《ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし》閑話休題……館長、いつになくお怒りであらせられます。
騎士の館の館長こと……グランディア大公、清影せいえいは普段から穏やかで人格者と呼ばれている。
しかし、一部の人々からは、
「怒らせたらこの世は終わり」
と『最終兵その1』とも呼ばれている。
のだが……ある日の清影はいつになく荒れていた。
「……シエラ」
カズールの街のチェニア宮……カズール伯爵邸で執務をしていたシエラは、義兄の半端なく怒り狂った怒気に、顔を引きつらせた。
後ろで、『普段から破壊兵』である姉の清雅せいががオロオロとしており、義兄が怖かったシエラは、
「姉さま、又何か壊したの?」
いつもの挨拶と化している言葉を発する。
「違うわよぉぉ!いつもいつも壊さないわよ!失禮ね」
「いつも壊してるくせに」
「シエラもでしょ!」
『く破壊兵』とも呼ばれる弟を睨む。
清雅とは母親は違うのだが、シエラの亡くなった兄も『貌の破壊兵』と呼ばれ、三兄弟は父親が激しく嘆く程不用で蕓、の造形はなく、緒のかけらもなかった。
「……何で……セティーナに似ても、私に似てもある程度はあるはず……やっぱり父上ののせいか!」
「失禮な。私はちゃんと加減して計算して壊すとも!お前の子供達は、加減も遠慮も計算も策略も全部ぶっ壊すじゃないか!殘りは荒地のみ!」
と、父のヴィクターと祖父エリファス・レヴィは言い爭うが、
「父上。ヴィをあまり興させないで下さい。……疲れがたまると、暴発します。多分、もうすぐ……」
「じゃぁ、暴発させよっか〜?おチビちゃん」
「誰がチビだぁぁ!」
「ヴィ!」
ヴィクターの兄エドヴィンが必死に止めたのも虛しく、空から隕石が降り注ぎ、幾つか火球となって流れていく様子を見てエリファスは手を叩き喜び、その橫でヴィクターは気絶する。
息子のストレス発散の為に『暴発』させて喜ぶ父……鬼である。
兎も角、シエラの祖父は一いつまで生きやがる……と言われる程、長命でそれでいてタチが悪い師である。
真面目なヴィクターはストレスを溜めやすく、実父のからかい……ガス抜きをする度に、盛大な事件や事象を引き起こす。
目を覚ますと自分が起こしてしまった現象が調査隊が毎回編される程のおおごとになる為、嫌がるのだが、エリファスは、
「良いじゃないか。面白いんだし」
「……いつ暴発するかヒヤヒヤしてたから……うん」
と兄にも言われ、自分の質に嘆くしかない。
その父にストレスを増やさないようにと、最近のシエラは真面目にしていたのだが……。
「兄上?えっと……何かこちらから送る書類とか不備があった?」
無言で首を振る義兄に、突きつけられたものをとっさにけ取り、
「これは?」
「……幸矢こうやに會いに行こうと思う……一人で」
「えっ?ちょ、ちょっと待って!姉様はぁぁ?」
「……久し振りに、幸矢に會いたい……ルード兄上やシルゥにも……」
シエラは青ざめる。
いつもなら暴走する姉を監視することを優先させる清影が、幸矢……この國の國王であり、滅多に王宮から出ることのない孫の元に行くと言い張る時は……、
「……行っても構わないだろう?でないと、お前一人に稽古をつけてボロボロにしてしまうと思うが?」
ザァァ……の気が引く。
清影の言う稽古とは、騎士の館にいる時はほぼ封印している趣味の數々を師範である彼が弟子に教えると言う名目でどっぷり浸かることで……そのほとんどが、シエラや清雅が大の苦手としている。
「に、兄様……えっと……最近、なまってると思うから、み、皆をどうぞよろしくお願いします……ね、姉様は、責任を持って捕獲しておきます……」
「捕獲ってなによ!」
「……盆栽……茶道……舞踴、花道、詩……」
ブツブツと呟きながら去っていく兄を見送るが、ハッとしたように、
「兄様!どこからいくの!移の鏡はそっちじゃないよ〜!」
「あ、そうだった……行ってくる……拳……弓道……」
戻っていくのを見送り、不安になり同じく執務に勵んでいた甥のシュウを見る。
「ねぇ、シュウ……送ってくる?」
「いや、そのまま付いて行ったら、親父殿が落ち著くまで戻ってこれない。向こうにはセイもいるから大丈夫だ……多分」
「多分〜!その方が困る!騎士団が使いにならなくなったら幸矢が危険!」
「それよりも、親父殿が置いてったその手紙を読めよ。親父殿があの狀態になってる原因だろう?そっちを対処した方がいいだろう。多分それを先に進めないと、最悪、親父殿が戻ってこない危険もある」
シエラは直し、即座に判斷する。
「こっちを進めます!姉様は、そこにいて!くな!ハウス!」
「何言ってるのよ!くなと何で家にれが同時進行なの!ムカつくわ!シエラ!暗殺!」
「母さん……ここで暴れて、セティーナお祖母様の品を1つでも壊したら、じい様が又『暴発』するぞ?しかも、泣きながら母さんを正座させて、お祖母様の話を翌日まで聞かされる……それでもいいのか?」
息子の一言に、ザァァとこちらもの気が引く。
清雅の父ヴィクターは、亡くなった妻セティーナのことになると、泣き続ける、想い出を語り続ける……つまりウザい!
小さい頃からこんこんと言い聞かせられた話は、耳にタコができる程である。
しかも、それが大袈裟でなく、リアルすぎて怖い……。
「お、おとなしくするわ……」
「そうしてくれると助かる」
「……ふーん……」
即手紙の束を順番に読んでいた……ちなみにすぐにしまうのは靜かに仕事のサポートをしていたロイド家の當主マーマデュークである。
不用なシエラが又、分かりにくくしないようにしている。
「……私もちょっと王宮行かなきゃ……フィアにここは頼むようにして……」
最後のシワだらけの手紙を読み終えたシエラは立ち上がる。
「姉様。ムツキやイズミさんには近づかないでね。マディ兄さんよろしく」
「かしこまりました」
「シュウ行くよ」
纏められた手紙をけ取り、歩き出す。
立ち上がったシュウは、
「おい、こら!兄貴!親父殿には言っといて、自分も変なところに行くんじゃない!全く方向音癡が!……マディ兄さん、すまない」
マディに謝りながら、シエラを捕まえ引っ張って行く。
その様子を見送り、マディは、
「シュウのおで仕事がはかどる……ありがたい……」
と呟いたのだった。
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