《妹は兄をする》9―妹―『兄達の悩み』

「でもそれじゃあ…――」

「石に……」

「ん?」

「俺が化石になっても、お前や繭が発掘してくれるだろ?」

「え…?」

「お前が俺を発掘しなくても、妹(繭)ならするさ――」

蓮一は不意にそう呟くと瞼を閉じた。

それっきり黙ったままだった。優斗はその話しに首を傾げた。

「…なんで俺が発掘しなくても、あいつが発掘するんだ?」

「蓮一、お前さっきから大丈夫か?」

優斗は逆に心配になると、何気なく尋ねた。

蓮一は彼の膝から頭を起こすと、小さく育座りをした。

「……大丈夫なんかじゃないさ。ああ、本當はな。本當は落ち込んでるのさ。そうは、見えないだろ?」

「何だよそれ?」

「…5月10日、あれは忘れもしない。沙織里ちゃんの命日だ。彼が亡くなってからは毎年かかさずに、お墓參りをしていた。 だってそうしなきゃ、彼が寂しいような気がしたんだ」

「蓮一?」

「はじめは彼の命日にお墓參りに來る友人は結構いたんだ。それって、彼が周りにされてたってことだろ?」

「…でもな、そんなの初めだけだ。時が経つと、みんな忘れるんだよ彼のこと――」

蓮一は、ぽつりぽつりと彼に話し出すと、そこで手を握りしめた。

「彼のことを忘れた奴は、墓參りなんて來ない。ああ、その方が楽さ。一層、自分の記憶から彼を消したら楽だろうさ。でも、そんなの彼が可哀想だろ。俺はそれが嫌で毎年、彼の命日には墓參りしてる。未練たらしい奴かもしれないけど、彼を忘れるくらいならそんなのマシだった」

「蓮一、おまえ……」

 

「でもな…!」

「そんなこと続けてると、たまに息が出來なくなるんだよ…!」

「息が出來なくて苦しいんだ…!」

「心臓を鷲摑みされたみたいに、の奧が痛くて苦しいんだ…!」

「彼のお墓の前に立つと、急にそんな癥狀に襲われる時があるんだ…!」

「苦しくて辛くて、どうにかなりそうな時に、不意に思うんだよ…!」

「一層、俺も彼のことを忘れたらって…!!」

「――でも、俺には出來ない…!!」

「彼を簡単には忘れられない…!!」

「だから苦しくて辛いんだ…!!」

「だからあの日…――!!」

蓮一は溜まっていた思いを全部吐き出すと、小刻みに震えた。

優斗は蓮一の苦しみを黙って聞くと、

かける言葉も見つからなかった。

 

「…だったら一層、俺も死んでやるって思ったんだ。彼がいない世界がむなしくて、辛くて、ただ亡霊みたいに生きてる自分が辛くなったんだ」

「だからあの日、俺も死んで沙織里ちゃんがいる天國に一緒に行こうとしたんだ――」

「蓮一お前っ…!!」

優斗は蓮一のその話しに揺すると、

思わずぐらを摑んだ。

「……ははっ、でも死ぬ手前で妹に引き留められた。だから死に損ないさ。笑いたきゃ笑えよ」

「バカ野郎っっ!!」

ついカッとなると、優斗は蓮一の顔を一発毆った。顔を毆られるとそのまま、地面に倒れた。

「そんな冗談笑えるかよ!!」

「いくら辛いからって、そんなことしても、彼は喜ばないぞ!!」

「俺だってお前が死んだら悲しい!!」

「そんなこともわからないのかよ!?」

「優斗…?」

蓮一は優斗の悲しむ顔に揺した。 

「…俺だけじゃない。悲しむのはお前の両親や、妹なんだぞ?」

「そんなこともわからないのかよ……」

優斗は彼に対して怒りをじた。理由はどうあれ、自殺しようとしていたことに腹が立った。その証拠に右手が微かに震えていた。蓮一は優斗にその事を言われると、黙って下をうつ向いたのだった。

「…――妹、繭か。そうだな。両親はともかく、あいつは俺が死んだら一生許さないだろうな」

「死んだ理由が彼だったら、なおさらだ……」

蓮一は不意にそう呟くと、倒れた地面から起き上がった。

 

「安心しろよ、俺には本當に死ぬ度なんてない。だってあの時、カッターを手首に當てたとき一瞬だけ躊躇った。噓じゃない、本當さ…――」

「それで妹に見つかって、死ぬ手前で引き留められたんだ。繭は俺を責めたよ、泣きながらな。それこそ酷い顔だったよ……」

 

「"あたしを置いて死ぬなんて、絶対に許さない"」

 

「兄妹だからとかじゃない。あたしは蓮に死んでしくないって、はっきり言われたよ」

「可いだろ?繭は俺が好き何だよ、こんなどうしようもない兄貴を慕ってるんだ。 救いようもない俺を――」

「蓮一……」

「でも不思議なことにあの時は、繭の言葉に救われたような気がした……」

「死んでやるっておもった矢先に、なんでだろうな…?」

蓮一は急にあの夜のことを思い出すと、フェンスに背中をつけて寄りかかった。

優斗は何も言わずに彼の隣に並ぶと、

同じ空を2人で見上げたのだった。

 

「……優斗、お前はどうなんだ?」

「え…?」

「さっき一人で考え事してただろ?」

「俺だけ話すのはフェアじゃない。お前も話したらどうなんだ?」

「蓮一…?」

「毆られたついでに友の悩みを聞いてやる。いいから話してみろ」

「な、なんだよそれ…?」

「毆られたついでだ。どうせ誰にも話せない悩みだろ?」

蓮一は優斗の隣で不意にそう話すと、風に吹かれた前髪をかきあげた。

「別に悩みなんて……」

「お前、噓つくの下手だな」

「な、なんだよ。別に俺は…――」

「まあ、いいさ。気が変わったら聞いてやるよ、親友」

「蓮一……」

優斗は不意に悩みを聞かれると、そこで彼に話そうか躊躇っていた。だけど気が変わると、蓮一に突然、尋ねてみた。

 

「――なあ、変なこと聞くけどいいか?」

「変なこと?」

「ああ、こんなこと聞いたらおかしな奴かも知れない。それでも聞くか?」

「ははっ。なんだよいきなり?」

蓮一は優斗の何気ない質問に笑って答えた。

「あのな…――」

「自分の妹にしたことあるか――?」

 

 

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