《お久しぶりです。俺と偽裝婚約してもらいます。~年下ワケあり生真面目弁護士と湯けむり婚前旅行~》24. 本當に、俺と結婚してください(2)
それから、朔也はもつれた糸を解きほぐすようにしずつ語ってみせた。
依頼者を助けられなかった挫折から己を見失い、大手事務所への移籍を目指したこと。
そのためにレイラに近づいたが、作戦が失敗して偽裝婚約を企んだこと。
汚い自分を否定される恐怖や後ろめたさから、葉月に冷たくしてしまったこと。
それでもしてくれる葉月に想いがつのっていったが、同時に葉月を傷つけた自分が許せず、板挾みになっていたこと。
「全部、俺が弱かったから。昔、葉月さんに連絡できなくなったのも同じ理由です。俺はずっと逃げ続けてた……でもあなたのおかげでもうやめようって思えたんです」
話し終えたあとの朔也の表は、疲れもあるがどこかすっきりとして、憑きが落ちたようだった。
「まだ問題は終わってない。家族のことも仕事のことも、きちんとケリをつけます。葉月さんにふさわしくないなんていじけるつもりはもうありませんが、あなたの隣に立って恥ずかしくない自分でありたいから」
穏やかだが芯が通って力強い聲は、それまでの彼とはまったく違う。
放っておけなかったはずの朔也が急に頼もしく見えて、葉月はひそかに頬を熱くした。
「そんな、私なんて……ううん、これ、やめようかな。私も変わりたい。自信を持って朔也くんの隣にいられるような……作り笑いしない自分になりたい」
葉月の決意に朔也が目を丸くし、それから嬉しそうにそれを細める。
「素敵ですね。俺も葉月さんが本気で笑ってるのもっと見たいです。すごく可いし、見てると幸せな気分になるから」
らしくないストレートな言葉に、今度は葉月が驚く番だった。
「これからは素直に言おうと思って」と朔也が照れ笑いし、葉月の頬をそっとでる。
「雨、止んでましたね」
「あ……ほんとだ」
話し込んでいるうちに、いつの間にか空にはすがすがしい青が広がっていた。
春の午後のらかな日差しが、淡いの虹をうっすらと浮かび上がらせている。
東屋の屋から落ちる水滴はきらきらと輝き、地面からは雨上がりの匂いがした。
──夢みたいに綺麗。でも、夢じゃないんだ……。
「もっと近くで見ますか?」
朔也が葉月の手を引き、展臺の柵の前まで連れていってくれる。
並んで見下ろすと、この三日間を過ごした旅館や溫泉街、それから満開の桜たちが見えた。
「やっぱり似てますね」
「え?」
「ここが、あの基地に。昔もこうやって二人で桜を見た」
「覚えててくれたの……!?」
驚く葉月に、朔也は笑って頷いた。
「當たり前です。俺がここに來られたの、あの場所に似てるからあなたが來るんじゃないか、って思ったからなんですよ。ほら、旅館に來た日、番頭が桜の見える丘があるって言ってたから……葉月さん、基地好きだったでしょう?」
「……うん。すごく大切な場所だったよ」
「俺もです」
朔也の慨深そうな表を見て、葉月も同じ気分になる。
そして、最後に基地を訪れた日の記憶が蘇った。
あの日も桜は綺麗で、朔也は泣いている葉月を見つけてくれたのだ。
「……葉月さん」
景を眺めていたら、朔也が葉月の肩にそっとれてきた。
どうしたのかと聞く前に、へらかいものが重なる。
──あ……。
それは、葉月が今までじた中で一番優しいキスだった。
「朔也くん……」
「あなたにもう一つ伝えたいことがあります。手を出して」
真剣な表で乞われ、掌を差し出す。
彼がそこに乗せたのは、葉月が離れに置いてきたはずのおもちゃの指だった。
「──っ、これ……!」
「本當にありがとうございます。指を持っててくれて……俺を見捨てないで、助けてくれて」
朔也がやや張している様子で、一呼吸置く。
「好きです、葉月さん。あなたは俺の一番大切な人です」
ずっと心の底でんでいた言葉に、葉月の心臓が大きく震えた。
「散々傷つけたくせにこんなことを言うのは調子がよすぎるってわかってる。でも、もう一度チャンスをくれませんか」
──もしかして……。
鼓が速くなり、期待だけで頭が真っ白になる。
「本當に、俺と結婚してください」
はっきりと告げられた瞬間、葉月は世界のすべてが止まってしまったような気がした。
「……っ」
「どう、でしょうか」
「わ、私で、本當にいいの……?」
「葉月さん以外は嫌です。十四年前にも言ったでしょう?」
聲を震わせて尋ねる葉月に、朔也が安心させるように微笑みかける。
その表や聲の端々から、疑いようのないがじられた。
「……うん。ありがとう。私も朔也くんが大好きで、一番大切だよ……!」
溢れる涙を止められないまま、指を握って元に寄せる。
朔也は葉月を抱きしめ、再びそっと口づけてきた。
レンズ越しの彼の瞳もし潤んでいる。
「ありがとう、葉月さん。大人になったら迎えに行くって約束してたのに、こんなに遅れてしまってすみません」
「謝らないで。今日、ちゃんと來てくれたんだから」
指の背で涙を拭われ、葉月は本心から笑った。
「ほら、よく言うでしょ。ヒーローは遅れてやってくるって。朔也くんはやっぱり私を助けに來てくれた」
朔也が葉月の言葉に目を丸くする。
それから微笑んで、なぜかジャケットのポケットに手を差しれた。
「葉月さん、前にその指を渡したとき『幸せにする』って言ったの覚えてますか」
「うん。もちろんだよ」
「もう一度誓います。絶対にあなたを幸せにするって」
朔也の手が葉月の目前に何かを突き出す。
銀のボールチェーンにぶら下がった、小さな赤い戦隊ヒーロー。
それはあの別れの前日に葉月が贈った、ドラゴンレッドのキーホルダーだった。
「こいつが証人です」
朔也がいたずらに功した子どものようににやりとする。
葉月は驚きに言葉が出なかったが、ししたあと思わず笑いがこみ上げた。
朔也も聲を上げて笑う。
二人が明るく笑い合ったのは、十四年ぶりだった。
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