《家庭訪問はのはじまり【完】》第39話 イチゴドーナツと東京

私は、手帳の裏表紙の所に挾んであったシールを取り出し、瀬崎さんの手の甲に1枚った。

かわいらしいイチゴドーナツのシール。

「よくがんばりました。ご褒です」

そう。

小學校教諭にとって、1番馴染みがあるご褒は、シール。

シールひとつで、不思議なくらい頑張れるんだから、子供ってかわいい。

「くくっ

これ、嘉人なら、喜ぶんだろうなぁ」

瀬崎さんは苦笑してる。

「それは、もう、大喜びです。

ただ、嘉人くんは、予定帳にったのに、やっぱり剝がして、下敷きにり直し、やっぱり剝がして、定規にって、もうり付かなくなってるから、わざわざ糊を塗ってり直すんだけど、糊じゃ定規にはくっつかなくて剝がれてしまうから、最終的には、怒って癇癪を起こすんですけどね」

「くくっ

それは申し訳ない」

「いえいえ、それも嘉人くんの個ですから。

そうやって、シールは1度ったら、もう剝がしちゃダメなんだって、學んでいくんでしょうけど、今のところ、まだ學習できてません。

いつ、覚えられるのか、私も楽しみにしてます」

「じゃあ、スマホにでもっておこうかな」

と瀬崎さんは、スマホをポケットから出して、本當にかわいいイチゴドーナツのシールをった。

「え!?  いいんですか?

イチゴドーナツですよ?」

私が驚いて聞くと、

「夕凪にもらったご褒、どこにってもいいんだろ?」

とシールをったスマホを見せてくれる。

「いいですけど、社長さんのスマホにピンクのイチゴドーナツのシールがってあったら、取引先の人とか、驚きません?」

「そしたら、會話のいいきっかけになるから、いいんだよ。」

「そういうものなの?」

「うん。

『かわいいですね』とか『どうしたんですか』って聞かれたら、『いいでしょう?

  好きなにもらったんです』って答えるだけで、會話が盛り上がるだろ?」

す、好きなって…

私はまた、シャンパンを飲む。

結局、瀬崎さんの甘い言葉の數々に翻弄されて、私はシャンパンを飲みすぎてしまった。

食事を終える頃には、私はなんだかふわふわとご機嫌になっていた。

「夕凪は、先生をずっと続けるの?」

「うん。

できれば、定年まで先生でいたいな」

「そうなんだ。

じゃあ、もし、俺が東京に行くから、一緒について來てって言ったら、どうする?」

「ええ?  東京?

そしたら、東京の採用試験をけなきゃいけないから、すぐにはいけないかなぁ。

東京はどうか分かんないけど、現役の教師だと採用試験でいろいろ免除になる事もあるって聞いた事があるから、忙しくても現役のままけた方が有利らしいんだ」

そう、公立の小學校の教員は、地方公務員だから、他の都道府県には転勤できない。

「そうか。

先生も大変なんだな」

瀬崎さんは、さらっと言うけど、私は何かが引っかかった。

「もしかして、瀬崎さん、東京に引っ越すの?」

「いや、決まった訳じゃないんだ。

そういう選択肢もあるっていうだけの事だから」

そういう選択肢?

でも、瀬崎さんって、社長さんだよね?

「社長さんにも、転勤があるの?」

訳が分からなくて、酔いの回ったふわふわした頭で聞いてみる。

「くくっ

転勤はないよ。

今の會社は、元々、父の會社なんだ。

東京には母の親族がやってる會社があって、うちの業績を見たその親族からわれてるから。

でも、そうすると、時間も自由にはならないし、嘉人も転校させなきゃならない。

夕凪も連れていきたい。

って考えると、簡単には決められないな…と思って」

でも、簡単には決められないって事は…

「いろんな條件が許せば、東京に行ってみたいって事?」

私がそう聞くと、瀬崎さんは、し困った顔を見せた。

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