《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》24……さぁ、會場へ!
父のミューゼリックが戻ってきて、リティは母と兄の間に座っていたが、振り返り、
「お帰りなさい。パパ」
「んっ?今日は、パパと呼ばないって言っていたのに」
「あっ!」
小さい手で口を押さえようとしたのを、デュアンが止める。
手は指などの裝飾はない代わりに、レースのついた手袋をはめていた為である。
「リティ、お化粧がついちゃうから駄目だよ?それに父上もからかわない」
「悪かった。リティ。パパが悪かった」
「えっと、えっと、今日はお父様でした。それに、お兄様もありがとうございます」
頰を赤くして言い直すリティの姿に、メイドたちは心悶え、ロビンソンと共にもう一人控えていた近衛の青年は、
「可い……」
と呟き、デュアンがチラッと見る。
「可いのは當然だろう?それに、お前には近づけないからね、カーク」
「えぇぇ!酷いですよ。隊長!」
「カーク。今は仕事だ。私語は慎むように」
ロビンソンが低い聲で黙らせ、頭を下げる。
「申し訳ございません。ラルディーン公爵閣下」
「いや、大丈夫だ。まぁ、うちの娘は可いからな」
目を細め微笑む……子煩悩で有名なミューゼリックが、一人息子のデュアン以外にこのような表を向けることはなかった。
養と言われるが、本當に可くてたまらないのだろう。
「リティ。ダンスはデュアンと王太子殿下と踴ったら、一緒にパパとママの所においで。もし人混みとかで迷ったら、この二人とこの後に會うクシュナ……ラーシェフ公爵夫妻と、近衛の二人を頼りなさい。こちらがパパの友人でロビンソン卿と、デュアンの後輩のカークだ」
「ロビンソンと申します。姫様」
「カークです。よろしくお願いします」
「あ、私は、ファティ・リティと申します。どうぞよろしくお願い致します」
立ち上がり優雅にお辭儀をする。
「ち、ちっさ〜。華奢。それに、目がクリクリ、隊長のペットみたいな」
「こら!カーク!」
今度こそ、ロビンソンが拳を固め頭を毆る。
ロビンソンは、公務以外にも忙しいデュアンの代わりに近衛を纏めあげているのである。
部下の非禮には容赦がない。
「近衛の者なら、もっと禮儀を重んじろと何度言った!本當に、他の者が休みでなければこの者をここに連れて來るつもりはなかったのに……申し訳ございません。姫様」
深々と頭を下げられる。
「いえ、ロビンソンさま、ありがとうございます」
ニコッと笑うらしいにロビンソンのいかつい表が緩んだのを、ミューゼリックとデュアンは見逃さなかった。
コンコン……
扉が叩かれ、
「ラルディーン公爵閣下、公爵夫人、サー・デュアンリール、ファティ・リティ嬢、お時間でございます」
「あぁ、解った。では行こうか。デュアン。リティを頼んだぞ」
「はい」
立ち上がったデュアンは、手を差し出す。
「じゃぁ、リティ。お手を」
「あ、ありがとうございます。お兄様」
兄の手に小さな手を乗せ、もう一方の手は、兄に渡して貰った畳まれた扇を握り、ゆっくりと歩き出した。
途中出會ったのは、ミューゼリックやデュアンと同じウェーブの強い髪を緩やかに後ろにまとめた青年貴族とその奧方らしい可らしい。
にっこりと微笑む青年は、らかい聲で話しかける。
「初めまして、と言うよりも、久しぶりだね。ファティ・リティ。私はクシュナ、君の従兄弟だよ」
「お久しぶり……あっ!マカロンのお兄ちゃん……?」
「あれ?覚えていたの?隨分昔なのに」
「蝶々の名前を教えてくれたお兄ちゃんです。私の目をオオルリアゲハのだって言ってくれました。周囲には私のは誰もいなくて、お兄ちゃんは『蝶々が、君にこのがいいよって運んできたんだね』って……あ、クシュナお兄様、お姉様、私はファティ・リティと申します。今日は來て下さってありがとうございます」
お辭儀をするリティに、クシュナは、
「あの頃は小さかったのに、よく覚えていたね。私の方が転びそうになった時、咄嗟に怒っちゃったことしか覚えていなかったのに……。それに、その髪飾りはササキア?イヤリングはシジミアじゃないの?」
「あ、フェルディさまがおっしゃられてました。お兄様にはすぐに分かるって。そうです。ササキアとシジミアと言う蝶々です。お兄様見ただけで分かるんですね。凄いです」
「うーん。これは繊細な細工だね。それに、細かい部分まで再現されている。さすがはフェルディさま」
「兄上。後で、じっくり見て下さい。そろそろ行かないと」
デュアンが聲をかけ、ハッと我に返った。
「そうだったね。ゴメンゴメン。じゃぁ、先に行くから」
クシュナは妻と共に先を歩き出した。
「あーあ、兄上。又、エスティマを紹介しないで行っちゃった。つねられてる、つねられてる」
「エスティマお姉様と言われるのですか?」
「そうだよ。勉強したと思うけど、隣國の王陛下エレナさまの夫君クリストファー殿下の妹で、私たちの従姉妹」
「エスティマお姉様に後で挨拶をしますね。お兄様」
「そうだね。エスティも喜ぶよ」
デュアンは妹に微笑みかけ歩き出したのだった。
しかし、デュアンもミューゼリックもクシュナも、この後起こる事件に呆然とすることになる。
そのことはまだ誰にも解らず、王宮の大広間に歩いて行く一行だった。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜
「すまん、我が家は沒落することになった」 父の衝撃的ひと言から、突然始まるサバイバル。 伯爵家の長女ヴェロニカの人生は順風満帆そのもの。大好きな婚約者もいて將來の幸せも約束された完璧なご令嬢だ。ただ一つの欠點、おかしな妹がいることを除けば……。 妹は小さい頃から自分を前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢であるとの妄想に囚われていた。まるで本気にしていなかった家族であるが、ある日妹の婚約破棄をきっかけに沒落の道を進み始める。 そのとばっちりでヴェロニカも兵士たちに追われることになり、屋敷を出て安全な場所まで逃げようとしたところで、山中で追っ手の兵士に襲われてしまった。あわや慘殺、となるところを偶然通りかかった脫走兵を名乗る男、ロスに助けられる。 追っ手から逃げる中、互いに惹かれあっていく二人だが、ロスにはヴェロニカを愛してはいけない秘密があった。 道中は敵だらけ、生き延びる道はたった一つ。 森の中でサバイバル! 食料は現地調達……! 襲いくる大自然と敵の兵士たちから逃れながらも生き延び続ける! 信じられるのは、銃と己の強い心だけ! ロスから生き抜く術を全て學びとったヴェロニカは最強のサバイバル令嬢となっていく。やがて陰謀に気がついたヴェロニカは、ゲームのシナリオをぶっ壊し運命に逆らい、計略を暴き、失われたもの全てを取り戻すことを決意した。 片手には獲物を、片手には銃を持ち、撃って撃って擊ちまくる白煙漂う物語。 ※この物語を書く前に短編を書きました。相互に若干のネタバレを含みます。またいただいた感想にもネタバレがあるので読まれる際はご注意ください。 ※続編を別作品として投稿しておりましたが、本作品に合流させました。內容としては同じものになります。
8 54島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪
罪を著せられ島流しされたアニエスは、幼馴染で初戀の相手である島の領主、ジェラール王子とすれ違いの日々を過ごす。しかし思ったよりも緩い監視と特別待遇、そしてあたたかい島民に囲まれて、囚人島でも自由気ままに生きていく。 『王都よりよっぽどいいっ!』 アニエスはそう感じていた。……が、やがて運命が動き出す。
8 78家庭訪問は戀のはじまり【完】
神山夕凪は、小學校教諭になって6年目。 1年生の擔任になった今年、そこには ADHD (発達障害)の瀬崎嘉人くんがいた。 トラブルの多い嘉人くん。 我が子の障害を受け入れられないお母さん。 応対するのはイケメンのイクメンパパ 瀬崎幸人ばかり。 発達障害児を育てるために奮闘する父。 悩む私を勵ましてくれるのは、 獨身・イケメンな學年主任。 教師と児童と保護者と上司。 「先生、ぼくのママになって。」 家庭訪問するたび、胸が苦しくなる… どうすればいいの? ・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ |神山 夕凪(こうやま ゆうな) 27歳 教師 |瀬崎 嘉人(せざき よしと) 6歳 教え子 |瀬崎 幸人(せざき ゆきひと) 32歳 保護者 |木村 武(きむら たける) 36歳 學年主任 ・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 2020.8.25 連載開始
8 87脇役転生の筈だった
乙女ゲーム『エデンの花園』に出てくる主人公……の、友人海野咲夜。 前世の記憶というものを取り戻した咲夜はある未來のために奮闘する。 だって、だってですよ? この友人役、必ず死ぬんですよ? 主人公を庇って死んじゃうんですよ? ……折角の2度目の人生、そうそうに死んでたまるかぁぁぁ!! という思いから行動した結果、何故か私を嫌っている筈だった兄が重度のシスコンと化したり…。 何故か面倒事に巻き込まれていたり? (特にシスコン兄の暴走のせいですが) 攻略対象者とは近付かないと決めていたのに何故か友人になって…。 しかもシナリオとは違って同じクラスになってるし…!
8 119婚約破棄から1年後・・・・・・
1年前に婚約者だった當時の王太子から婚約破棄され、更に実家から勘當、追い出された『エミーナ・レオハルト』、今は王都にある小さな雑貨店を営んでいて、それなりに幸せに暮らしている。そんなある日、突然、王太子の取り巻きだった兄がやってきて・・・・・・。
8 138とろけるような、キスをして。
従姉妹の結婚式のために七年ぶりに地元に帰ってきた美也子。 そこで、昔から"みゃーこ"と呼んで可愛がってくれていた高校の頃の教師、深山先生と再會した。 「今すぐ、帰ってこいよ」 「みゃーこなら、勘違いしてもいいよ?」 深山先生はとても優しくて、かっこよくて。 「もっと俺を求めて。もっと俺に縋って」 でもベッドの中では、 ほんの少しだけ、意地悪だ。 【2021.6.12完結】
8 171