帰宅すると、ジムに行くと言っていた諏訪くんが先に帰っていた。

「結婚祝い、喜んでくれてたよ」

「ああ、さっき赤塚……じゃなくて清水からお禮のメッセージがきたよ」

「そっか。っていうか、赤塚のままでいいんじゃない？」

「まぁそうだな」

ふと、ソファを見ると私が好きな作家の文庫本が置いてあり、私の視線に気づいた彼が微笑んだ。

「昨日、志乃がおすすめしてくれただろ？　ジムの帰りに本屋で買って、帰ってきてからずっと夢中で読んでた。もうしで読み終わるところだ」

「じゃあ、水を差しちゃったね。邪魔してごめんね」

「そんなことない。志乃が最優先事項だよ」

私の目を真っ直ぐ見て微笑む諏訪くんに、の奧がキュンと震える。まだ夕日が街を染める時間帯だというのに、晝夜を問わない彼の甘さは今日も変わらない。

「諏訪くんって、恥ずかしげもなくそういうこと言えちゃうよね」

「だって、志乃にもっと俺を好きになってほしいからな」

「……っ」

「付き合ってても、まだまだ俺の想いの方が大きい。だから、志乃がもっと俺に夢中になってくれるように必死なんだ」

私の頬に手を添えた諏訪くんが、甘い笑みで私を見つめてくる。けれど、その中には鋭くるものが見え隠れしていた。

キスの予に瞼を閉じれば、數瞬してが塞がれた。れるだけの優しいくちづけに、私の中で幸福が広がっていく。

だからこそ、が離れると寂しくなって、遠のいた溫もりに追い縋るように彼を見上げた。

ふっと困ったような顔をした諏訪くんが小さく笑う。頬に置かれたままの手がき、おしげにでられた。

「もう一回しようか」

私の願いを察したのか、優しく囁いた彼の顔が近づいてくる。再び瞼を下ろせば、にキスが落とされた。

きっとまた、すぐに離れてしまう。

そんな予想をした私が寂寥を抱くよりも早く、溫かいものがにれた。それが舌だと気づく前に、をペロリと舐められる。

驚いて開けてしまった目を丸くすれば、今度はを食まれた。やわやわとを楽しみ、それを繰り返される。

その行為に翻弄されているうちに、半ば強引にがこじ開けられた。

「……っ、ん、っ」

れた吐息が口腔の力を緩ませ、あっという間に熱い塊をけれさせられていた。

舌で歯列をゆっくりとたどられ、口を探るようにうごめく。同時にかされた骨張った手は、私の髪や頬を労わるようにでてくる。

呼吸の仕方がわからなくなった私は、これまでとは違うキスに戸いを隠せない。

反して、心もも拒絶していないことは明らかで。心臓はバクバクと鳴り響き、張でが上手くかせないのに、の奧からは喜びが突き上げてくる。

れてくる手が優しい。熱を持ったは強引だからこそ、そのギャップに思考がついていかない。

しばかりの優しさを殘しつつも、容赦なく口腔を暴こうとする。その現実に脳芯がクラクラと揺らめき、息が苦しくなり始めたとき、舌を捕らえられた。

目から零れる涙が頬を伝う。

酸素が足りないせいか、思考がとろけていくせいか、息が苦しいのに……。嫌とは思っていないことはわかっていて、縋るように諏訪くんの服を摑む。

「んんっ……！」

剎那、絡まったばかりの舌を吸うようにされ、くぐもった聲がれ出た。

長く深いキスに、脳が酩酊する。思考はまともに機能せず、彼の行為をけ止めることしかできない。

呼吸もままならなくなって限界をじれば、ようやくが解放された。