《高校ラブコメから始める社長育計畫。》09.せかせか
土曜の午後、俺たちは我が母校『月高校』にやってた。
陸上部のトレーナーになりたいがために、院長とエリカに付き合ってもらい、顧問と渉をしに行くのだ。
「院長、渉も持ってるんすか? 教えてくださいよ」
くれくれ君。
「渉だなんてそんな大それたこと、僕にできるわけないじゃないですか。そんなのはプロのマネごとしても無駄ですって」
「そうなんすか?」
「僕はいつも言ってるように、ギブ神。誠実に誠実に。インテグリティというものです。何かお役に立てないかを一番に考えましょう」
「役に立てないか、か」
こないだのフラッシュモブみたいなじだな。
誰かの為に利益になりそうなことを。
「まあ渉とかに限らず、まず相手のことをよく知っておくことは大事ですよね。そして結論をしっかり伝えるんですよ。ノーと言われてからが渉と言われてますから。相手の立場に立って考えて。誠実に。誠実に」
「誠実に褒めるんすか? 褒めキング」
「渉となれば下手な褒め言葉は逆にいやらしく見えますから。褒めるときは第三者を使うといいですね」
第三者を使う、か。
確かにこないだ院長から、エリカが俺のこと褒めてたって聞いたときは嬉しかった。
「で、相手の求めていることを明確にして、そこに対して譲歩なりをしていくわけです。作ったものをいかに上手に薦められるか、ではなく、いかにむものを提供できるかだと思います」
學校に著くと院長は事務員さんに話しかけた。
「アポはとってあります。お忙しい時間を頂戴するので」
會議室に案された俺たち。
陸上部の顧問がやってくる。
真っ黒に日焼けした強面なおっさんだ。
生徒指導擔當でもあるらしく、前に髪を注意されたことがある。
地だから仕方ないんだが。
院長は自己紹介を済ませさっそく本題にはいった。
「単刀直に申し上げますと、この百瀬くんを陸上部子短距離のトレーナーとしてつけてやって頂きたいのです」
「スポーツトレーナーですか」
顧問は顎に手を當て、眉を顰めた。
「はい。僕の院にもこちらのサッカー部や野球部、運部の生徒さんがたくさん來てくださってます。もちろん陸上部の生徒さんも」
「そのようですね、いつもお世話になってると聞いてはおります。學校共済の証明書なども発行して頂いたりと」
「とんでもありません。陸上部のご活躍も先生の指導のたまものと生徒さんから聞いておりましたので、お會いできて栄です」
さりげなく褒める院長。
しかし反応はない。
ただのしかば――
「で、またなんで子陸上部の短距離を?」
生きてた。
「現在月高校陸上部、指導される方は長距離におひとり、短距離とフィールド競技系におひとりとのことですよね? 子短距離は人數もないことから男子と同じメニューで練習をされているとお伺いしまして」
「はあ、よく存じで。ただ高校生ともなればそこまで男の練習メニューの差をつける必要もないとじておるので、トレーナーはれなくてもよいかと」
ばっさりと斷られたな。
「そうですよね……僕もそう思います。なにかお力になれたらと思ったのですが」
「そもそも短距離の子は今、地區予選も勝ち上がるのが難しいレベルですしね」
夏香の出場がなくなって、勝ち上がるのも難しくなっているのは俺も知っている。
「そういえば今回の地區大會にヘルプでリレーに參加する箕面さんって子がおられますよね?」
「ああ、聞いてますよ。私が許可しました」
うふふ先輩が話してくれたんだとか。
「初心者がったばかりのリレーチームを面倒みながらというのは労力もいるのではないでしょうか? うちも百瀬君がトレーナーとして現場の経験を積めるなら、ボランティアという形で無償提供させて頂きたいと思っております。つまり、お互いにメリットしかないかと思いますがいかがでしょう」
「ふむ……」
顧問は腕を組み、口をとがらせている。
怒っているのか、悩んでいるのかよくわからない。
「ちなみにこの百瀬くんはちょうど箕面さんの昔からの親友だそうで、支えてあげたいというのも本音であるようです」
俺登場!?
「ども……」
「あんたは喋らないで……!」
上原に小聲で怒られる俺。
「なるほど……しかし生徒が生徒の指導にあたるというのはどうなんですかね。うちの學校では前例がありませんもので」
「そうですよね……すみません、一つだけお伺いしてもよろしいでしょうか? 逆に先生はどのような狀況ならトレーナーをれたいと思われますか?」
おっ、これは相手の求めていることを明確にして、そこに対して譲歩なりをしていくってやつか。
「うーん。なんだろう。勿論、強くなって、試合に勝って、というのも大事だと思いますが。私はね、勝ち負けが大事なのではなく、それまでの努力が將來の子供たちを強い大人にするんじゃないかなって思ってるんです」
へー。
意外な言葉が返って來た。
怒鳴り散らす系のややこしい先公だと思ってたから。
そして顧問は続ける。
「だから厳しい練習もさせますし、怒るときは怒ります。そこでどういていくか、悩んで自分で考えて、結果、勝っても負けてもそれはまた生徒たちにとっての財産になるでしょうし」
勝ちたいからってわけではないんだな。
結構考えてんだね教師も。
「なるほど、そうですよね! 悩んで自分で考えて……そこが先生の求めている在り方なんですね。わかりました。……では一度、短距離子の生徒たちだけでも一人ひとりの個別メニューを作してみるのはどうでしょう?」
「個別メニューですか……」
「男差、ではなく、個人個人の筋の質であったり、スタミナ・肺活量・瞬発力など僕が計測いたします。そして先生と生徒が一緒にメニューを作るんです。悩んで自分で考えて、きっと財産になるはずです!」
「ふむ……數値化できるのですか」
「はい。これはもちろん先生の指導のもとチャレンジしてみたいことでありますが、顧問のお仕事もお忙しいものと存じております。ですので、この百瀬くんにも一緒に悩む機會を與えていただけないでしょうか?」
「ども……」
「あんたは喋らないで……!」
上原に小聲で怒られる俺、再び登場。
「ほう。スポーツ醫學も組み合わせた個別メニュー。興味深いですな。しかし、うまくいっても相當の人數がおるので、そんな指導を全員に続けられるものではないかと」
「もちろん全練習は実績を殘されているほど素晴らしいものでしょうからそのままでいいと思います。個別メニューの時間はしでいいと思います。そこで、マネージャーさんや、選手自の中で、興味ありそうな生徒に対してスポーツ醫學を教えていくんです。基礎的なことは百瀬くんにしっかり教えてあります。計測は僕が無料でやりますから、バックアップさせて頂けませんか?」
そう、俺はスポーツ醫學を叩きこまれている。
現在進行形。
「ふむ、面白いですね。私もその計測というのはけられるんですか?」
「もちろんです。陸上競技のことは先生に比べたら僕なんか素人レベルですが、醫學的な見解からなら先生の手助けもしは出來るかもしれません」
「なるほど、それは私も知りたいですね。ちょっと上の者の許可が貰えるか確認してきましょう」
そういって顧問は部屋をあとにする。
「よっしゃ!」
ひそひそ聲で俺たちはガッツポーズをとる。
「食いついてきたっすね!」
なんか本當は顧問のやつ、自分がその計測をやってみたかっただけじゃねーの、とか思う俺は皮んマンか。
「うまくいけば學生の患者さんも増えそうですよね!」
エリカもテンションがあがって目をキラキラさせている。
何を求めてるかを聞き出す。
それに対しての條件を提示していく、か。
公立學校という非利益組織はお金とかの問題ではないだろうから、生徒のため、そして先生の好奇心のため、ってところかな。
episode『せかせか』end...
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