《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第八話
22時を過ぎて、瑞揶は一足先に眠った。
リビングに殘されたのは私と、瑞揶の馴染みを名乗る年、羽村瑛彥はむらあきひこ。
私が言えた義理ではないが、遠慮なく袋を開けてお煎餅を食べる彼は、かなりダラけている。
普通に面白いからでもあるが、私がテレビを見るのは人間界というものがどういうものか知るためだし、この瑛彥という年みたいにボケーッと口を開けながら見ているわけではない。
というか、なんでコイツはこんなにボケッとしてんのよ、人ん家でしょうが!
と、ツッコミをれたいけども彼は瑞揶の友達。
余計な手出しをするのはよすとして、それよりも、彼には聞きたいことがあった。
テレビ畫面がコマーシャルにると、馴染みである彼ならすぐに答えてくれるだろう事を尋ねた。
「ねぇ瑛彥? 瑞揶ってどんな奴なの?」
「あ? 見たまんまだろ?」
聞いてみると、バカみたいな顔で即答してくれた。
まぁ、そりゃそうよね。
見たまんまのほわほわにこにこした年なのは百も承知よ。
「表面上は、ああいうじよね。でも、たまに凄い目するでしょう?」
「……あー、アレか……」
尋ねると、彼はバツが悪そうに眉を顰めて頭を掻いた。
私が言った目、それはとても暗鬱としていて、虛ろで、深淵を徘徊しているように何も見えてないような、言い表すのに言葉が足りない悲しい目。
彼は稀にあの目をする。
共通點があるとすれば、そう……褒めたり、の話になったりすると、瞳からが消える。
「過去に何かあったの?」
「……別に、何もねぇよ。瑞っちさぁ、あれでも人気者なんだぜ? 何でも1人で出來るしな。告白も何件かけたそうだぞ」
「……そう。変な事は無いのね?」
「ねぇよ。あるとすれば、アイツの能力に関する事だな。あ、俺はダチだから知ってんだけど、沙羅っちは瑞揶から聞いてるか?」
「えっ、ええっ。まぁ……」
聞く必要がある経緯があったから知ってるけど、彼の言い振りからすると、他言無用みたいね。
というか、普通に沙羅っちって言ったわよね……。
別にいいんだけども……。
「アイツさ、日曜は能力の関係で慈善事業してんだよ。俺はそれで疲れてるのかなって思ってる」
「……それだけで、あんな目をするかしら?」
「沙羅っちさぁ、単で戦爭を止めに行けとか、病院1つの患者全員治せとか毎週言われたらどうするよ?俺なら鬱になるぜ?」
「…………」
納得して、思わず閉口してしまう。
なるほど、確かにそれなら筋も通る……。
けれど……。
「……の話でもああなるわ。おかしくない?」
「……さぁ? 日曜日にやる事は、多種多様だからな……。何をしてるのか、俺にはわからない。でも確かに――
瑞っちは告白を全部斷ってるし、その後に會うと、必ず悲壯に暮れてるんだ。意味がわからないけど、アイツに関連の話は振らないでやってくれ。アイツは不死だ、自傷行為なんて簡単にするぞ」
「――――!」
思い當たる節があった。
私が【魅了】でを乗っ取ろうとキスした後、彼は死んでいた。
関連の話は絶対にいけない。
その意味が、よく理解できる。
「……わかったわ」
「無理に深い詮索はするな。馴染みの俺だって、アイツの事はよくわかってない。けど、人の面なんてそんなもんだぜ? 俺たちが口で共有する報なんて、自分にとって都合のいいことしか言わねぇだろ?」
「……ふむ」
確かに、自分から自分のダメな點を言ったりはしないし、彼の言う事は一理ある。
私だって、魅了が効かないなら瑞揶にの上を話さなかった。
まぁ、それは結果オーライなんだけど……。
「聞く時が來るならそりゃ、瑞っちが鬱になったり、悪い方向に変わってからでいいだろ?今はまだ健全じゃねぇか。アイツはいい奴、それで俺たちも十分だろ?」
「……そうね。無理に嫌われる必要もないわ」
私なんて居候なんだから、嫌われたら追い返されそうだし……。
嫌われて得るものなんてないわね。
「まっ、沙羅っちも瑞っちの事心配してんだな。良い奴め」
「ふんっ。一応、家族ですもの。心配するわ」
「……家族ね。義父の旋彌さんは良い人だが、瑞っちは一人暮らし。仲良くしてやれよ?」
言いながら、彼は立ち下ろす。
私を見下ろす彼の顔は笑っているけど、目は真剣だった。
……家族。
私だって、家族とは縁がなかった。
いや、あったけども腐敗しきって悪臭を放つ縁だった。
けど――瑞揶なら、あの溫厚な年なら、私だって大歓迎。
「任せなさい」
だから私は、しっかりとそう返事を返す。
自信を持って。
「……りょっ。じゃあ俺は先に寢るから、部屋の後始末は任せるぞ〜」
「えぇ、おやすみなさい」
そのまま彼は私の方を向かずに去っていった。
なによ、良い奴じゃない。
類は友を呼ぶって所かしらね。
「んっ?」
ふと気付けば、テーブルの上にはお菓子のゴミが殘っていた。
……良い奴だけど、格には難があるわね。
さらに廊下から、何やらび聲が聞こえてきた。
「こらぁああ!! 瑛彥ぉおお〜!!」
「わぁあ!!? 瑞っちごめん!!」
…………。
早速っちゃいけない部屋にろうとしたらしい。
やっぱり、格に難があるようね。
もう一つ気付いたのはテレビがもうコマーシャルをとっくに終えているということ。
展開もわからなくなったテレビを消し、私も眠りについたのだった。
◇
「うぅ〜、寒いぃ〜……」
4月上旬の朝はまだ寒気が殘り、パジャマの上から僕は自分を抱きしめる。
昨日は1番先に寢たからか、起きるのも1番らしく、リビングには誰もいなかった。
のはまだ家に差し込んでないのか真っ暗で、僕は電気を點ける。
まずは昨日2人がきちんと片付けをしたかのチェックをした。
ゴミは全部捨てられてるし、テレビのリモコンも定位置に置かれている。
他にされた事も無いだろうし、チェックはこれで終わりかな。
あ、隠しておいたクッキーが食べられてる。
誰の仕業だか……。
気を取り直して、僕は洗顔してきてから冷蔵庫を見て食材を選び、臺所に立って調理に取り掛かる。
今日は魔界鮭のムニエルときんぴらごぼう、それから卵焼き。
ご飯とお味噌以外に3品を作っていると、大40分ぐらいが経っただろうか。
もうがリビングにってて、電気を點けてなくても明るかった。
このリビングダイニングは東側に縁側があるから、たくさんがるのだ。
時間は6時半くらい。
この時間になると、大いつも沙羅が顔を洗ってからリビングに來る。
そろそろかなぁと思っていると、思った通りに沙羅が前のめりになり、重たい足取りでやって來た。
「おはよ〜。沙羅、大丈夫?」
「……おはよ。大丈夫よ、7時間は寢たから……」
「そう? 調悪かったら言ってね?」
「あー、大丈夫よ……眠いだけ」
「……そっか。朝ご飯もうできるから、瑛彥起こして來るね」
「……ふぁああいっ」
「…………」
欠混じりの沙羅の返事を背にけ、僕はリビングを後にする。
リビングのすぐ隣にある客間その1の扉をノックしてから返事がないのを確認して開ける。
部屋の中では白いベッドをし、枕を腕に抱え、掛け布団を床に落とした、瑛彥がだらしない顔をして眠っていた。
……これが親友かと思うと、し悲しいのは何故だろう。
まぁいいけども……。
「ほら、瑛彥起きて。朝ご飯できてるよっ」
肩を揺すって起こしてみる。
ゆさゆさしてると、彼の片目が開いた。
「んあっ……? ……!!?!?」
「えっ!? なっ、なに?」
突然跳ね起きた瑛彥。
僕の顔を確認すると、何故かため息を吐く。
「……あービックリした。が起こしに來たと思ったら瑞っちか」
「君は一何を間違えてるんだよーっ、もーっ!」
「すまんすまん。ふぁ〜っ、寢ぼけてたわ……」
瑛彥は反省した様子もなく、頭を掻いてカーテンから映るを眺めている。
寢ぼけて親友をと間違えないでしいんだけども……。
そんな事を思っていた矢先、インターホンの音が聞こえてきた。
ピンポーンという無機質な音に、僕は頬を綻ばせる。
「お義父さんだ。瑛彥、リビング行っててね」
「へいへーい」
生返事を返しながらも再び寢転がる瑛彥を無視して僕は玄関の方へと向かった。
ドアスコープから見ると髭もなく、短髪で若々しいもう中年になる男が立っている。
白のワンポイントシャツ1枚とジーパンというラフな格好だし……。
僕はため息混じりに扉を開けた。
「おぉ、瑞揶。また背がびたんじゃないか?」
「びてないよっ。お義父さん、そんな格好で第一印象は大丈夫なの?」
「オープンな格好の方が、フランクでいいだろ? スーツで行ったら堅苦しいしな。新しい家族に、無理に張して話すこともないだろ?」
「……むぅ、さすがは警部さんだなぁ……」
気を使ってないと思ったら気を使ってるし、僕じゃこの人の手のは全く読めそうにない。
「さ、中にれてもらうぞ。全く、來るたび思うが、良い家買ったよな」
「あはは……1人で住むぶんには、広過ぎたかもね」
中にりながら他もない會話を2〜3わし、僕たちはリビングへ向かった。
リビングには瑛彥の姿は無く、ピンクのパジャマ姿でご飯をよそう沙羅の姿があった。
足音からか、彼も僕達に気付いてこちらを見る。
「ほぉ〜。家庭的で可らしいじゃないか」
「……お義父さんまでそんな事言わないでよ」
お義父さん、沙羅の貌に嘆するのはけないです。
沙羅ははてなをしながら茶わんを片手に僕らの方にやって來た。
「おはようございます。今度こそ、瑞揶の義父さんよね?」
「ああ。響川旋彌という。よろしくね」
「……私は、響川沙羅よ。それとも舊名を名乗った方がいいかしら?」
「いや、無理には聞かないさ。居候って事は、いろいろあったんだろう?」
「……ま、いろいろっちゃいろいろね。聞かれない方がありがたいわ」
「なら、俺も聞かないさ。ともかく、まずはメシにしよう」
「それもそうね」
2人は張もせずに話し合い、リビングの中へとっていく。
なんだか話を聞いててドキドキしたけど、何もなくて杞憂に終わったようだ。
僕も再び瑛彥を起こすべく、客間へと向かったのだった。
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