《婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪》03
「singi areahps earahikay icimini soluco etna」
「rutamirpmoc esoatigan mutnev metsoh」
魔との戦場で魔法の呪文が飛びい、あちらこちらで剣戟の音が響き渡る。
休戦協定は無事に締結し、南の魔王は魔の討伐に協力はするがその代わりとして國側からも一個師団の派遣を要求してきたのです。
そしてその中にはかつて魔人になったヨハン様を退治したシャルル様、勇者様やドロテア様、そして私が參加しています。
私の役目は後方支援ですが、神殿に戻らなくても治癒が出來るということで中々に重寶がられる役割となっております。
「mativ menimoh sued etsi metulas ni maut mamina oseauq is」
私はこの戦いの最中に行方をくらませる手はずになっており、それには東の魔様の配下の魔人が協力をしてくれるのだそうです。
いくつもの呪文を唱えるのは流石につらく、私は一息つくために水を飲んで前方の戦場を見ます。
良くは見えませんが、攻撃魔法のが見えますので、シャルル様やドロテア様も前線でかれていらっしゃるのでしょう。
戦場というものの凄慘さに初めは委していた私も今ではすっかりと慣れてきてしまいました。
もともとや怪我に慣れているというのもあるかもしれませんね。
「巫長様、また怪我人が來ました」
「すぐに運んでください」
休む間もないというのはこういうことを言うのかもしれません。
夜になっても魔の侵攻は活発で、いいえ、夜の方こそ魔の侵攻は活発と言えるのかもしれません。
そして今夜私は守りの薄い後方部隊の隙を突かれて魔人にさらわれることになっているのです。
「レイン、張していますか?」
「はい」
「大丈夫ですよ。ディアナがくのですからこういっては何ですが失敗するはずもありません」
「東の魔様を隨分信頼なさっているのですね」
「育ての親ですからね」
し嫉妬してしまいます。
私は魔人に攫われて東の森にを寄せながらシャルル様が迎えに來るのを待つことになっております。
シャルル様は妻を攫われたショックと、今回の活躍の褒に樞機卿の地位を返上して、私を探しに旅に出るというシナリオになっております。
きっと多くの方が止めるのでしょうが、シャルル様が私を心の底からしてくださっているのは、皆様ご存じなので最終的には承諾してしまうとシャルル様はおっしゃっていました。
魔人に攫われた巫など、すぐに犯されてその力を失ってしまうというのが定説ですので、神殿としては私を救うよりも力のあるシャルル様を引き留めたいと思うのでしょうね。
「早く迎えに來てくださらないと、東の魔様にあることないこと聞きだしてしまいますからね」
「それは困ってしまいますね」
「ですから早く迎えに來てくださいませね」
「ええ、すぐに」
そう言ってシャルル様はまた前線へと赴いてしまわれました。今この瞬間、攻撃魔法に特化した方はいなくなったと言えます。
この場に殘されたのは治癒魔法に特化した者ばかりになっているのです。チャンスは今しかありません。
私は通信機を使って東の魔様に合図を送りますと、あっという間に天幕が破られ気が付けば私は空の上に居りました。
「な、何事ですか!?」
「この巫長は貰っていく!しけりゃ探し出してみるんだな!」
下では必死に慣れない攻撃魔法を使う皆様がいて、申し訳なくなってしまいますが、私は一応暴れるそぶりをしながら魔人に攫われていきます。
魔人は東の森の方に真っ直ぐに飛んできましたので、東の森に捜索の手がるかもしれませんわね。
「空の旅というのはし寒いものなのですね」
「風が気持ちいいだろう」
「この度はご協力ありがとうございます」
「いいってことよ、うちの魔王様はこんなことがないと魔人を使わないからな」
「そうなのですか」
東の魔様は意外と穏健派なのでしょうか?
目的地の東の森の魔様のお屋敷に到著いたしますと、數人の魔人にお出迎えをされてしまいました。どうやら東の魔様のお世話をしている方々のようです。
「來たの、ね。いらっしゃい」
「お邪魔いたします」
「ゆっくりしていって、ね」
「シャルル様が迎えに來てくださるまで、お世話になります」
「その後も自由にいてくれて構わないの、よ」
「いいえ、シャルル様とも話し合ったのですが、世界をめぐってみたいと思っております。今まで國の中、それもほとんどを神殿という狹い空間で暮らしていた私ですから、世界を知りたいのですわ」
「そうなの、ね」
東の魔様は気が向いたら帰ってくればいいとおっしゃってくださいました。
私はその言葉に勝手ながら東の魔様はやはりシャルル様のことを自分の子供のように思っているのだと確信してしまいました。
戻ってではなく帰って・・・來てもいいとおっしゃってくださいましたから。
* * *
そうして、私が東の魔様のもとにを寄せるようになってから3年という月日が経ちました。
子供のだった私もすっかり大人ののものとなり、今ならシャルル様の橫に並んでも見劣りしないのではないでしょうか?
魔の討伐はひと段落ついたと風の噂、といいますか偵察に行かれている魔人の方々からの報で聞いております。
やはり私は巫の力を失ったと推測されて、巫長の地位から降ろされてしまっているようです。
もっとも、もう戻ることもありませんので未練などございませんけれども。
「アドルフ遅いわ、ね」
「きっともうすぐいらっしゃいますわ」
この3年間で東の魔ディアナ様ともすっかり仲良くなることが出來ました。
含んだものの言い方をしたりと最初はなかなかなれませんでしたが、お話をしているうちに、悪気はないのだということが分かり、だんだんと打ち解けていったという次第でございます。
そして今もこうして二人でお茶を飲みながらやっと神殿から解放されたシャルル様のことをお待ちしているのです。
「そういえば、いつまでシャルルと呼ぶのかしら、ね」
「え?」
「神殿の関係者ではなくなるのだから、本名で呼んであげたほうが良いのではない、の?」
「あ、そういえばそうですね。えっと、アドルフ様ですよね」
「そうね、そのほうがいい、わ」
ずっとシャルル様とお呼びしていたので違和がありますし、し照れてしまいますが、慣れていくことでしょう。なんと言っても時間はたっぷりありますからね。
「ねえミスト」
「なんでしょうかディアナ様」
「あの子のことをよろしく、ね」
「え?」
「私は、駄目だったから、あの子の依存先にはなれなかったから、ごめんなさい、ね」
「あ…」
そうか、と納得してしまう。ディアナ様は好きで神殿にアドルフ様を渡したわけではないのかもしれない。親に捨てられてしまったアドルフ様の家族になろうとしていたのでしょう。
けれどもそれが出來なかったから、せめて何かの代わりにと神殿に預けることにしたのかもしれません。
「大丈夫ですわ。これからは私がいますもの」
「そう、ね」
「それに私も巫長ではなくなりましたので、白い結婚の枷が外れましたし、子供もいっぱい作ってみせますわ」
「そう」
「きっと大家族になってディアナ様も退屈なんてしてる暇はありませんわ」
「そう、ね。そうだといいわ、ね」
ディアナ様はそう言ってゆったりとした微笑みを浮かべる。きっとまだ見ぬ未來に思いをはせていらっしゃるのかもしれません。
「子育てって大変なんだそうですよ、それこそ寢る間もないぐらいだそうです」
「それは困るわ、ね」
「ふふふ、魔人の方々にも協力していただきましょうね」
「それがいいわ、ね」
そう話しているうちに人払いの結界に侵してくる気配がありました。
「來たわ、ね」
「はい!」
「いってらっしゃい、な」
「いってきます」
私は以前ならはしたないと思って走りませんでしたが、今はそんな縛りもなくなりましたし思いっきり走ってアドルフ様の元に參ります。
「アドルフ様!」
「レインっ」
思いっきり抱き著けば、ぎゅっと抱き返してくださる腕の力強さにほっと息を吐き出します。
「アドルフ様、ミストとお呼びくださいませ、もう神殿の関係者ではなくなりましたもの、洗禮名は不要ですわ」
「なるほど、ではミスト」
「はい」
「お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」
「中々に有意義な3年間でしたわ。お料理も覚えましたし、お裁も覚えましたのよ。野営の作法も覚えましたわ」
「それは頼もしいですね」
「ええ、どうぞ頼ってくださいませ」
私はアドルフ様の腕の中で々なことがあったのだと自慢するように語り、アドルフ様はそれを飽きることなく聞いてくださいます。
それこそ、魔人が止めに來るまでずっとそうしておりました。
「ディアナ様もお待ちでしたのに私ってばついうっかりしておりましたわ」
「ディアナが待っているかはわかりませんよ」
「まあ、待っているに決まっているではありませんか、だって、家族なんですもの」
「家族?」
「ええ、ディアナ様はアドルフ様の育ての親、お母様ではありませんか」
「……そんな風に考えたことはありませんでしたね」
「ではこれから考えていきましょう。時間はたっぷりとあるのですもの」
何十年何百年という歳月を、共にしてくのですもの、ゆっくり一緒に歩いてまいりましょう。
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