《家庭訪問はのはじまり【完】》第70話 花道

最後は、子供たちの作る花道を通って退場する。

今日は、昨日、卒業した6年生も來てくれている。

みんなとハイタッチをしながら、人垣を通り抜けていく。

1年生の前を通ると、何人かのの子が泣いてくれていた。

それを見た途端、せっかく今まで我慢してたのに、一気に涙が溢れ出した。

私は、一人一人とハイタッチをし、握手をし、通り過ぎていく。

だけど、そんな時、みんなから一歩下がったところからこちらを眺める真央ちゃんを見つけた。

自閉癥の真央ちゃんは、こういう時、自分から前には出てこれない。

私は、「ちょっとごめんね」と人垣をかき分けて、後ろの真央ちゃんのところへ行く。

「真央さん、またね」

私はそう言って、真央ちゃんの手を取った。

真央ちゃんは、困ったように視線を彷徨わせながらも、こくんと頷いてくれた。

私は、また花道に戻り、みんなとれ合っていく。

すると、私の後ろを1年生がついてきてしまう。

私の後ろにもまだ1人先生がいらっしゃるのに。

私は、振り返って、子供たちに聲をかける。

「みんな、今はどこにいればいいのか、分かるよね?」

子供たちは、顔を見合わせて、元の場所に戻っていく。

だけど、嘉人くんだけは、戻らないで、涙で顔をくしゃくしゃにして私の後ろにくっついていた。

「嘉人さん」

私が聲を掛けると、そばにいた三宅先生が嘉人くんの手を取ってみんなと並ばせようとしてくれた。

だけど、嘉人くんはその手を振り払って私の所へ駆け寄ってくる。

「夕凪先生、行かないで。

夕凪先生、行っちゃやだ」

嘉人くんは、私の手を握って引き戻そうと引っ張った。

こんな風に引き止めてもらえるなんて、私はなんて幸せなんだろう。

私は、嘉人くんの前で立膝をついて、嘉人と目の高さを合わせた。

「嘉人さん、先生はずぅっと、嘉人さんの先生だよ。

それは、嘉人さんが2年生になっても3年生になっても、中學生になっても変わらない。

また、すぐに會えるから。

嘉人さんは、學した時より、ずっといろんな事を我慢できるようになったよね。

嘉人さんなら、もう大丈夫。

夕凪先生じゃなくても、きっと頑張って素敵でかっこいい2年生になれるよ。

先生は、そんな嘉人さんを見てみたいな」

私は嘉人さんの両腕をしっかり握って話をする。

「すぐって、いつ?」

嘉人くんは、しゃくりあげながら、尋ねる。

「うーん、お約束はできないけど、嘉人さんが先生の事を忘れないうちにきっと會えるよ」

「僕、先生の事、ずっと忘れないもん」

ふふっ

ほんと、かわいい。

嘉人くんのその一言で、せっかく止まった涙がまた溢れてきた。

「うん。

先生も嘉人さんの事、ずっと忘れないよ」

私はもう一度、嘉人くんを抱きしめ、床に置いた花束を持ち上げて、立ち上がった。

私は、そのまま、花道を通り抜けて、校長室へと向かった。

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