《家庭訪問はのはじまり【完】》第49話 尋問

「みぃちゃん、知らせるって、何を?」

「嘉人さんとみぃちゃんが従兄弟になるって、教えてあげるの。

みぃちゃんは、従兄弟がいなくて可哀想って、みんな言ってたから」

晴はにっこり笑ってそう言うと、止める間もなく、部屋を飛び出して階段を駆け下りてしまった。

「みぃちゃん!!」

私は、慌てて追いかける。

だけど、田舎の広い家とはいえ、所詮、庶民の一軒家。

あっという間に晴は居間にたどり著いてしまった。

「ばぁば、あのね、みぃちゃんに従兄弟ができるんだよ。

嘉人さんね、みぃちゃんの従兄弟になるの」

あちゃー

言っちゃったよ。

「違っ、違うから。みぃちゃん、違うの。

さっきのは、嘉人さんが、そうなったらいいなって思ってる事で、そうなるって決まった事じゃないの」

私は焦って説明する。

すると、母は、落ち著いた聲で晴に言った。

「みぃちゃん、お願いがあるの。

その嘉人さんのパパに下に下りてきてくださいって言ってきてくれる?」

「いいよ!」

晴は元気よく返事をする。

「でね、みぃちゃんは、そのまま嘉人さんとお二階でしばらくの間、仲良く遊んでてくれるかな」

「うん、分かったぁ」

晴は元気よく階段を駆け上がり、れ替わって瀬崎さんが下りてきた。

「お呼び立てしてすみません。

どうぞお座りください」

と母は座布団を差し出す。

瀬崎さんがそこへ座ると、母の尋問が始まった。

「いえね、夕凪とどういった関係なのか、お伺いしたいと思いましてね。

夕凪もいい歳なので、親がの事でどうこう言うものでもないのは、重々承知してるんですけど、やはりそれでも、娘が後ろ指差されるような男とは付き合ってしくないというのが、親心というものでね」

はぁ…

お母さん、聞く前から反対だって表明してるじゃない。

瀬崎さんは、ひとつ大きく息を吸ってから話始めた。

「今日、このようにお邪魔するつもりはなかったので、ご挨拶は春に夕凪さんから正式にお返事をいただいてからと思ってたんですが、これも何かの縁だと思いますので、正直に申し上げます。

私は、夕凪さんが好きです。

先日、プロポーズもして、春になったら返事をいただく約束になってます。

ただ、誤解をしていただきたくないのは、夕凪さんは、私からのアプローチに何の返事もしていません。

あくまで、擔任と保護者の関係をきちんと保っていらっしゃいます。

現在は、夕凪さんが擔任する子供の保護者が、一方的に好意を寄せている…という狀況に過ぎません。

夕凪さんには、全く非はないので、ご安心ください」

「そうですか。

離婚なさってるそうですが、いつ、離婚されたんですか?」

「ちょっと、お母さん!!  失禮でしょ!?」

私は慌てて、割ってる。

「いや、いいんだよ」

瀬崎さんは私を手で制して、

「去年の7月です」

と答えた。

「それは、ほんの半年前という事ですか?」

今度は兄から落ち著いた聲で質問が飛ぶ。

「はい」

瀬崎さんも落ち著いた様子で答える。

「離婚の原因は?」

「ちょっと、兄さん!!」

私は止めようとするが、兄は聞いてはくれない。

「夕凪は黙ってろ!  大事な事だろ。

もし、原因が浮気や暴力だったら、どうする!?

お前と一緒になってから同じ失敗を繰り返さない保証はないんだぞ?」

「大丈夫だから」

瀬崎さんは、私に微笑む。

「私も人の親です。

夕凪さんを心配する気持ちは、分かります。

遠慮なくなんでも聞いてください」

瀬崎さんは、そう前置いて続ける。

「離婚の原因は、浮気と暴力です。

ただ、それをしたのは、妻ですが。

夕凪先生が気づいてくださったんです。

嘉人が妻から暴力をけていると。

私は、妻が以前から浮気を繰り返している事に気づいていましたが、嘉人のために気づかない振りを続けてました。

しかし、嘉人を待してるなら、離れてもらった方が嘉人のためになると思い、すぐに離婚を決意しました」

「そう…でしたか。

それは、大変でしたね」

兄は他に言葉が見つからないようだった。

「夕凪とはいつから?」

今度は母が質問する。

「夏休みに偶然お會いした時に際を申し込みましたが、その時から、春まで返事は待つつもりでした。

ですが、私の想いが募りすぎて、先日、結婚を申し込みました。

夕凪先生がけてくだされば、嘉人の擔任を外れ次第、一緒になりたいと思っています」

「夕凪はどうなの?

この方と一緒になるって事は、いきなり小學生の子ができるって事よ?

今は小學生でも、5年10年したら、難しい年頃になるわよ。

その時、自分の子でもない子と、対峙する覚悟はあるの?」

それは…

「思春期の子が難しいのは、嘉人くんだけじゃないわ。

実の母でもうまくいかない場合もあるし、なさぬ仲でもそれほどの問題なく過ぎる事もあるでしょ?

それは、その時になってみないと分からないわ」

私が言うと、

「うまく行くかどうかを聞いてるんじゃないの。

うまくいかなくても、ちゃんと向き合う覚悟はあるかと聞いてるの」

と母は眉間にしわを寄せた。

「覚悟も何も、私は今も嘉人くんと真剣に向き合ってるし、それは立場が変わっても気持ちは変わらないわよ」

私が言うと、瀬崎さんが補足する。

「実は、嘉人はADHDという発達障害を抱えてるんです。

それに気づいて対処を教えてくださったのも夕凪先生で、保育園の頃から先生の手に負えなくて、ずっと先生からも無視され続けた嘉人と、初めて正面から向き合ってくださったのも、夕凪先生なんです。

嘉人にもそれは伝わったようで、最初にプロポーズしたのは嘉人なんです。

『僕のママになって』嘉人が夕凪先生にそう言ったのは、前妻との離婚が立する前でした」

「ふぅ…」

母はため息をひとつ吐くと、私を見て言った。

「でも、夕凪、あなた春には異でしょ?

こっちに帰ってくるんじゃなかったの?」

「えっ!?」

瀬崎さんが驚いて私を見る。

「お母さん!!」

私は慌てて母を制したが、言ってしまったものは元には戻せない。

「もう!!

そういう事は、正式な発表があるまで、保護者の方に伝えちゃダメなの。

常識で考えたら、分かるでしょ!?」

母に抗議した後で、私は瀬崎さんに言う。

「瀬崎さん、すみません。

これは聞かなかった事にしていただけますか?」

「それはもちろん、構わないけど、もう示は出てるの?」

「いえ、そうではないんですが、基本的に3年毎に異という暗黙の了解があるんです。

だから、何事もなければ、私はこの春、嘉人くんの小學校からいなくなります。

持ち上がって來年も擔任するという事はありません」

すると、瀬崎さんが首を傾げる。

「でも、もっと長く勤める先生もいらっしゃいますよ?」

「ああ、それは、ベテランの先生です。

最初の2回は3年で、その後は7年毎に異になります」

「つまり、この春から7年はこっちの學校に勤務するって事?」

私は、母をチラリと見て、ひとつ大きく息を吸う。

「帰る前に話そうと思ってたんだけど、私、拠點勤務地、変えたの。

春になっても今の學校の近隣の學校に異になると思う」

すると、今度は母が大きなため息を吐いた。

「瀬崎さん、息子さんとしお話させていただいてもいいかしら」

「お母さん!  嘉人くんに何を言う気?」

母は、焦る私を一瞥すると、

「何も言わないわよ。

もしかしたら孫になるかもしれない子と、しおしゃべりしてみたいだけ。

私は、発達障害ってどんなものなのかもよく分からないし、晴と同じようにうまくやっていけるのか、不安なの」

「そういう先観で見るのはやめて。

嘉人くんは、良い子ではないかもしれないけど、いい子よ。

それは、擔任の私が保証する」

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