《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第213話「魔王ルキエ、観事業を立ち上げる(1)」

「帝國との國境付近に、溫泉が湧(わ)き出したそうじゃ」

帝國との國が結ばれてから、數ヶ月後。

魔王ルキエは高たちを集めて、そんなことを告げた。

「これは先日、ライゼンガ領より報告があったものじゃ。鉱山の開発中に不審な湯気を発見し、調べてみたら、一気に溫泉が湧(わ)き出したと。魔力に満ちた溫泉なので、周囲の魔への影響が心配、とのことじゃった」

「その溫泉をどう扱うか、皆さまの意見をうかがいたいのです」

ルキエの言葉を、ケルヴさんが引き継いだ。

めずらしく、張した表だ。

溫泉が湧くなんて滅多にないことだからな。その扱いに悩んでいるのだろう。

「帝國では溫泉が、傷ついた戦士を癒(い)やすのに使われていると聞きます」

最初に手を挙げたのは、魔部隊のエルフさんだった。

「新たな溫泉も、ミノタウロスの皆さまや、火炎巨人(イフリート)のを引く皆さまの療養のために使うのはどうでしょうか」

「おきづかい、ありがとう、ございます」

ミノタウロスの衛兵隊長さんが頭を下げた。

「でも、最近ミノタウロスの仲間は、誰も怪我、しないです」

「そうなのですか?」

「魔獣を退治するとき、『防犯ブザー』と『飛び出しキッド』を持って、行くからです」

「「「あー」」」

え? なんでみんな俺の方を見るの?

エルフさんにミノタウロスさん、ドワーフさんまで。

「『防犯ブザー』があれば、魔獣のきを止められますからね……」

「『飛び出しキッド』は、魔獣に向かって、突進して、くれます」

「接近戦をしないなら、怪我をすることもないですよね……」

「なるほど……傷ついた戦士が存在しないわけですね」

宰相のケルヴさんが、ぽつりとつぶやいた。

「ですが、溫泉を療養施設(りょうようしせつ)にするのは良いアイディアですね。ただ、國境地帯には魔獣が出沒しますから、対策が必要でしょう。それでは、他に案はありますか?」

「溫泉を料理に使うのはいかがでしょうか」

廚房係のドワーフさんが手を挙げた。

「その地でしか食べられないものなら、名になりそうな気がするのですが……」

「うむ。面白いな」

ルキエがうなずいた。

「じゃが、せっかくの溫泉を、料理だけに使うというのはもったいない。やはり心を癒やす場所にして、さらに、溫泉を利用した料理を出すのがよいじゃろうな」

「そうなりますと、やはり魔獣対策が必要でしょう」

「ケルヴの言う通りじゃ。周囲に魔獣がうろついていては、くつろげぬ」

「……勇者世界ではどうしているのでしょう?」

その言葉を聞いて、みんなが一斉にケルヴさんの方を見た。

ルキエ、エルフさん、ミノタウロスさん、ドワーフさんの視線をけたケルヴさんは、はっとした顔になる。

ケルヴさんは慌てたように、口を押さえて、

「わ、私は今……なにを口走ったのですか」

「意外じゃな。ケルヴから、そのような言葉が出てくるとは」

「ち、違うのです陛下。先日ライゼンガ將軍と『けん玉』で対戦したせいで、つい『勇者世界』という言葉が出ただけなのです。別に意見を申し上げたわけでは……」

そういえばケルヴさんとライゼンガ將軍、休日は『けん玉バトル』をしてるね。

ケルヴさんの鮮やかな『けん玉』さばきに、ライゼンガ將軍は手も足も出ないみたいだけど。この前はケルヴさんがる『けん玉』の鎖(くさり)で手足を拘束されて、じたばたしてたし。

本當にケルヴさんは、勇者世界のアイテムへの適が高いんだよな……。

「口に出してしまったからには、仕方ありません」

ケルヴさんは俺の方を見て、

「トールどのにうかがいます。勇者世界では、溫泉をどのように活用しているのでしょうか」

「観施設にしているはずです」

し前に見つかった、先々代魔王の産の中に、そんな資料があった。

(どうくつない)にあったせいでっていて、かなりボロボロだったけど。なんとか、容は読み取れたんだ。

「勇者世界では溫泉が見つかると、そのまわりが一大観地になるそうです」

「観地……つまり、溫泉を使って人を集めるということか?」

「はい。ルキエさま。溫泉にって楽しんだり、ドワーフさんがおっしゃったように、溫泉を使った料理なんかも提供されているようです。特に、自然の中で天風呂(ろてんぶろ)は格別(かくべつ)だそうですよ」

「「「…………おお」」」

玉座の間に、ため息が満ちた。

エルフさんもミノタウロスさんもドワーフさんも、夢見るような顔をしてる。

みんな、勇者世界の観地をイメージしているのかもしれない。

「自然の中で溫泉にるとなると……やはり、魔獣に襲われる危険がありますね。勇者世界では、どのような対策がなされているのでしょう?」

「資料には『鹿威(ししおど)し』というアイテムが載(の)っていました」

「『鹿威(ししおど)し』? それは、どのようなものですか?」

「えっと……植の筒に水を注いで、その重みで前後に傾けるものです。それが限界に達すると筒がいて、カコーン、という音をさせるらしいです」

資料には『響き渡る鹿威(ししおど)しの音が、あなたをくつろぎの空間にいます』と書いてあった。

あれはたぶん、魔獣避けの結界を作るためのアイテムだろう。

「『鹿威(ししおど)し』というからには鹿型の魔獣……おそらく『ジャイアント・クリスタル・ディアー』レベルの敵を排除するものなのでしょう」

「全長5メートルの巨で高速移し、質(こうしつ)の角で鉄の鎧(よろい)を貫く、あの魔獣を!?」

ケルヴさんが目を見開く。

「危険度としては高位の魔獣ですよ? 勇者は、そんなものが棲息(せいそく)しているエリアで、お風呂にっているのですか!?」

「そうすることで勇者は心を鍛(きた)えているのかもしれません」

もちろん『鹿威(ししおど)し』によって『ジャイアント・クリスタル・ディアー』は排除されていたのだろう。

だけど、溫泉が奴らがはびこるエリアにあることは間違いない。

一歩間違えば生命を失う場所で、になって風呂にる……か。

まさに勇者でなければできないことだ。すごいな。

「ただ、溫泉の資料には『鹿威(ししおど)し』の詳しい報が掲載(けいさい)されていないんです。ですから、想像で作るしかないのですが……」

「……難しいものなのですね」

ケルヴさんは首をひねってる。

「じゃが、面白い。ちょうど帝國との友好関係が立したばかりじゃ。國境地帯に観地を作るのもよかろう」

話を聞いていたルキエが、ぽん、と、膝(ひざ)を叩いた。

「勇者世界を元にした観地となれば、帝國の民もやってくるかもしれぬ。友好を深めるのにはぴったりじゃ」

「いいアイディアだと思います」

「わたしたちも、溫泉、利用したい、です」

「『勇者溫泉』……そんな施設なら、大陸のあちこちからお客が來ると思います!」

みんな乗り気みたいだ。

確かに、『勇者溫泉』って言葉にはインパクトがあるよね。

帝國の人たちは喜んで遊びに來そうだ。もちろん、客を選ぶ必要はあるけど。

でも、たくさんの人が來れば、魔王領の財政面でもプラスになるんじゃないかな。

「話は決まったようじゃな。では、ライゼンガ領に、観施設『勇者溫泉』を作ることとする。ケルヴは機材の手配を、他の者は、開発に參加してくれる者を募(つの)るのじゃ。これを魔王領最初の観事業としよう!」

「「「「はい! 魔王陛下!!」」」」

「トールは、『鹿威(ししおど)し』を作るがよい。詳細(しょうさい)は任せる。とにかく、魔獣を『勇者溫泉』に近づけないようにするのじゃ」

「承知しました!」

こうして魔王領の人々は、観施設『勇者溫泉』を作ることになったのだった。

──數日後──

「完しました。これが、試作品の天風呂(ろてんぶろ)です」

「……おぉ」

ここは、魔王城の地下にある、ルキエ専用の浴室。

改裝後(かいそうご)の景に、ルキエは目を輝かせてる。

浴室の中央には、魔王専用の湯船(ゆぶね)がある。

それを囲むのは、たくさんの植木だ。

ドワーフの庭師さんとミノタウロスさんが、協力して運んでくれた。

魔王陛下を外でお風呂にらせるわけにはいかないからね。

天風呂の雰囲気だけでもと思ったんだけど……すごくいい出來だ。

なのに、樹木のいい香りがする。

風の魔石が空気を循環させている影響で、樹の枝がさわさわと揺れている。

まるで、外にいるみたいだ。

部屋の隅にあるのは、新作のマジックアイテム『鹿威(ししおど)し』だ。

形は、勇者世界のものと同じ。

竹という植が手にらなかったから、木製の筒を使っている。

勇者世界と同じように、水を注いでかして、一定間隔で音が鳴らす仕組みだ。

「これは……すばらしいものじゃな。勇者世界の者たちは、いつもこんなお風呂にっておるのか……」

「溫泉は再現できなかったので、お湯は『しゅわしゅわ風呂』のものですけど」

「いや、雰囲気だけでも十分じゃ。ありがとう。トール」

ルキエは俺の手を握った。

「さっそく、験してみるとしよう」

想を聞かせてください。ルキエさまの意見が、観施設『勇者風呂』の元になりますから」

「わかっておる。これも魔王の仕事じゃものな」

「俺は外にいますから、なにかあったら呼んでください」

「いや……所におるがよい」

こほん、と、咳払(せきばら)いして、ルキエは言った。

想を伝えねばならぬからな。聲が聞こえる場所におった方がよかろう」

「いいんですか?」

「余が風呂場にるまでの間は、後ろを向いておるのじゃ」

「は、はい」

「…………し、仕方あるまい。仕事じゃものな」

「…………し、仕方ないです。仕事ですからね」

そんなわけで、ルキエは試作品の『勇者風呂』にることになり──

俺は、その想を聞くことになったのだった。

──ルキエ視點──

「……いい気持ちじゃ。自然の中でるお風呂が、これほど心地よいとは」

ルキエは浴槽(よくそう)の中で、びをした。

『しゅわしゅわ風呂』の生み出す泡が、細い(な)でていく。

目を閉じると、木々のざわめきが聞こえる。

頬(ほほ)にれるのは、『風の魔石』が生み出す、やさしい空気の流れ。

ほっ、と息をつくと、力が抜けていく。

それでルキエは、に溜まっていた張に気がついた。

魔王は、常に重責(じゅうせき)を負っている。

常に誰かに見られており、魔王として発する言葉は、他者に影響を與えてしまう。

そんな職責にまつわる張が、いつの間にか溜まっていたのだろう。

「…………勇者世界の者は、いつも、このようなお風呂にっておるのか」

常に戦いが続いているという、勇者世界。

それでも癒(いや)しを求めて、勇者は溫泉に浸かっていたのだろう。

似たようなお風呂にっていると、勇者世界に想いをはせてしまう。

魔王として勇者に対して思うところはあるが……それでも彼らは、尊敬に値する相手だ。

こうして勇者世界の溫泉にれるのも、彼らがこの世界に來たからで──

かこぉぉぉぉ────ん

ふと、部屋の隅から、木を打ち鳴らす音が聞こえた。

「……あれが、トールの作った『鹿威(ししおど)し』の音か」

不思議と、落ち著く音だった。

勇者世界ではあの音で『ジャイアント・クリスタル・ディアー』を追い払っていたのだろう。

あれほど危険な魔獣を追い払えるアイテムが側にあれば、落ち著くのも當然で──

かこぉぉぉ──────ん

…………オマワリサ──────ン

「…………むむ?」

『鹿威(ししおど)し』の音の後に、奇妙な音が聞こえた。

「…………気のせいじゃろうか」

ため息をついて、ルキエはまた『しゅわしゅわ風呂』にを委(ゆだ)ねる。

やっぱり、心地よい。

トールが作ってくれたものだと思うと、癒(いや)し効果も格別で──

かこぉぉぉぉ──────ん

また『鹿威(ししおど)し』が鳴っている。

癒(い)やされる音だ。ずっと、聞いていたい。

溫泉に『鹿威(ししおどし)し』。勇者世界とはなんと風流な……。

かっこぉぉぉぉ──────ん

…………タスケテー。オマワリサ────ン。

「…………むむむ?」

かこーん。

……オマワリサーン。

かこーん。かこーん。かこーん。

ピーポーピーポー。タスケテー。コッチデス、オマワリサ────ン。

かこかこかこかこ。

オマワリオマワリオマワリオマワリサ…………。

──トール視點──

ばん!

「落ち著かないのじゃけど!?」

「ルキエさま!?」

浴室のドアが開いて、にタオルを巻いたルキエが飛び出してきた。

った金髪が、り付いてる。

ルキエは目をつり上げて、俺を睨(にら)んでる。

「お風呂になにか問題がありましたか?」

「風呂はよい! 風呂はよいのじゃ!! 問題は『鹿威(ししおど)し』なのじゃ!!」

「え? 『鹿威(ししおど)し』の安全は確認済みですけど……?」

「あの聲が問題なのじゃ! なんでたまに『オマワリサーン』の聲がするのじゃ!?」

「魔獣避(まじゅうよ)けのためです」

勇者世界の『鹿威(ししおど)し』がどんな構造なのか、わからなかった。

資料がなすぎたからだ。

だから──

「『鹿威(ししおど)し』が鳴るのに合わせて、時々『防犯ブザー』が発するようにしたんです。そうすれば魔獣避けになりますから、安心してお風呂にれますよね?」

「常にオマワリサンが呼ばれておる中で、安心できると思うか?」

「……駄目ですか?」

「……危険を知らせる鐘(かね)が、鳴りまくっておるようなものじゃからな」

「わかりました。ちょっと改良してきます」

ルキエの意見はもっともだ。

確かに、常に『オマワリサーン』の聲がしてたら落ち著かないよな。

せっかくの『鹿威(ししおど)し』の音もかき消されちゃうし。

……音が鳴らないようにすればいいわけだから……よし、これでいこう。

そうして俺は、『勇者溫泉』に改造をほどこしたのだった。

──數分後。ルキエ視點──

「………………」

かこぉぉぉ──────ん

……シュバッ。

「……………………」

かっこぉぉぉ──────ん

……シュバッ。シュババッ!!

「…………………………」

かこかこかこかこかっこーん。

シュバシュバシュバシュバーン!

──トール視點──

「落ち著かないのじゃけど!!」

「ええっ!?」

「なんで『鹿威(ししおど)し』が鳴るたびに、風呂場を『飛び出しキッド』が走り回るのじゃ!?」

「魔獣対策のためです」

「わかる! それはわかるのじゃ! じゃが、くつろいでおる時に、目の前を子どもの看板がよぎるのは……」

「ルキエさま。タオルが落ちかけてます」

「し、仕方ないじゃろ!? 慌てておったのじゃから!!」

「と、とにかく、ルキエさまのお考えはわかりました。改善しましょう」

「う、うむ。頼む」

俺は再び、『勇者風呂』を改造することにしたのだった。

──數分後。ルキエ視點──

「……最初から『三角コーン』を使えばよかったのじゃな」

ルキエは湯船の中で、ため息をついた。

結局、魔獣対策には『三角コーン』を使うことで落ち著いた。

あれは『防犯ブザー』のように、魔獣を威嚇(いかく)する能力がある。

それで『勇者溫泉』を囲めば、魔獣は近づけなくなる。

みんな落ち著いて溫泉を楽しめるはずだ。

「…………これでやっと、くつろげるのじゃ」

ルキエはまた、湯船の中で手足をばした。

『三角コーン』は木々の後ろに配置されているため、視界にはらない。

警戒う『オマワリサーン』の聲もしない。

魔獣対策の問題さえ解決すれば、『勇者風呂』はすごぶる快適だ。

「…………『勇者風呂』は本當に、魔王領有數の観地となるかもしれぬな」

かこぉぉぉ──────ん

「…………帝國との友好。新たな財源となる観地。民のための施設。まさか余の時代で、魔王領にこれほどの変革がなされるとは」

かこぉぉぉ………………ん

「…………これもトールのおかげじゃな。これから魔王領はどうなっていくのか、楽しみなのじゃが……」

かっこぉぉぉ──────ん

「…………………………」

──トール視點──

「落ち著かないのじゃけど……」

「ええええええっ!?」

「ずっと『鹿威(ししおど)し』の音と、『防犯ブザー』『飛び出しキッド』が連攜(れんけい)しておったじゃろ? 『鹿威(ししおど)し』の音を聞くと、それを思い出して、落ち著かなくなるのじゃ……」

「……ごめんなさい」

「まぁよい。これは余だけの問題じゃ。実際の『勇者溫泉』には『鹿威(ししおど)し』を設置するのがよいじゃろう。あれは勇者世界の溫泉には、必須アイテムのようじゃからの」

「いえ、ルキエさまが落ち著けるように、『鹿威(ししおど)し』を改良します!」

ルキエが『勇者溫泉』を楽しめないなんてあんまりだ。

これは俺のミスだ。

『鹿威(ししおど)し』の音を変えるか……形を変えれば解決できるはず。

やってみよう。ルキエのためなんだから。

「ちょっと待っていてください。今すぐ改良しますから」

俺はお風呂場に向かって歩き出す。

でも、ルキエが扉の前に立ちはだかる。彼は、両手で俺を押さえながら、

「落ち著けトールよ。余は別に気にしておらぬのじゃから」

「そういうわけにはいきません! 俺はルキエさまにも『勇者溫泉』を楽しんでしいんです!」

「気持ちはうれしい。じゃが、まずは落ち著くのじゃ!」

「ルキエさまこそ、そこをどいてください!」

「トールこそ、し頭を冷やして…………わ、わわっ」

つるり。

お風呂上がりのルキエの、足がった。

押し合いをしていた俺たちは、そのまま床に倒れ……って、まずい。

ルキエが床に頭をぶつけたら大変だ。なんとかしないと……。

俺はルキエのをつかんで引き寄せる。

そのまま、自分のを回して……俺が下になるように…………。

ばたん。

…………ふぅ。

よかった。なんとか、間に合った。

俺が下になって、ルキエを抱き留めることができた……本當に、よかった。

被害は、俺が背中を打っただけ。を丸めてたせいか、頭はぶつけずに済んだ。

危ないところだった……。

「…………トールよ」

「…………はい。ルキエさま」

「………………この狀態は、落ち著かないのじゃけど」

「え?」

目の前には、ルキエの上気した顔がある。

その下には細い首があって、鎖骨(さこつ)があって……あれ? タオルはどこに…………?

ルキエの背中に回した俺の手がれてるのは……むき出しの

えっと、もしかして、抱き留めたときにタオルがげて…………。

ばたん。

「陛下。トールさま。『勇者風呂』はどのようなじに…………」

メイベルの聲がした。

そういえば、後で様子を見に來るって言ってたっけ。

「…………失禮しました」

ぱたん。

メイベルはドアを閉めた。

「ち、違うのじゃメイベル! 戻ってこい!!」

「え、でもでも。その……」

「これは事故じゃ。ただの事故じゃから! いいからこっちに來るのじゃ!!」

「で、ですが……陛下」

「なんじゃ、メイベルよ」

「トールさまに見せていただいた勇者世界の溫泉には、さまざまな種類があったのです。冷えに効く溫泉や、肩こりに効く溫泉や、皮(ひふ)の病に効く溫泉などがありました」

「そ、それがどうしたのじゃ?」

「その中に……『子寶(こだから)の湯』というものがありましたので……トールさまはそれを再現されたのかと。その結果、おふたりはそのような狀態になる運命へと、導(みちび)かれたのではないかと……?」

「そうなのか、トールよ!?」

「いえいえ、さすがにそれは無理ですから!!」

あったけど。確かに勇者世界の資料にはあったけど。

さすがにそれを再現するのは無理だから。

というか、勇者世界の溫泉はすごすぎだから。

「違うそうじゃ。だから、って來てもよいぞ。メイベルよ」

「わかりました、ですが陛下……本當によろしいのですか?」

「良いと言っておろう。まったく」

「わかりました。それではひとつ、お願いがあります」

「なんじゃ?」

「あとで私も同じような『勇者溫泉』を験させていただいてもいいですか? できれば……トールさまの立ち合いの元で……」

「なにか企んでおるような気がするから駄目じゃ!!」

々あったけど『勇者溫泉』の開発は進められることとなり──

ルキエが立ち上げた『観地新設計畫』は、魔王領の新規事業としてスタートしたのだった。

姫乃タカ先生のコミック版『創造錬金師は自由を謳歌する』2巻が発売になりました! 表紙のアグニスが目印の、『健康増進ペンダント』を作るお話です。

書店で見かけたときは、ぜひ、手に取ってみてください。

書籍版『創造錬金師は自由を謳歌する』5巻は12月9日発売です。

ただいま、カドカワBOOKSさまのホームページで、表紙が公開されています。

トールやメイベルと一緒に水遊びをするの正は……。

書籍版・コミック版あわせて「創造錬金師」を、よろしくお願いします!

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