《殘念変態ヒロインはお好きですか? ~學校一のが「奴隷にして」と迫ってくる!~》10.世話焼き妹はお好きですか?
深夜二時を回ったころ。俺はPCチェアに座りながら、ある事で至極悩んでいた。
──エロ漫畫、全然描けてねぇ……!
涼風にモデルになってもらうべく服をぐよう催促する度に、無関係な長瀬がしゃしゃり出て邪魔してくるのだ。
的に言うと、「変態変態!」と連呼しながら涼風のを邪魔したり、しのペンタブを取り上げたりする。ぶっちゃけ、かなりウザい。ついに悪口に留まらず、妨害工作まで働くようになったのか……
なんせ、俺、絵ぇ上手いもんな。そりゃあ嫉妬して邪魔してくるのも當たり前かぁー!! ……違いますよね分かります。
何にせよ、いつまで経っても描き終わらないようでは困る。どうしようか……
名案を絞り出そうとするのにも疲れ、俺はぐったりと背もたれに重を預けた。世界が反転する。その時だった。
俺の視界に、あるエロゲが映り込んだ。先週妹が買ってきたエロゲで、昨日全ルート攻略完了した妹から授かったエロゲである。「妹とえっちしよ♥」というタイトルからも分かる通り骨な妹モノなのだが、肝心なのはそこじゃない。
パッケージだ。パッケージイラストが、ちょうど俺の描きたい構図にそっくりなのだ。
これは、使えるっ! これをモデルに描けば、執筆活も順調に進行することだろう。
俺は重い腰を上げると、エロゲのそばまで歩み寄り、それを手に取る。
一通りパッケージ裏に記載されていたあらすじを読んでみると、なんとゲーム容まで俺が描いているエロ漫畫の容に瓜二つだった。このエロゲをプレイすれば、シチュエーションの參考にもなるだろう。早速、明日部室でプレイするか。
……パクリ呼ばわりされないだろうな、俺のエロ漫畫。ま、まぁ細部は違うし大丈夫っしょ!
上機嫌な俺は、バタンとベットに倒れこむ。瞬時に眠気が襲ってきた。意識が急激に薄れていき──
♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
暗い暗い、闇に包まれた世界。
『お前、もう一ノ瀬に飽きられたんだよ』
バカにするような高笑いが、脳裏に響く。
『もう、あんたなんか興味ないし』
吐き捨てるような聲が、脳裏に響く。
『あいつさ、最近ちょっと調子に乗ってね?』
怒りをにした斷罪が、脳裏に響く。
『うわー…… これは引くわ』
──やめろ。
『よく考えたらさ、あいつ元から結構クズだったくね?』
──やめろやめろ。
『もうあいつ無視しようぜ』
──やめろやめろやめろ。
『あんたなんか──』
……
『死ねばいいのに』
────ッッッ!!
『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
俺は瞬時に目を見開き、勢いよくベットから飛び起きた。服がりきっていてる。恐らく、大量に汗をかいたのだろう。気持ち悪い。本當に心の底から気持ち悪い。
俺は目元に流れてきた汗を手で拭う。けれど、不快は拭えない。
本格的に脳が再起してくると、五が周りの狀況を認識しだす。
外は明るく、どこからか鳥の囀《さえず》りが聞こえてくる。時刻は朝なのだろう。そして、汗ばんだ俺の手には、心地よい溫もりがあった。誰かの手だ。誰かに手を握られている。
「おにぃ、だいじょぶ?」
側から淡々とした、それでもどこか不安気な、そういう聲がした。よく聞きなれた、高くて音量の小さいキューティーボイス。俺の妹だ。
可いらしい容姿をしていて、靜かで、兄《おれ》と同じくぼっちで。そんな中學三年生のである。
俺は聲のした方向、つまり右の方へ顔を向ける。すると案の定、妹の柊彩矢がそこにはいた。
き通る様な真っ白のが、俺の目の前を支配する。彩矢はパジャマ姿だった。元がチラリズムしているが、無もいいところなのでサービスはない。そもそも彩矢は実の妹だし、しようがない。
顔はいつも通り無表だが、眉が微妙に下がっていることから、心配していることが伝わってきた。長年付き添ってきた俺なら分かる。……年夫婦かよ。
「あぁ、大丈夫だ、問題ない」
當然噓だ。虛偽の発言だ。
けれど、妹を心配させるわけにはいかない。妹に頼るわけにはいかない。妹に甘えるなど、兄《おれ》の威厳ガタ落ちだからな。兄より優れた妹などいない!
「噓。おにぃ、凄く、苦しそ。だから手、握ってた」
あぁ、そうだよな、忘れてた。俺が妹と長い間時間を共にしたように、妹だって俺の側に居続けていたのだ。彩矢が俺の突発的な噓を見抜けないわけがない。
「何、あった?」
優しくて慈悲深くて、全てを包み込んでしまうような、そんなジト目で俺を見つめていた。
なんだよ、なにロリ母屬なんか持ってんだよ。思わず甘え付きそうになっちゃうだろうが。
「ちょっと悪い夢見ちゃっただけだ。心配してなくても大丈夫。気遣ってくれて、サンキューな」
俺は妹を安心させるため、ふっと微笑みかけながら。努めてらかい口調にするよう心掛けながら、禮を述べた。
悪夢──その容は、ずっと昔の出來事だ。それでも、一瞬たりとも忘れたことはない。
かつての人を初め、信じていた殆どの人間から裏切られた、そんな記憶。
そのトラウマは、今日のアンチ、ひいては人間不信たる俺を形した。妹以外の誰もを信じなくなったおで、あれから二度と騙されたことはない。それだけは、し謝だな。
とはいえ、最近は夢を見ること自減っていたのだが──今日は珍しいな。何か変わったことでもあっただろうか。
──いや、あるじゃないか。涼風のを知ってしまったという事件が。
きっとこれは警告だ。ふと涼風や長瀬に気を許してしまいそうになる、そんな連続テレビ小説ばりに甘ちゃんな俺を戒めるための、忠告なのだ。
あぁそうだよ。俺は誰も信じない、信用しない。それでこそ俺、柊裕也だ。俺は獨りで生き抜くことにかけては最強なのだ。
涼風は俺の専屬ヌードモデル、ただそれだけだ。友達になる気も、ましてや人になる気も頭ない。
「ん、なら、安心」
安堵したのか、彩矢はほっと息を吐く。けれど、話にはまだ続きがあった。
「おにぃ」
「何だ?」
「おにぃが世界、敵に回しても……彩矢だけは、ずっと味方」
珍しく無表を解いて穏やかな笑みを稱えながら、そんな心強い宣言をして──
──頭をでてきた。
優しい手つきだ。結構くすぐったい。それに、気持ちいい。
妹にあやされるとは、なんとけない兄の姿だろうか。誰かに見られたら死ぬ。
だけれど。
けれど同時に、兄を凄く大切に想ってくれていることも分かって。そんなこんなで、何となく幸せな気分に浸っている俺がいた。
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