紫の花。

緩やかに流れる時間。香る紅茶の匂いと、靜かに刻む時計の針。

私、フェイルは遅おきの朝に目をっていた。

（......久しぶりのお休み......）

日々の疲れも溜まり、気がつけばお晝近くまで惰眠を貪っていた。

しかしそれは仕方のない事かもしれない。なにせ私達が日々背負っているのは死への恐怖と、人の世の命運。

（......しかし、故郷のディアルにいた頃には考えられない暮らしだ......）

半魔という忌み嫌われの族。私達の一族は魔族のが混じっていて、純粋な人ではない。

遙か昔、また魔界と人間界が隔たれていない時代。とある魔道士と魔族の姫がに落ちた。

その二人から生まれたのが私の祖先であり、悲劇の始まりの子であった。

そして混は代々け継がれ、その悲劇も差別と迫害をもって繰り返されている。

古い時代とは違い、命を奪われないだけマシだが。

（......けれど、あの目は怖い......私を見る、あの暗い瞳は......）

十數年前、まだ子供だった私は家を飛び出した。理由は簡単、単純で明快。友達がしかった。それだけだった。

私達の一族はそれまでに生き延びていた者で十人余りで、國に與えられた森の奧を居住地とし、ほとんど人とは接せずに暮らしていた。

しかし、同年代の子供は私以外に誰もおらず、近いものでまだ生まれたての赤ん坊が一人。

遊び盛りの私はどうにも我慢できず、近場の町を目指し森を抜け降りていった。

（......だれか遊んでくれるはず......楽しみ）

お気にりのトンガリ帽子を深くかぶり、最近できるようになったスキップをしながら、うきうきな気分で走る。

（......ふふん......）

しかし、その目論見は儚く散ることになる。

何度か買い出しに來ていた事もあり、無事町についた。お菓子屋さんの甘い匂いに浮気しそうになりながらも、前に見かけた公園に到著。

予想通り、同じくらいの年の子が楽しそうに遊んでいる。

「......な、仲間に、いーれーてぇっ......」

きょとんとする公園の子供達。そのの一人、リーダーのような男の子がこちらに來た。

「？　お前も一緒に遊びたいのか？」

「......う、うん」

「おー！　いいぜ、こっちこいよ」

「だあれ、その子」「俺らと一緒に遊びたいんだって」

「お名前は？」「ふぇ、ふぇいる......！」

始めてできた友達。勇気を出して暗い森を抜け見つけたのは、それに見合う寶だった。

おいかけっこや砂遊び、々な事で楽しく時間を共にした。

そして楽しい時間はあっという間に過ぎ、やがて夕食時になる。

「ねえ、フェイルちゃんまた遊べる？」

「う、うん！」

「やったあ！　じゃあまた明日ね！」「またねえー！」

「......うん、また！」

そうして帰路につこうとした時、彼らに迎えが來た。

男の子のお父さんらしきその人は、私を見てこういう。

「なぜ魔族の子供がここにいる！？」

「......！」

その目は今でも忘れられない。汚いものを見るような、そんなような目。

「ロウサ、あいつに何かされなかったか！？」

「？　フェイルちゃん？　一緒に遊んでただけだよ？」

「あいつは子供とはいえ魔族だぞ！！」

「えっ」「フェイルちゃんが？」「噓！？」

子供達がざわめく。

「でも、普通のの子にみえるよ、お父さん......」

男の聲がそういうと、彼のお父さんは私に近づいてきた。

そして、被っていた私の帽子をとる。

「見ろ、この尖った耳を！　これは魔族の耳だ！！」

「！！」「ほんとだ！」「フェイルちゃん、魔族！？」

魔族被害を防止するために、國は人々の教育に魔族対策を施した。その容には人になりすました魔族に対する対処などもあり、魔力を抑える力がまだなかった私は、魔力知の出來る大人に容易に見破られてしまった。

そして、魔族の特徴である尖った耳。今思えば、魔族と誤解されるのを防ぐ為に深く帽子をかぶれとお母さんとお父さんは教えていたんだ。

――魔族は人を喰う。

友達から一転、一気に恐怖の対象と化した私。

それまで一緒に遊んでいた皆は、怖さからか震えだしていた。

その時、私の心に重い何かが落ちたのをじた。

深い底の見えない海に引きずり落とされているような、いいようのない不安。

その場の皆の異を見る目。

「......あ、う」

私はその場から逃げるように消えた。これは憶測だけれど、魔力を知できるほどの大人が魔族と判斷した私を捕らえなかったのは、私を半魔の一族だと知っていたからだと思う。

おそらくああして子供達に近づかせないようにしたのだ。あの父親の目論見は達され、私はあれから人と接することが難しくなってしまった。

特に他対一。複數の人と対する場面、私は攻撃されるのではないかと怖くなりけなくなる。

言葉を口にするのにも抵抗が生まれた。

（......半魔の私が、魔王を倒すパーティーの一員......）

――ロキの結したパーティーは魔王を倒す事を國から期待されている。

上手く行けば、それでもし私達が魔王を倒すことができれば......忌み嫌われる半魔のイメージが覆る。

だから、私はがんばらなきゃ。故郷にいる皆の為にも。

私のような半魔が......冒険者のような肩書がなくても、普通に町を歩けるように。

【書籍報】

今月11/17KADOKAWA電撃の新文蕓様より発売！活報告に書影とキャラデザがありますので、よろしければご覧になってください！

眠介先生が描くレイとリアナのカバーイラストが目印！

電子書籍版、ブックウォーカー様、アニメイト様、ゲーマーズ様で描き下ろしの特典SSがそれぞれ付きます！是非ともご購くださいー！！

皆様、よろしくお願いします！！