『接近を確認。アナザーレベル・シルエット【カラヌス】です』

『超ＡＩ用ではありません。人間用に製造された量産型の一種といえましょう。半神(ヘミテオイ)級と呼ばれるものです。聞き覚えがあるでしょう？　半神半人(ヘーミテオス)の元となった言葉です』

「神様のは引いているレベルにあるってことだな」

『ご明察です。かのモチーフはヘラクレスのひ孫である、小アジアの王が由來ですね』

「ヘラクレスの末裔だと！」

『超ＡＩゼウスに、もしくは反逆した超ＡＩに選ばれし者に與えられたアナザーレベル・シルエットは王たる素質を持つ者。すなわちギリシャ神話に由來する王の名を冠しています。その戦闘力は星開拓時代の宇宙戦艦を上回ります』

「知っているとも！」

アナザーレベル・シルエットであるアーサーは、攜行型電子砲で宇宙戦艦の殘骸が元となった幻想兵セトを破壊した。

『本來の能力なら【ブリタニオン】さえも破壊可能でしょう。減速し、外壁に攻撃を仕掛けています。ヘルメスが持ち込んだ寶が目的だと思われます』

淡々と狀況を詳細に報告するヘスティア。もはやかな超ＡＩではない。

『カラヌスは表面裝甲突破。第一壁破壊中。表面裝甲の急隔壁展開。部防隔壁及びトラクタービームで対処――時間稼ぎにしかならないでしょう。目的地はおそらくブリタニオン中樞付近の広場、あなたたちがいる場所です』

「闘技場に來るってか！」

バルドが悲鳴を上げた。宇宙戦艦を破壊するシルエットなどとはどう考えても対抗できない。

「コウ君。正直に答えてくれ。萬に一つでも勝てる可能はあるのか？」

兵衛が切り出す。

「俺が倒した相手は人間が搭乗しておらず半壊でした。その上、五番機の追加裝甲も學兵対策に全振りしたものであり、攻撃が通った部位も半壊した部分を狙ったもの。通常なら勝ち目はないでしょう」

「無理か」

「しかしパイロットがバルバロイであり、何らかの抜けを使用していた場合、萬に一つぐらいならあるいは……」

希的観測としかいえないが、何か手はあるはずだと信じたいコウ。

『ブリタニオンを破壊しないよう手加減はしているようですね。もって一時間程度でしょう』

「そこまで持ちこたえることができるのか。ブリタニオンは……」

『シルエット一機も防げない無力な居住船ですよ。が空いた部分は、羽蟲たちが突撃してきますね。侵は時間の問題でしょう。ですが私は諦めません。オイコスたちのためにも』

悲愴な決意を固めるヘスティアに、アシアから通信がる。

『ヘスティア。あとしだけ持ちこたえて。【悪魔】をそちらに飛ばした。じきに到著するわ』

『パンジャンドラムで何ができるというのですか？』

怪訝な様子を隠そうともしないヘスティア。自走雷といえば、トンデモ兵だ。いくら星アシアで活躍したといっても、宇宙では無力であろう。

『まだコウから聞いていなかったのね。殲滅するんだよ。まずは周囲の掃除。そのあと宇宙要塞をぶっ潰すわ！』

『宇宙要塞をぶっ潰す？　何を言っているのですアシア！』

『問題はコウたちをどう救助するかだね』

『質問に答えなさい！』

『今から【悪魔】をコントロールするから。またあとで』

『もう！　アシアったら！』

もったいぶるアシアに苛立ちを隠せないヘスティアだった。

◆　◆　◆　◆　◆

72基のロケットを備えた【悪魔】が宇宙空間を連なって移している。転がってはおらず前進するのみだ。

ブリタニオンがある宙域に到著すると、同時にロケットが噴して、拡散する。

星アシアから飛來するパンジャンドラムに気付いたライラプスが迎撃を試みるが、彼らの予測を上回る速さと不規則さで宇宙空間を飛び回る【悪魔】を補足できない。

「みて。エメ。ライラプスも戸っているわ！」

「うん。追い切れてないね。あの程度の出力しかないレーザー砲も効かないし」

ネメシス戦域でパンジャンドラムが実用化された理由こそが高次元投裝甲の採用だ。

多のレーザーは跳ね返し、質量兵としても作用する。

「今からブリタニオンを中心とした衛星コンステレーションを形する。マーリンシステム――今の私だと実に馴染むわ」

迂闊にも近付いたライラプスは【悪魔】に跳ね飛ばされ、必死に姿勢制を行っている。

『ヘスティア聞こえる？　ブリタニオンを中心に衛星コンステレーション【悪魔】を72辺に配置。48面形完了。一掃するわ』

アシアがブリタニオンにいるヘスティアに通告する。

『なんですか！　このアルキメデス相対を形した魔方陣じみた六方八面は！　ウーティス。【悪魔】は本當に大丈夫なんでしょうね？』

ブリタニオンを中心に不気味な48面が生まれたのだ。揺を隠せないヘスティア。

「宇宙用の自走雷(パンジャンドラム)だ。自走宇宙機雷といってもいい。ロケット噴で飛來してきただろう？」

『何故パンジャンドラムが六方八面48面を形する必要があるのですか？』

「【悪魔】は破片調整弾を応用した雷だ。球形を形し、部にいる外敵を攻撃する。ブリタニオンなら平気なはずだ」

『本當にそれだけですか？』

ヘスティアが問いただした瞬間、ブリタニオンが大きく振した。

◆　◆　◆　◆　◆

連続で點滅する宇宙(そら)。

星の煌めきを一箇所に集めたような――

そんな幻想的な景だった。

「綺麗でしょ？」

アシアが隣に座るエメに笑いかける。

「綺麗だけど……　発は72個どころじゃないよ？　どんな悪魔だったんだろう？」

「一輌につき48個もの電子勵起薬が同時に炸裂しているからね。電子戦対策は施されているとはいえ膨大なガンマ線でライラプスの制中樞も破壊して破片の速度は秒速200キロを超える。たとえウィスが通っていなくてもファイティングマシンなんて瞬殺だよ」

「3000個以上の電子勵起弾が秒速200キロ超えでライラプスを襲ってるの？」

「これが72×48の【悪魔】。口に出してはいけない災厄の現3456――連番になるんだよ」

エメは虛ろな瞳でモニタに映し出される宇宙空間をみた。

同時に発は起きていない。時間差で発が起きている。そうなるように今のアシアがマーリンシステムでっているのだ。

「一網打盡、か」

「ブリトマルティスの別名ディクティナは網の神。アルテミスの別名として神格化されたのね」

「ギリシャ盡くしだね。マーリンというよりはソロモン王みたい」

「ソロモン王いいよね。を話す指を持つソロモンならファミリアがいる私達にはぴったり。ソロモン王が神から託されたといわれる數(カバラ)の魔書【天使ラジエルの書】は古代ギリシャ語で記載されたパピルスが原形なの。私たち超ＡＩと相もいいわ」

「でも電子勵起薬りのデブリを撒き散らすことになるんじゃ？」

「大丈夫。時間経過で発するから塵一つ殘さないわ。対小型幻想兵用自走雷【悪魔】を解放したんだもの。當然だね」

無數ともいえるライラプスが、ほぼ姿を消していた。

直撃をけなかったものも融解、もしくは発生した発に吹き飛ばされたのかもしれない。

「ライラプスが壊滅した？」

「そうなるといいね。討ちらしはあると思うよ。計算はしているから、そんなにないはずだけどね」

「そ、そうなんだ」

聲が震えるエメ。一切の容赦がないアシアだった。

「エメ覚えている？　3456が暗示する數字はナッラヴィー――スコットランドの水妖を模した化けという創作もあるみたいだね」

「覚えているよ！　異様に気持ち悪いアレ……　英國かぁ」

「スコットランドだよ。どうでもいいかな。問題は――」

宇宙からみたブリタニオンがモニタに映し出される。

「侵中のアナザーレベル・シルエットか。これだけは私も手出しできない。ヘスティアの力がどれほど殘っているかにかかっている」

「え？」

「ヘスティアだって萬全にはほど遠い。意識があるだけで、最悪ヘパイトスの殘骸――ポリメティス以下かもしれない。超ＡＩの権能が殘っているなら私に隠れてブリタニオンを降下なんてさせていない」

「何故だろう……」

「今の星アシアが見ていられなかったから、かな。人々の生活を守る役割を持つ超ＡＩヘスティアには耐えられなかったのかもね。パイロクロア大陸の人々もアシアに見捨てられたって口々に言っていたでしょう？」

「でも囚われたアシアは放置されていて！　助けようともせず見捨てられたなんて！」

「彼らにとって超ＡＩは縋る者、祈る者であって、救済するべき存在ではないんだよ。その解釈なら囚われた時點で私に存在価値はない。――でも転移者は違う。彼らを呼ぶことに同意したオケアノスの真意はそこにあったかもね。さすがは人々の生活を守る神を模した超ＡＩよ」

アシアにアベルから通信がる。

「例の宇宙機が完したようですな。私が乗り込みますぞ」

「何を考えているのアベル。無茶よ」

「私が構築したものです。かの方々は私の大切な友人なのですよ」

穏やかに微笑むアベルに、アシアはそれ以上反論しなかった。

「頼んだわ。【悪魔】が消滅後、貴方を宇宙に飛ばせます」

「お任せあれ」

こんな非常事態でも優雅に紅茶を楽しむ紳士であった。

いつもお読みいただきありがとうございます！　誤字報告助かります！

ライラプスと闇墮ちの表記揺れ修正申し訳ありませんでした。からげんき様、ありがとうございました！　修正助かりました！

読者の皆様へ改めてお詫び申し上げます。

アシアの數字遊びもこれでおしまいです。3456は有名なシークレットファイル財団の共同創作が元ネタです。

48は…48面になったのでとくに意味はありません。

『もしあなたに突然、挙不審（理）で個溢れる48のパンジャンドラムが突如現れたなら……！』

無理だ。これ以上書けない……！

そして新たな脅威である完品のアナザーレベル・シルエット。本來バルバロイは稼働させることすらできないはずですが……

敵パイロットの名前は次回明らかになります！

次回、ブリタニオンの襲撃者が明らかに！

スピード○ゴン財団も捨てがたい！　うまく數字が繋がりました！　続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります！　気軽に想等もお待ちしております！