《どうやら魔王は俺と結婚したいらしい》509

ラキュが毆りかかって來た。

……そう認識したかと思えば、既にドスッ! と深々と腹に拳が當たっていた。

ぐっ……まっまったく、うっきが見えなかった。

「かはっ!」

口を大きく開いて唾を飛ばして後ろへが反れる。

このままじゃ倒れる、そう思った瞬間、ダンッ! と足を踏み鳴らし堪える。

「ねぇ、姉上がさ……今どんな気持ちか分かってる?」

ガシッ……とぐらを摑まれ引き上げられる。

くっ苦しい! そう思って抵抗するも、ラキュは離そうとしない。

「あ、そうか……。気持ちが分からないからあんな事言ったんだね」

「……くっ、このっ、離せ!」

冷ややかに笑うラキュの手を払い除け、さっきのお返しだ! と言わんばかりにラキュの顔面を毆る。

ベチッーー

鈍い音がなった、ラキュはしだけ顔を反らす……當たりはしたが痛がる様子はない。

と言うか、毆ったこっちが痛い……。

「俺だって、ロアの事を考えて決めたんだよ!」

そんな痛さに耐えながら言ってやった。

そしたら、ラキュの表が消えた。

完全なる無……その瞬間、が大きく震えた。

「はぁ?」

その一言だけで、俺は何も言えなくなった。

「……なに言ってんの? 考えた結果? 姉上の気持ちを知りながら逃げるのが? バカじゃないの?」

鋭く、そして猟奇的に眼を輝かせ俺を睨む。

ぽたっ……と俺の額から汗が吹き出て床に落ちた。

「さっき、やたら難しい事言ったけどさ。それが姉上を余計に悲しませる行だと思わないの? と言うかさ、なんでそう思ったの? 理解できないんだけど……」

「ぐっ……」

ギリリッ……

拳を俺の腹に當て、グリグリ押し付けてくる。

くっ苦しい……苦しくて、いっ息が……出來ないっ。

「ねぇ、黙ってないで答えなよ」

「がはっ! ……くっ、はぁ……はぁ……」

そう言って、ラキュは俺をドンッ! と後ろに突き飛ばした。

よろめいたが、転ける事はなかった。

そして、やっとまともな呼吸が出來て、弱々しく呼吸する。

そんな事をしていると、早く言いなよ、と言いたげにラキュが睨んでくる。

このっ……好き勝手言いやがって、だったら言ってやるよ。

それ言った後、毆り返してやる……じゃないと気がすまない。

「そんなの、さっきから言ってるだろ。気持ちに気付いてやれなかったからだ。さっきから言ってんだから理解しろよ!」

聲をあらげた後、俺はラキュに毆りかかる。

だが、簡単にその拳は摑まれてしまう。

そして、パシッ! と俺の拳を払らった後、嫌悪が滲み出た表をして……。

「ばっっかじゃないの? そんなの関係ないじゃん!」

こういって來た。

関係ない……だと? 俺にとっては関係あるんだよ!

だから反論しようと思った。

「俺にとっては関係……」

「 好きって言えば全部解決するんだよ! なんでそうしないんのさ!」

しかし、俺の言葉は強引に中斷させられた。

凄い剣幕で言ってくる、しまいにガシッ! と襟を摑まれる。

なっなんだよこいつ、なんだよこの迫力は……。

その迫力に気圧された俺は、じりっと後退りしてしまう。

「シルク! お前は好きなんだろ? 姉上の事がっ!」

「っ!」

「間抜けな顔してないで答えなよ……好き? 嫌い? どっちなのさ!」

顔が近い……ラキュの行に焦りながら俺は口を開いた。

そんなの答えは決まってる……軽薄な奴だとか、んな奴に疑問を持たれるかもしれないが、ロアが小さい頃に會って結婚の約束をした、ナハトだったと知った瞬間……。

「好きだよ……凄くな」

そう思ったんだ。

ほんと、調子の良い奴だとか言われそうだけどな。

……だけど、俺は。

「だったら! 答えはもう出てるじゃんか!」

「っ!?」

は? 答えは……出てる?

「姉上もシルクの事が好きだよ、シルクも姉上が好き、はいっ、相思相おめでとう! 告白すれば100%カップル誕生! これでめでたしめでたし代々円!」

えっえと、ラキュは……何を言ってるんだ? 俺の言ってた事が理解出來なかったのか?

「……。あのさ」

俺が疑問に満ちた顔をしてたら、ラキュがバチっ! と俺の頬を押さえつけてくる。

「シルクが考えてる事って矛盾してるんだよ。好きなのに、その人から離れようとしてる所が特にね。あとその考えは堅苦しいし難しいし理解不能だね。あとちょっとキモい」

「……は? キモい!?」

きっキモいって……なんでそんな事言われなきゃいけないんだよ!

「文句ありそうな顔してるけどさ……。事実じゃん、あまりにも相手を大事にし過ぎてる? そのじが完全にキモいね、まぁ多ならアリなんだろうけど」

嘲笑う様に言うと、ラキュは俺の左側に歩いてきてガッ! と肩を組んでくる。

「取り敢えずさ、難しい事は考えないで告白しなよ」

「……でも」

「でもじゃない。文句は言わせないし、これ以上ふざけた事も言わせない。これ命令だから」

……なっなんて強引な奴だ。

俺の気持ちは無視か。

「今、俺の気持ちは無視かって思ったね」

「っ!?」

「くふふふ、図星だね。ごめんね……僕は姉上の弟なんだよ? 強引な所は似てるんだよ」

……あっあぁ、そうだな。

そっくりだよ、言っても聞かないってのが伝わる。

それでもな、俺はやっぱり告白する訳には……。

「後悔するよ?」

「……え?」

ラキュが俺の顔を覗き込んで來た、大きく眼を開いて見つめてくる……。

「シルクがこのまま帰ったら必ず後悔する。だって姉上の事が好きなんだからね。近くにいるのに告白しないまま帰るのは後々辛くなるよ……絶対に」

「…………」

後悔? いや、そんな事は絶対にない。

ロアの事を考えれば、俺はそうした方が良いんだ。

「それにさ、ここに連れてきて々あったけど。どうだった? 嫌だった? 今の気持ちを聞かせてよ」

今の気持ち……だと。

ここに連れて來られてからか……。

ラキュの問い掛けに何故か素直に答える気になり思考を巡らせる。

そう……だな。

思えば々あった、ロアと會った時はの姿だった。

あの時は、俺が対象がだと在らぬ事を思われたが、ちゃんと否定したな。

で、なんやかんなあって魔王城ここに連れて來られて、店を貰ったり、ロアと味しい料理を食べたりした。

あと、コスプレさせられたりもしたな。

それがほぼ毎日あった……あれは苦痛だった、ほんと止めてしいと思ったよ。

あぁ、そう言えば……俺が風邪引いた時は看病して貰ったな。

お粥とかも作ってくれた……あの時は、謝しかなかった。

後は海に行ったり、ハロウィンしたり、あぁ……一緒に街を歩いたりもした。

思えば、あぁやって一緒に暮らしてたのは……俺が小さい頃に會ってたナハトなんだよな。

「……あ、あれ?」

突然目頭が熱くなってきた、それと……ほっぺたが、熱い。

なにか筋のようなが伝う、気になってってみると、指が濡れた。

え、俺……泣いてる、のか? なっ、なんで泣く? おっ可笑しくなったのか……俺は。

そう思うと同時に、俺は無意識に、吐く息の様に自然と……。

「凄く……楽しかった。忘れられない思い出だ。俺……やっぱり、帰りたく……ないな」

こう言った。

その數秒後、自分で自分が言った事に驚いた。

帰りたくない……俺はそう言ったのか?

「出たね。素直な気持ち……と言うわけでさ、そう言ったんならやる事は分かるよね?」

にっ……と笑うラキュに焦り、ばっ! とラキュから離れて。

「いや、だから……」

慌てながら言った。

そしたら……。

「うるさい、僕が今決めた。文句は言わせないから」

笑顔でそう言われた。

その後、ラキュが消えた。

え? と思って辺りを見渡してると背中に気配をじる。

振り向こうとすると……。

「こんなとこで逃げたら許さないよ?逃げたら姉上は絶対に泣く。その後絶対に部屋に閉じ籠る……僕はそんな姉上は見たくない、だからさ……気持ち、伝えてきてよ」

そう言われ、ドンッ! と突き飛ばされる。

その瞬間、目の前の景がぐにゃりと歪み……景が暗転し……また別の景に切り替わった。

こっここは……さっき俺がいた、廊下?

もしかしなくても……ワープさせられた。

呆然と立ち盡くし、窓の外を見てみる。

…………鳥が飛んでるな。

呑気に外の景の様子を思った後、ラキュの言葉が頭に過る。

「……まったく、姉が姉なら弟も弟か」

俺の気持ちなんか無視して自分の言いたい事だけ言ってくる。

……だけど、今あの瞬間に限っては良かった。

で目が覚めた。

ラキュが言った様に、俺は……堅苦しくて難しくて理解不能な上にキモかった。

廊下に放り出された時に言われた言葉を聞いて、そう思ったよ。

……そうだよ、なんで今まで気が付かなかったんだ。

ここで帰ったらロアが悲しむ、絶対に泣く。

どうしてそんな簡単な事が考えられなかった? アホか俺は!

「俺がやるべき事は……ロアの気持ちを汲み取って、俺の気持ちを伝える事だろう……」

行こう、ロアの所へ……俺の気持ちを伝えるんだ!

ヒリヒリと痛むの事なんてお構い無しに俺は走った。

一刻も早く気持ちを伝えなきゃいけないからな……これ以上待たせてなるものか、ロア、今から行くぞ、待っててくれ。

そう思いながらぎゅっと拳をつくり、俺は走り続けた。

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