。

「じゃあ、あと三十秒だけこのままでいよう」

ところが、決定事項のように言われてしまうと、彼の意図は察せないままうっかり小さく頷いていた。

三十秒がこんなにも長いと思ったことなんて記憶の中ではない。それなのに、この狀況下で意識してしまうと、異様に長くじた。

あと何秒かわからなくて、いずれやってくる終わりを大人しく待つことしかできない。息を止めないように意識すると、余計に張が大きくなった。

「はい、終わり」

ところが、程なくしてあっさりと手を離されれば、急に心にぽっかりとしたものが芽生え、なんとも言えない気持ちに襲われた。

安堵じゃない。けれど、この覚がなにを意味するのか理解できない。

「大丈夫だった？」

頬と右手にじていた溫もりが遠のいたせいか。それとも、笑顔を見せる諏訪くんの平素の態度に、あくまでリハビリの一環だったことを自覚させられたせいか……。

もしくは、もっと他の理由だったのかもしれない。

明確な答えが出ない中、ひとまず彼に心配をかけないように首を縦に振った。

「抵抗とか嫌悪とかあった？　俺のことは気にせず、正直に答えて」

「そういうのはなかった……と思う。でも……」

どう説明すればいいのか、と言葉に詰まる。すると、諏訪くんが「でも？」と私をじっと見つめてきた。

彼の真っ直ぐな雙眸にたじろぎ、張のせいかがきゅうっと苦しくなる。

「えっと……上手く言えないんだけど……」

「上手く言う必要なんてない。俺は香月の正直な気持ちが知りたいだけだから」

諏訪くんの聲はいつも優しい。だから、私は彼の前だけでは臆せずにいられるのかもしれない。

「張したっていうか……でも、諏訪くんの手が離れると、なんとも言えない気持ちになって」

「手が離れたら安心した？」

「……そうじゃないと思う」

安心なんてしていない。それなら、諏訪くんの溫をじていたときの方が、そういう覚には近かった。

「じゃあ、寂しかった、とか？」

思いもしなかった言葉に、瞬きを繰り返してしまう。自分では思い至ることはなかったものだけれど、言われてみれば遠からず……というじがあった。

「それはないか。ごめん、忘れて」

「ううん、そうかも！　寂しいとは違うかもしれないけど、心がぽっかりするじがあったから、意外とそういう覚に近かったのかもしれない」

答え合わせをするがごとく、うんうんと頷く。微妙に違う気はしたものの、彼の言うことがなんとなく腑に落ちた。

ふと、唐突になにも言わなくなった諏訪くんを見ると、彼は呆気に取られたように靜止していた。