《社長、それは忘れて下さい!?》EX_3. Autumn Petit-Gift 後編 *
※ 直接的な表現は省いていますが、ほんのりとR描寫があります。
 閲覧の際はご注意ください。
Side:龍悟
「涼花。何にするか決まったのか?」
ベッドの中で本を読んでいた涼花に同じ質問を繰り返す。
薦めた難しいビジネス書を嫌がることなく読み進め、分からないことがあれば即座に聞いてくる向上心を買い、彼にはベッドルームまで本を持ち込むことを許容している。だがそれはお互いがベッドにるまでの間だけ。龍悟がページの間に無言で栞をり込ませると、涼花もそっと本を閉じてくれた。
けれど問いかけに対しては、困ったように首を傾げられてしまう。
「いえ……まだです」
「早く決めてくれないと、俺が悩む時間がなくなるんだけどな」
わざとに急かすような言葉をかけると、涼花がまた『う……』と聲を詰まらせた。
ここ數日同じ話題で涼花をからかい続けていたが、さすがに本當に困り始めてしまったようだ。いよいよ眉間に深い皺が刻まれるようになってしまったので、今夜はもうこの話題は止めることにする。その合図の代わりに、涼花の隣に座り、を抱き寄せて長い髪にそっと指を絡める。
「ボーナスは好きに選んでいいが、誕生日プレゼントは俺に選ばせてくれ」
「えっと……あ、あんまり高いものはやめてくださいね。龍悟さんのお誕生日のとき、私、お返し出來なくなっちゃうので……」
「そんなこと気にしなくていい」
どうやら涼花にとっては、それも悩みの種のようだ。誕生日にプレゼントを返してしいとは一切思っていないが、龍悟が涼花の誕生日をちゃんとした形で祝いたいと思っているように、涼花も龍悟の誕生日をちゃんと祝いたいと思ってくれているらしい。
気にしなくていい、と自分から口にしたものの、誕生日を祝われるであろうその日のことを考えれば、自然と口元が緩んでしまう。プレゼントそのものは、本音ではどうでも良い。ただ涼花が自分のために何かしようと考えてくれる――そう思うだけでつい浮かれそうになってしまう。
「あの……ボーナスって、溫泉はだめですか?」
今から半年近く先のことを考えていると、涼花がおずおずと質問してきた。
「ん? 溫泉?」
「はい。遠出は難しいと思うので、近場で……龍悟さんが日曜も完全にオフのときとかで」
なるほど、そのパターンは考えていなかった。以前、旭が冗談めかして『教習所に通うのはどうですか?』と聞いてきて即答で卻下したことはあるが、確かに贈りが品でなければいけないと言った覚えはない。もちろん龍悟自も、その要を卻下するつもりはない。
溫泉。
そういえば忙しくてここ數年、プライベートでは一切足を運べていないと気がつく。
「一緒に行ってくれますか?」
上目遣いで不安げに確認されたので、またついつい表が緩んでしまう。
ボーナスなのだから自分のために使えばいいのに、涼花はちゃんと龍悟の予定まで織り込んで考えてくれている。仕事とプライベートの境界もないぐらいに忙しく働き、土日もなんらかの仕事に手をかけている龍悟の都合を酌んでくれる。そして日頃の疲れを一緒に癒したいと考えてくれるところに、書として、人として、龍悟を慮ってくれている気遣いをじる。
「そうだな。じゃあ仕事の調整して、そのうち行くか」
こっそりとおしさが増す龍悟の心に気付いていないらしい涼花が、ふわりと笑って『はい』と返事をする。その嬉しそうな笑顔を見ると、し前に引っ込めたというのに、またすぐに涼花に悪戯をしたい邪心が芽生えてくる。
「けど俺が一緒に行ったら、が休まらないんじゃないか?」
「そんなことはないですよ。休みのときは仕事のことはあまり考えないようにしてますし」
「ああ、いや。そうじゃなくて」
ちょっと悪戯が空振りした。
だからもっと踏み込んでみたくなる。涼花の反応が見たくなる。
立場も年齢も忘れ、心に戻ったように好きな子にささやかな悪戯をしたくなる。そんな稚な自分の発想とに苦笑しつつも、結局龍悟の様子を伺うように首を傾げるかわいい人を、もっともっとでたくなる。
「客室天風呂付きだろう?」
「あ、それいいですね。大浴場も好きですけど、ゆっくりお部屋のお風呂も……」
「……」
「……え。………! えっ……!?」
目線で『本當にいいのか?』と訴え続け、ようやくその意味に気付いたらしい。涼花は傍にあった枕を摑むと、突然無言で龍悟の顔にぐいぐいと押し付けてきた。華奢ななので痛みや苦しさをじるほどではない。ただ気付いて照れを隠すために割と本気で抵抗してくる姿があまりにも可すぎた。だから涼花の腕を摑むと、そのままベッドの中へ引きずり込む。
「何を想像したんだ、涼花?」
「~~っ、知りませんっ!」
そっぽを向いた涼花の首筋に、ちゅっと音を立ててを寄せる。するとそのがピクリと甘く反応する。
――ああ、ほら。
こんなにも可らしい反応を見せてくれるから、また服を引ん剝いて、なめらかなに指を這わせて、中にキスをして、啼かせて、酔わせてしまいたくなる。を重ね合って、しくてたまらない、と言葉から、視線から、指先から刻み付けたくなってしまう。なにもかもを教えたくなる。
「や、まって……!」
の全ての箇所に余すことなくれると、與えられる快に負けて涼花がイヤイヤと首を振った。
けれど本気で嫌がっている訳ではないことは知っているので、全を舌先で辿り、指先ででてやる。そして制止を気にせずに濡れた筒を獣のように猛る熱で穿つと、涼花のはすぐに快に飛び跳ねた。
いとも簡単に果てたを抱き寄せ、耳元にまた戯言を囁く。
「力ないなぁ。たまには俺と一緒に、ジムに行くか?」
「行きません……」
上がった呼吸で否定する涼花の顎の下をするするとでる。相変わらず首が細い。けれどらかいはいくらでていても飽きることがなく、やはり無理に筋をつける必要はないな、と気付いてしまう。
「そうだな……明日の朝は俺がジムから帰って來るまで寢ててもいい。だから今は、ほら――」
「やっ……!」
首筋をでてる指先をゆっくりと下へ落とし、桜桃の種のように膨らんだの突起を弄ると、またすぐに反応を始める。じっと龍悟の目を睨み付けて薄紅のが『いじわる……』とく姿を確認すると、また下腹部にずくりとが渦を巻く。
そのまま快楽へ墮とすように腰を打ち付けると、涼花は縋るように龍悟の腕を摑んで二度目の絶頂にを震わせた。
「……眠いか?」
目を閉じたまま荒い呼吸をしていた涼花だが、徐々に呼吸が落ち著いてきてもなかなか瞼が開かない。苦笑しながら訊ねると、涼花が素直に顎を引いた。
「……しだけ」
「ならこのまま寢ていい」
「ん……」
うとうととしている涼花の前髪をくしゃりとでてやると、しくすぐったそうに
「……おやすみなさい」
と呟いて、そのまま眠りに落ちていく。
「おやすみ」
ほどなくして、腕の中からすぅすぅと小さな寢息が聞こてきた。腕をかすところんと首を傾け、口を開けて小さな寢息を立て始める。そんなあどけない寢顔にもう一度口付けたい気持ちがむくむくと湧いたが、起こしてしまうのは可哀そうなので小さなはそっとの中にしまい込む。
その代わりに、ブランケットの端に置かれていた手をするりとでてみる。
「指、細いな……」
でながら、自分の指と涼花の指を見比べてみる。白い指は龍悟のそれよりも隨分華奢で、爪の先は桜貝のように付き、ベッドライトの淡いを集積してキラキラと煌めいている。清潔を優先しているのかあまり派手なは施していないが、それでも綺麗に整えられている爪を見つめながら、もう一度指先で細い手をなぞってみる。
ふと目が留まる。
しい人の、左手の薬指。
「さすがにまだ早い、か」
最近の涼花は仕事中に龍悟や旭の冗談に付き合うことが増え始め、以前よりも表が明るくなってきた。そのせいか涼花の存在を気にし始める男社員がちらほら目につくようになってきた。醜いを悟られたくないので極力表に出さないよう努めているが、涼花がだんだんと明るく接しやすいに変化していくことに、微かな焦りをじているのだ。
「本當、參るな」
まだ人として正式に付き合い始めてからほんの數か月だ。龍悟と涼花の関係を社で知っているのは、旭と社長車専屬運転手の黒木くろきだけ。
涼花は龍悟と付き合っていることを、まだ周りの人に知られたくないようだ。最初は『知られたくない』という涼花の言葉や態度にムッとした。だが理由を聞けば『仕事中も離れたくないんです』なんて拗ねた口調で可らしいことを言われてしまうと、不機嫌はすぐに嬉しさに変わってしまった。
だから仕方がなく許容しているが、涼花をの籠った目で見る社や取引先の男の姿を認識すると、早くこの指に自分のものである証を嵌めてしまいたいと思ってしまう。そうすれば涼花を完全に自分だけのものに出來ることはわかっているのだ。
けれど涼花を焦らせてはいけない。焦らせても涼花を困らせるだけだし、焦りを超えて混させてしまっては、龍悟が彼の記憶を失いかねない。もう二度と、涼花と過ごした時間のことを忘れたくはないから。
「だからあとしだけ待ってやる……けど、俺はそこまで気は長くないぞ」
ボーナスは涼花のむ溫泉旅行にしよう。誕生日プレゼントはこれからじっくり考えることにする。それなら左手の薬指は――街がの燈りで彩られ、雪が降り始める頃にでも。
「繁忙期に悩む時間をくれてやるほど、グラン・ルーナ俺たちは暇じゃないからな」
だからその場で『是はい』と即答させるように、ちゃんと仕向けておかなければならない。まずは涼花のみ通り、じっくりと溫泉に浸かりながら。
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