《連奏歌〜惜のレクイエム〜》第二十一話
沙羅は前に、自分の事を“魔王の妾の娘”と言っていた。
そして、さっきのサッカーしていた年は正當なる息子らしく、沙羅の様に戦わされるために生まれたわけではないのだろう。
けれど、沙羅は多分、どこかの施設で同じ境遇の子、または訓練させられる人と一緒に生活してたのではないのだろうか。
ナエトくんに危懼する必要はないようにも思えるし、そもそも僕の能力でこの世界で沙羅の事は記憶にないのだから警戒する必要すらないのだ。
だから、僕はいつもの調子で沙羅に聞き返す。
「その魔王の息子がどうかしたの?」
「面識があるのよ。何回か護衛をさせられて、アイツは私を見たこと、話したことがあるのよ」
「でも、今の世界に、“サラ”の記録は殘ってないでしょ?」
「…………」
疑問を問い掛けると、沙羅は焦りを見せるように歯噛みをして地を見つめた。
「……強力な力であっても、強力な人間に効かない場合があるわ。例えば、私は下級魔人の能力を一切け付けない。魅了なんて通じないわ」
「……それとこれとは話が別なんじゃないの?」
僕からすれば、僕の能力は強力な力というよりも、絶対の力のようにじる。
覆しようがそもそも無いよね、考えたら現実にできるんだから。
沙羅は僕がそう言っても、口を開かずにかして思い悩む様にしていた。
「……確かに、瑞揶の超能力なら通じる通じないの問題じゃないかもしれないわ。だけど、魔王はこの世界の神、自由律司神と対峙した時、一部能力をけ付けなかったとのことよ」
「……そーなんだ。なんかよくわからないけど、凄そうだねっ」
神様なら多分、全能だよね。
そのうちの幾つかを無効にできたんだから、凄い……のかな?
基準がよくわからない……。
「……兎に角、私の事がバレる可能があるわ。つーかなんでアイツはこんなとこにいんのよ。……考えても仕方ないけど、勧はやめましょ」
「あはは、殘念だね〜。沙羅のお友達なのに」
「……友達かどうかも微妙な関係だったのだけれどね」
ため息混じりに沙羅が言う。
護衛だったんだっけね、お友達じゃないのか〜っ。
けど、僕個人としては、沙羅のが半分混じった子と話してみたい気持ちもある。
「……アンタ、余計な事考えてないでしょうね?」
「えっ? なんで?」
「顔に出てるわよ。わかりやすすぎ」
「……痛いっ」
鼻先を摑まれる。
な、なんでだろう、そんなに顔に出てたかな。
とりあえず、今後もあのナエトくんに近づく事はできそうにないようだ。
「さて、じゃあ瑛彥を回収して帰りましょうか」
「……はーい」
「俺がなんだって?」
僕が返事を返すとほぼ同時に、瑛彥の疑問の聲が聞こえた。
聲の方には瑛彥の姿があって、僕達の來た道を通って瑛彥も來たようだった。
しかも――
「……おい、瑛彥。僕に會わせたい相手っていうのはその2人か?」
ビブスの上からタオルを首に掛けたナエトくんを後ろに連れていた。
近くで見ると、丸っこい顔付きをしている。
だけど長は160ぐらいで僕より小さく、目付きは沙羅みたいに鋭くて悪ガキみたいなじに思える。
髪は黒くてボブカットに近いじだからどことなく僕と似てるじもあって親近が湧く。
「げっ……」
対して、沙羅はあからさまに拒否反応を示した。
いつもはお調子者だから、こういう姿は珍しい。
「ああ、ナエト。つーか沙羅っち、何そんなに怯えてんだよ?」
「私の名を呼ぶなぁあ!!」
「は? なんで?」
事も知らぬ瑛彥は頭に疑問符を浮かべるが、奧から歩いてくるナエトくんは何かに気付いたのか、沙羅の顔を凝視する。
……あれ、バレた?
「……サラ? 君はサラって言うのか?」
「えっ、え、えぇ。まっ、まぁ? 普通の名前でしょ?」
「……何を慌てているんだ? そういえば君の顔に見覚えがあるような……」
「そ、そんなのは気のせいよ! 私と同じ顔のやつなんて100萬人ぐらいいるわ!」
「……それはそれでとんでもないな」
無茶のある言いに、ナエトくんはし引き気味になって沙羅の隣に居る僕に視線を移す。
「君は?」
「僕は響川瑞揶って言います。よろしくね、ナエトくん」
「ああ。しかし、間抜けそうな顔をしてるな」
「……ああ、うん、失禮なのは変わらないんだね」
変わらない、もちろんその比較対象は沙羅だけど。
半分同じという事はこういう事なんだね……。
「それで君たちは何の用なんだ?」
「え、ええと、あれよ。ね、瑞揶!」
用事の容を聞かれてテンパる沙羅。
僕に無理やり話を振らないでしいけど、仕方ないかな。勧するわけにはいかなそうだし、別の理由は――。
「……萬能だって聞いたんだけど、楽とか弾けるかな?」
「楽? いや、経験ないな」
「そっか〜、殘念。僕はヴァイオリンが得意だから、何か弾けるなら聴かせてもらおうと思ったんだよっ」
「なるほど。期待に添えなくて悪いが、僕は特に何か出來そうにはないな」
「おいおい瑞っち、部活に勧だろ――モガッ!?」
「余計な事を言うんじゃないわよぉぉおおおおおおおお!!!」
『…………』
折角の僕のフォローはこれまた瑛彥によって無駄に終わり、ナエトくんはジト目で僕を睨んできた。
沙羅が瑛彥の襟首摑んで持ち上げているけど、そのぐらいの事は瑛彥もけれるべきだね。
「……部活、か。悪いが、僕は部活に參加する気はない。今のサッカーだって、助っ人としてっているだけで、僕は部員じゃないんだ。そもそも、僕は魔王が第5子、ナムラ・ダス・エキュムバラ・ラシュミヌットだ。道楽に攜わるなど、本來なら言語道斷だが、この學舎に派遣された以上、人付き合いぐらいはしようと思って參加しているだけさ」
長々と理由を語り、部にらないことを明言するナエトくん。
この上からの言い、口調を変えたら沙羅と大差ないなぁ……。
「へー、殘念だな。気が向いたら頼むぜ」
「僕の気が変わることなど滅多にない。しかし……」
「?」
ナエトくんは再び沙羅の顔を凝視する。
沙羅は蛇に睨まれたカエルのように直してけなくなっていた。
しばらくそうして観察していたけど、やがてナエトくんは目を閉じ、踵を返した。
「……どうやら、思い違いみたいだ。じゃあ3人共、また學校で」
「ああ、またなー」
「ナエトくん、またね〜」
ナエトくんの言葉に瑛彥が、続いて僕が挨拶を返すと、彼はグラウンドの方へと消えて行った。
彼の姿が見えなくなると、沙羅はホッとしてをで下ろす。
「……はぁ。なんとかなったわね」
「……どうしたんだよ2人共。折角ナエトを部員にしたかったのに。そしたらの子も寄ってくると思ったのに」
「瑛彥、そんなくだらない企みを持ってたんだね……」
勧の理由もくだらなくて、ナエトくんを引きれることはなくなりそうなのであった。
◇
そして翌日、放課後の視聴覚室にて。
「茶菓子は矢張り煎餅に限るな。このい歯ごたえがなんとも言えん」
「でしょ? ウチはねー、お茶が染みて口の中でらかくなる煎餅が好きなんだよね〜」
「ふむ。人間界育ちでも魔族は魔族。僕と息が合うんだな」
黒板の手前の席で、どこから持ってきたのか湯呑みと醤油せんべいの袋を置き、環奈とナエトくんが語り合っていた。
僕と沙羅、瑛彥が教室後ろの空きスペースからその様子を見ている。
「……何でアイツがいんのよ?」
最早どうでも良さげな沙羅が尋ねる。
當然僕はそんなことを知る由も無いのだが、瑛彥は知っているようで人差し指を出し、説明を始めた。
「環奈が晝にさぁ、お茶飲んでたら茶菓子が無くて、茶菓子持ってる奴探してたんだとよ。そしたらナエトが煎餅持ってたから話し掛けて意気投合だってさ」
「……なんでそうなるのよ? 茶菓子探してクラス移までするとか環奈の行力あり過ぎでしょ」
「だなぁ〜。ま、もともとうつもりだったんだから結果オーライじゃね?」
「よくないわぁぁあああ!!!」
「ぐおっ!?」
「まぁまぁ。沙羅、落ち著いてよ」
「落ち著けるかぁああああああああ!!!!!」
沙羅を宥めようとしても、僕ではどうにもならずに瑛彥のぐらを摑み続ける。
ああ、瑛彥が白目剝きそうになってるよ……。
「オイそこ、煩いぞ! 僕が茶を飲んでるんだ。靜かにしろ」
沙羅のびに前の方から叱責が來る。
途端に沙羅は瑛彥を離し、そのまま瑛彥は倒れた。
「わ、わかったわ! 靜かにするわねっ!」
「……わかればいい」
沙羅の言葉に満足したのか、ナエトくんは環奈の方に向き直った。
沙羅はまた安堵のため息を吐く。
「……ねぇ瑞揶? この狀況、どうにかできないの?」
「え? できなくはないけど、そこまで気にしなくても良いと思うよ?」
「良いわけないじゃない。私のの危機が目の前にあるのよ!? どうしろつつーのよ!」
「その時は、僕が沙羅を守るよ」
「……はぁ?」
僕の言葉に、沙羅の顔は不満に歪んだ。
……守ると言われて、なんでそんな顔になるの?
「あのねぇ、アンタには々と足りないものがあるわ。度も勇気も力強さもない。そんなアンタが、守るなんて無理じゃない?」
「あはは、そうかもね。でも、沙羅は僕の家族だから、傷一つ付けさせないよ」
「……。そう……」
沙羅は短い返事だけを返し、バツが悪そうに目を伏せていた。
家族には無縁だったから、家族って言葉を出したらなんとも言えないのかな?
多用はしないけど、使える時は使っていこう。
「それにね、僕の能力は人の意思に関係ないし、倫理的にも々問題があるんだよ?例えば、今の場合ならナエトくんの存在ごと消しちゃうとかできる。だけどね?そんなことをんでない人もいるでしょ?だから僕はね、簡単に能力を使ったりしないよ」
「……誠実過ぎるわよ。もうしわがまますれば良いじゃない」
「僕は紳士だもの〜♪」
「……々しい紳士ね」
グサリと々しいという言葉が僕のに突き刺さる。
ううぅ、男らしくなりたいのに……。
「……ま、困った時は頼らせてもらうわ。私もアイツを気にせず、堂々とさせてもらうわね」
「うんっ。それでこそ沙羅だよ。いつも通りでいてねっ」
「ええ。じゃ、昨日今日の鬱憤を晴らすために、フルートでも吹こうかしらっ」
「……それは早く上手くなってね?」
今のままでは聞くに堪えない音を奏でる沙羅のフルートに、僕はし怯えるのだった。
それから理優も來て、まったりとした部活が始まった。
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