《TSしたらだった件~百合ルートしか道はない~》「待てと言われて待つ田中はいない。なくともここには」
「待て………待つんだ田中ちゃん………助け………」
「だが斷る」
「まだほとんど何も言ってないけど!?」
いやいや、部長さんよ。俺だって同じ部活の仲間で、かつ副部長なんだぜ?
アンタが何を言いたいかは痛いほどわかるよ。きっと『助けてくれ』、だろう?
でもな、俺はこれでもの子なんだよ。そう、おにゃのこだ。だからちょっとこの狀況をどうにかできてしまうようなパワーは無い訳でな………
つまり要約すれば俺はお前を助けられない。まぁ學校で盛ってもらうとしだけ俺にも不都合なことがあるけどさ、それを差し引いても部長を助けるリスクの方が圧倒的に大きいんだわな。
だからさ、安心して死んでゆけ!
俺は満面の笑みと共に、文ゲー部室を去っていく。もちろん後輩ちゃんは先に退避しているがな。よく考えればなにもしてやらずまっすぐ行けばよかったな。うん。
「チッ………これだけはバラしたくなかったが………」
………ん?部長がなにか加奈ちゃんに耳打ちしてるぞ?
うわ、これは酷いトラブルの予。
後輩ちゃんと一緒に即逃走しなかったのは間違いだったか………まぁいい、この狀況で即座に効果の出る策なんてないはずだ。
だって部長は加奈ちゃんに押し倒されていて、一切のきは出來ないんだからな。
つまり完全封殺勝利、圧勝、フルボッコなのだ。
だからさ、今俺が背後からじている謎の威圧はただの妄想なはずなんだよな………でも念のため一度しだけ右にステップ回避してみよう。
そしてそこで何かが飛んできたりしなければ、その威圧は俺の妄想だ。
なので俺は、確認のため、そう確認のためだけに右へ素早く移する。所要時間は0.01秒足らず。命の危険があるかもと思えば人間が限界を超えられる証明だねこれは。
………で、俺の頭が0.01秒前まであった場所をペン(備品。369円)が凄まじい速度で通り過ぎ、壁に突き刺さっていた。
おいおいおいおい!?現実でこれやれる奴がいるとか、聞いてないぞ!?
というか、こんなもん喰らったらただじゃ済まないだろ!?
突然の攻撃と、その手段のありえなさゆえにパニックになりかけるわオノマトペがやたら増えるわでてんやわんやになったが、冷靜に考えても考えなくても、これはまずいだろう。
當たり所次第ではお陀仏もあり得る一撃とか、頼むからフィクションの世界だけであってしかった。
だが殘念ながら現実は小説よりも奇なりということからも察せるように、俺の元には大量のペンが殺到した。
………加奈ちゃん、君はもしかして忍者の末裔だったりするのかな?え?
だとしたら納得だ。だけどやめてくれよ。死んじゃうよ俺。
「なんで俺にこんな災難が起こるんだよ理不盡だろうがっ!」
そんな泣き言を言いながら、必死で投げられるペンを回避していく。何故俺がそれを避けられるのかは謎だが、多分火事場の馬鹿力ってやつなんだと思う。
どう考えてもいつもの俺であればこれを回避するのは………あぶねっ。
余計なことに思考を裂いていたら手に刺さりかけた。偶然足がもつれてへんなきになったから回避できたが、本當にヤバかったよ。
喰らってたら痛みできがれて、そこから連続で喰らいかねない。
あー、なんでこうなってんだよコンチクショー。
これもどれも絶対に神様の奴の仕業だ。次會ったら絶対に恨みごとの100や200を聞かせてやる。
あ、でもそれをするにはここをどうにか切り抜ける必要があるわけで………
どーすんのよこれ?
文ゲー部って、一応は文蕓をノベルゲームから學び、そして書く部ってことになってるから、ものすごくたくさんのペンがあるんだよ?
あっちが盡きるより先に絶対に俺がバテて死ぬぞこれ………
地味に戦況を冷靜に分析してる俺がいることに驚きつつも、とりあえず命はないな、とか騒なことを考える。
多分増援でも來なきゃ本當にそうなるだろうけどさ。
しかもその増援もあまり期待できない。後輩ちゃんは先に逃げたから多分戻ってくる可能は低いだろうし、郁馬は部活中、武も部活、亮太………は言うまでもなく、そして他に頼れる人間などいない。
ここで文ゲー部の人數差が仇となるとはな。頼れる人間も止めてくれる人間もおとりにできる人間もいない。
なんてこった。詰みだチェックメイト。死んじゃうよ。
誰か助けて―。(投げやり)
………しかし、言葉にすらしていないこの助けを求める聲が誰かに屆くわけもなく、俺はただやられるのを待つのみとなってしまった。
しかも都合悪くなんか足が吊ってきて………あいたっ。
ぐらっ、と視界が回る。大1/4回転ほど。そして俺にペンによる一撃が………というかこんなラノベみたいな死に方をするとか、ある意味ですげーような気がしてきたよ?
しかもなんか思い出が。走馬燈ってやつですね。えぇ、ロクな思い出が無いよ?まったくないよ?
特に最近の記憶なんてさ。
朝、男たちが我が家の前で出待ちしてて、そこで井上を頼ろうとしたら加奈ちゃんに出會ってしまったことなんて最低の重い出だしね………いや、待てよ?
今更だが、この部活の顧問が居たのを思い出したぞ。
その名も檜山。その細かいことに拘らなさすぎる格で知れた國語教師であり、なおかつこの部活では最低限の確認とかだけをしてる男だ。
そしてその確認は基本、隔日で5:00くらいに來るんだ。
で、現在時刻は5:02!これで………
「おーい、今日は新部員がったとか聞いた………何してんだおめーら?」
俺の逆転勝利だ!
………何に対して、とは言わないが。
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