《めブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom6 堰かれて募るの……なんて言うけれど【3】
夕方、家に帰ると諏訪くんが出迎えてくれた。
彼は私と同時に家を出て、近所のジムに行っていた。力作りが主な目的らしいけれど、しっかりと鍛えられているを見ればそれだけじゃない気がする。
「俺、先に風呂ったんだけど、夜ご飯はデリバリーでも頼まない? 香月、いつも作ってくれるから、たまにはラクしようよ。ピザか壽司ならどっちがいい?」
諏訪くんの中では、夕食をデリバリーにするのはもう決定事項のようだ。
「諏訪くんは?」
「俺は今日は壽司の気分。実は、駅前の壽司屋を通ったら急に食べたくなって」
「私もお壽司がいいな」
「じゃあ、決まり。適當に頼んでおくから、屆くまでに風呂にっておいでよ」
その言葉に甘えて、部屋に行ってからバスルームに向かう。
最初は落ち著かなかった広いバスルームは、バスタブでゆったりと足をばせるのが嬉しく、今ではリラックスできる場所のひとつだ。ただ、今日は敦子の提案を決行しようとしているからか、なんだか落ち著かない。
彼のシャンプーの殘り香が追い打ちをかけるようで、芽生えた張をごまかすように膝を抱え、弱腰になりそうな自を叱責した。
諏訪くんを待たせないようにお風呂から上がれば、お壽司はまだ屆いていないようだった。「早かったな」と笑った彼に、曖昧な笑みを返す。
「壽司だとワインじゃないよな。ビールか焼酎か……あ、酎ハイもあったな」
希を訊かれて酎ハイをお願いすると、諏訪くんが冷蔵庫からビールと酎ハイを出してきてくれた。どうやら彼は、運したことによって飲みたくなったみたいだ。
張がなかなか消えない私も、アルコールの力を借りることにする。軽く飲み始めたところでお壽司が屆き、その豪華さに目を見開いた。
「これ、特上なんじゃ……」
頷いてあっけらかんと笑う諏訪くんは、「たまにはいいだろ」なんて言う。彼にお金をけ取ってもらえなかった私は、戸いつつも丁重にお禮を伝えた。
ふたりで「いただきます」と聲と手を合わせ、お壽司を堪能する。イクラは大粒で甘く、大トロは生のような食べ応えで、ウニは舌にが殘るほど濃厚だった。
「どれも人生で一番おいしい……!」
「それはよかった。じゃあ、また頼もう」
簡単に甘やかしてくれる諏訪くんといたら、ダメ人間になるのはやっぱり時間の問題だ。自分の將來が不安になって、早く彼のもとを離れなければいけないと思う。
それなのに、今の生活を失う未來を想像するだけで、寂しさに似たものを抱いてしまった。上手く言えないけれど、心が寂寥のようなものをじたのだ。
(優しくしてくれるからって甘えすぎて、贅沢な人間になっちゃってるんだ……)
そんな自分自が恥ずかしくて、食後にソファに移した諏訪くんを追うように彼の隣に腰掛けた。
「今夜はもう練習する?」
「うん……」
ためらいと張を隠して頷けば、諏訪くんが和な笑みを浮かべる。
差し出された左手を右手で握るのは、隨分とスムーズにできるようになった。最初はなかなか手に力をれられなかった私に、彼が気よく付き合ってくれたおかげだ。
だからこそ、諏訪くんに長したところを見てほしい。そんな決意とともに顔を上げれば、優しい雙眸とばっちり目が合った。
「香月?」
普段より張が大きい私の異変に気づいたのか、彼の表に心配のが浮かぶ。
それに構わず、私は左手をそっとばし、おずおずと諏訪くんの頬にれた。
「え……っ」
剎那、彼の顔が意表を突かれたように固まり、沈黙に包まれた。
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