《家庭訪問はのはじまり【完】》第50話 嘉人くんという子
「はいはい、分かったから。
誠治せいじ、子供たちを呼んで來てちょうだい」
と母は兄に依頼し、兄は立ち上がった。
「息子さんは、夕凪との関係は知ってるの?」
「いえ、知りません」
「そう、分かったわ」
母は、瀬崎さんに確認して、子供たちを待った。
パタパタと階段を駆け下りる足音が聞こえて、すぐに晴と嘉人くんがってきた。
「ばぁば、なあに?」
晴がニコニコと尋ねる。
「そろそろ、おやつでもどうかなと思ってね」
母がそう言うと、子供2人は顔を見合わせて、
「やったあ!」
と聲を上げた。
「夕凪、臺所から、適當におやつと飲みを持っておいで」
母に言われて、私は嘉人くんを殘して席を立つ事に不安を覚えながらも、渋々臺所へと向かった。
私が、あり合わせのクッキーとジュースを持っていくと、晴と嘉人くんは仲良く並んで座っていた。
「そう、嘉人くんっていうの。
私は夕凪先生のお母さんなの。
よろしくね」
「うん」
母と嘉人くんが會話するのを見ながら、子供たちの前にお菓子とジュースを置く。
「夕凪先生、ありがとう」
嘉人くんは、にっこり笑ってお禮を言う。
「ふふっ
どうぞ、召し上がれ。
でも、お友達には、先生ん家に來た事もおやつを貰った事も緒よ。
みんなが夕凪先生ん家に行きたいって言うと困るからね」
私がそう言うと、
「うん。
僕と先生だけのね」
と嘉人くんは、人差し指を口元に當てた。
ふふっ
かわいい。
「嘉人くんは、夕凪先生の事、好き?」
母が尋ねる。
「うん!  だーいすき」
「學校では、どんな先生?」
「うんとね、すっごく優しいよ」
「怖くない?」
「全然」
「怒られない?」
「毎日、怒られるけど、夕凪先生は、叩かないもん」
母は、一瞬怯んだように私を見た。
「そう。
嘉人くんは、叩かれた事あるの?」
「お母さん!!」
私は慌てて止める。
子供に、そんな辛い過去を思い出させなくても。
「あるよ。
ママは、怒るたびに叩いたもん。
僕が怒られる事するからダメなんだけどさ」
嘉人くんは事もなげに言う。
「みぃちゃんは嘉人くんと遊んでて、楽しかった?」
母は、今度は晴に聞く。
「うん、楽しかった!
嘉人くんね、かけっこ1番なんだって。
縄跳びも上手なんだって。
後で、一緒に縄跳び、していい?」
「じゃあ、おやつ食べたら、縄跳びしようか」
私が言うと、
「やったぁ!」
と子供たちは、嬉しそうにクッキーを頬張る。
「え、でも、外はもう薄暗いよ」
瀬崎さんが心配そうに言う。
「大丈夫。土間でさせるから」
その後、私たちは、土間に移して子供たちが縄跳びを順番にするのを微笑ましく眺める。
晴は、ようやく縄を手首で回すコツを摑み始めたところで、前より軽く跳べるようになってきた。
嘉人くんは晴の縄跳びを借りて、いきなり二重跳びを跳ぶ。
「………8、9、10、11、じゅ、
  嘉人さん、11回跳べたよ!
  新記録じゃない?」
「うん!
帰ったら、冬休みの縄跳びカードに塗っていい?」
嘉人くんは嬉しそうだ。
「もちろん!
2月の縄跳び大會も楽しみだね」
私が言うと、
「縄跳び大會があるの?」
と聞き返す嘉人くん。
「あれ?
嘉人さん、また先生の話、聞いてなかったでしょ?
2月に縄跳び大會があるから、冬休みにたくさん練習してきてねって終業式の前の日に言ったよ」
私が教えると、嘉人くんは、
「へへっ」
と笑ってごまかした。
「縄跳び大會って、どんな事をするんだ?」
隣で見てる瀬崎さんがこそっと聞いてくる。
「育の授業でね、6年生に數えに來てもらうの。
全員で3分間跳びをして、あとは2種目好きな跳び方で跳んで、各種目ごとに賞狀が貰えるんだけど、1年生は、あまりいろんな種類を跳べないじゃない?
だから、例えば、二重跳びとかエントリーが3人しかいなければ、1回しか跳んでなくても賞狀が貰えたりするの。
逆に前跳びは、みんながやりたがるから、100回跳んだのに賞狀が貰えない事もあるし。
種目選びも重要なのよ」
私が説明すると、
「へぇー 」
と興味深そうに頷く。
「じゃあ、狙い目は二重跳び?」
「うん。あとは、差跳びかな。
意外と後ろ駆け足跳びなんかも、人気がないから、狙い目かも」
私たちがヒソヒソ話してると、弟が私の隣にやってきた。
「姉ちゃん、こんなとこでいちゃつくなよ。
そんなんで、よく付き合ってないなんて言うよな」
「なっ!!
べつにいちゃついてなんかないし」
焦る私とは対照的に、全くじない瀬崎さん。
なんで!?
「そう見えてるんだとしたら、嬉しいですね。
今のところ、私の片思いなので」
瀬崎さんは、にっこりと微笑んで言う。
もう!!
そんな恥ずかしい事、弟に言わないでよ。
「へぇ、瀬崎さんって、そういう人なんだ?」
弟は不躾に瀬崎さんを上から下まで眺める。
「そういうって、どう見えてるんでしょうね?」
「んー、照れもせずにを囁ける…みたいな?
毎日、してる、とか言っちゃったり?」
弟がそう言うと、瀬崎さんは笑い始めた。
「くくっ
それはご想像にお任せします。
答えはお姉さんから聞いてください」
なっ!?
瀬崎さん、ひどくない!?
なんでそこで私に振るの!?
「へぇ、
…だってさ。
姉ちゃん、どうなの?」
「そんなの答える訳ないでしょ」
私は、弟から顔を背ける。
なのに…
「姉ちゃん、顔赤いよ。
図星なんだ?
くくっ」
弟は、私の橫でクスクスと笑い続ける。
私は弟を無視して、視線を子供たちに戻した。
子供は子供で、嘉人くんが晴に一生懸命、あや跳びを教えているところだった。
遊んでいる時の嘉人くんは、やっぱり、普通の子と変わりなく…
教えてもらってる晴も、私と縄跳びをするより楽しそうだ。
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