《家庭訪問はのはじまり【完】》第88話 瀬崎夕凪に……

そうして、仕事もプライベートも忙しく過ごしているうちに、あっという間に6月。

私はAccueilアクィーユの2階の廊下で、父と並んで扉が開くのを待つ。

純白のドレスをに纏い、張に押しつぶされそうになりながら、父の腕を取る。

「ゆうちゃん、きれい〜」

「うん、夕凪先生、すっごくきれい!」

後ろからかわいい聲が聞こえて、一気に張が解ける。

「ふふっ、ありがとう。

でも、みぃちゃんの方がかわいいし、嘉人くんはとってもカッコいいよ」

私は振り返って、ベールガール&ベールボーイの2人に言う。

今日は、晴はピンクのドレス、嘉人くんは黒のタキシードを著て、お手伝いをしてくれている。

おめかしをした2人は、本當にかわいい。

扉が開くと、目の前には、バージンロードに見立てた赤いカーペット。

その先に、ゆっくん。

ゆっくりとカーペットを進み、父のもとを離れて、ゆっくんの腕を取る。

參列者の前でを誓い、婚姻屆にサインをする。

も、さっきのベールガールとベールボーイが運んできてくれた。

ゆっくんに指をはめてもらい、私もゆっくんに指をはめる。

誓いのキスは…額。

だって、子供の前でキスって、なんか違う気がして…

だから、額。

ゆっくんは、背が高いから、額が丁度いい。

そのまま披宴にり、しばらくすると、突然扉が開いて、スポットライトがり口に當たった。

何!?

私が驚いていると、扉の左右から子供たちが現れて並んだ。

と同時にピアノの音が流れる。

見れば、招待客の1人、學年主任の松井先生がピアノを弾いている。

音楽の先生だけあって、うっとりするほど綺麗な音

流れてきたのは、『はなみずき』の優しい歌聲。

今の學校では、全校で同じ歌を朝の會で歌う。

月ごとに曲が変わり、5月の歌が『はなみずき』だった。

『いい曲だけど、低學年には難しすぎない?』って松井先生に聞いたら、『5月だから』って、あっさり返されて、まあ、そんなものかと思ってたんだけど…

校長も嬉しそうに、にこにこ笑いながら口ずさんでる。

しかも、なんで?

私と歌ってた時と歌い方が違う。

ちゃんと強弱をつけてて、すごく上手。

もう、がいっぱいで……

サビにると、抑えきれなくて、涙が溢れた。

ゆっくんが隣からハンカチを差し出してくれて、手を握ってくれた。

子供たちは合唱が終わると、

「夕凪先生、ご結婚、おめでとうございます!」

と聲を揃えて言ってくれた。

すると、いつの間にいたのか、すぐ後ろからスタッフのにマイクを渡され、司會者から一言を求められる。

一言って言われても、今、口を開いたら、涙が止まらなくなるよ。

「みんな、わざわざ來てくれてありがとう。

歌もとっても上手だったよ」

私は、ゆっくんのハンカチを握りしめて、鼻水を押さえながら、頑張ってお禮を言った。

その後、お直しに中座したついでに、涙で崩れたメイクを直してもらい、また席に戻る。

和やかに進む披宴だったが、また、扉が開き、スポットライトがり口に當たり、子供たちがまたわらわらと現れて整列する。

えっ?  何?

だって、2年3組はもう歌ってくれたよ?

だけど、その中心に廊下からではなく、會場から走っていく見慣れた姿。

「嘉人くん」

高砂席からは離れているから、よく見ないと顔が分からないけど、今、並んでるのは元1年1組の子供たち。

ピアノは、やっぱり松井先生。

今度、流れてきたのは、『向日葵の約束』

ひまわりのように元気いっぱいに歌ってくれた。

そして、最後にやっぱり、

「夕凪先生、ご結婚、おめでとうございます」

と聲を揃えて言ってくれた。

せっかく直してもらったメイクが崩れないように、一生懸命涙を堪えていると、なぜか嘉人くんがマイクを持っているのが、目にった。

えっ?  何?

「ひまわりのような夕凪先生。

夕凪先生がいつもひまわりみたいに笑えるように、僕は頑張っていい子になります。

パパと僕と一緒にひまわりみたいな家族になろうね。

夕凪先生、僕のお母さんになってくれて、ありがとう。

お母さん、大好きです」

初めて、嘉人くんから、お母さんって呼ばれた。

嘉人くんからのメッセージが嬉しくて、我慢してた涙が、さっきの比ではないほど溢れて、顔をあげられなくなってしまった。

また、スタッフにマイクを渡されたけど、私は何も言えなくて……

ただ嗚咽をらすばかりで……

喋るのは慣れてるはずなのに、こんなに何も言えなくなるなんて……

「………はい」

私は泣きながら、それだけをようやく絞り出した。

そんな私の背中をゆっくんがとんとんと優しく叩いてくれる。

ようやく落ち著いた私だったが、その後に続くのは、両親への手紙。

私は、また、泣いてしまった。

そのあと、ゆっくんの挨拶。

その中で、

「夕凪は、荒んだ俺の心に咲いた一のひまわりでした。

この優しいひまわりを100年後も咲かせ続けられるように、一生をかけて守っていきます」

と言われて、また泣いてしまった。

結婚式って、こんなに泣けるものなの?

今まで、何回か友人の結婚式に出たけど、こんなに新婦が泣いてるの、見た事ないよ。

自分でも呆れるほど涙がこぼれたけど、止めようと思って止められるものでもなくて、私は化粧を崩しに崩した。

その夜、私たち家族は、3人で役所に出向いた。

3人で婚姻屆を提出し、私は晴れて、瀬崎夕凪になった。

「夕凪の名前は、俺の嫁になるためにつけてもらったみたいだな」

帰りのタクシーでゆっくんが言う。

「なんで?」

「瀬崎って、淺瀬に続く岬って意味だし、夕凪も、夕なぎって、夕方の穏やかな海の事だろ。

なんだか、景が目に浮かばないか?」

言われてみれば…

「ふふっ

じゃあ、私たち、こうなる運命だったんだね」

私たちの間に座る嘉人くんは、すでに夢の世界へと旅立っていた。

家族3人、ここから幸せが待つ未來へ向かって歩み出そう。

たとえ、困難が待ちけていたとしても、その先には必ず幸せが待っていてくれるはずだから。

───   Fin. ───

あとがきの後ろに番外編を追筆しました。

併せて読んでいただけると嬉しいです。

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