《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第26話 戦國っぽい過去の
 「冷たっ!」
 俺は首筋にじた冷たさに驚き、思わず聲を上げてしまった。
 その冷たいものは、どうやら缶コーヒーだったようで、後ろを見ると缶を二つ持った凜がいた。
 「こんなもので許してもらおうとは思わないが…… 私の罪滅ぼしと思ってもらってくれ」
 俺は、凜が差し出した缶コーヒーをけ取ると、「ありがとう」と言ってプルタブを引いた。
 週末だというのに、遊園地には人がちらほらとしか見えない。そのせいかスタッフさんにも活気がなく、寂しい雰囲気が遊園地を包んでいる。ま、俺はこの靜かなじが落ち著けるから嫌いではないのだが。
 隣を見ると、凜がカフェオレをすすっている。
 「お前、カフェオレとか飲むんだな」
 
 長く凜とは付き合ってきたが、これまで一度もカフェオレなんか飲んでいるところを見たことがない。
 俺の問いに凜は無言で頷くと、俺に問いを返してきた。
 「しかし、馨は無糖でいいのか?」
 「あぁ。甘いのはあんまり好きじゃない」
 俺がそう言うと凜は、し寂しげに顔を俯けると「なら!」と言葉をつないだ。
 「私のこれ、し飲んでみろ。きっと考え方が変わるぞ」
 凜はどうやらカフェオレの味しさを広めたいようで、俺に缶を差し出してきた。
 え? いや…… 飲めないでしょ、これ……。
 凜が差し出したその缶カフェオレはもちろん先ほどまで凜が口をつけていたものだ。やっぱり、これって……間接キス……ですよね?
 「馨……カフェオレが……そんなに嫌、か?」
 「あぁいや、全然そんなことはないけど……」
 
 俺は上目遣いでカフェオレを勧める凜を一応フォローしたが、もちろん凜は納得してくれていない。
 し潤んだ瞳と艶やかなに心臓がどきりと跳ね上がる。
 「じゃあ、しだけ……な」
 俺はそう言うと、凜の缶をけ取り、口を近づけた。
 しずつ缶の口が近づいていき、鼓もしずつ速くなる。缶の淵に溜まっているカフェオレが妙に張をう。
 そして、俺の口が缶と……
 「やっぱり駄目だ!!!」
 れ合う直前、カフェオレは俺の手から奪われた。
 その奪った凜は、カフェオレを大事そうにの前に保持し、し顔を赤らめている。
 もしかして、これって……照れ隠し……
 「貴重なカフェオレを奪われるところだった……危ない危ない」
 ……なんかでは全然なかったようです。なんとなくわかってましたけど……
 って、大事なことを訊き忘れていた。
 凜はお化け屋敷の直前に俺が中學の卒業式のことを覚えているか尋ねた時、覚えていないと言った。
 しかし、過去の凜の行を省みると過去に俺と會ったことがあることを覚えているとしか思えない。
 なら、あの衝撃的な別れ方を忘れるわけがないはず……
 「凜。お前、過去に告白されたことってあるか?」
 俺はし不安げな表を浮かべてそう尋ねた。
 「あぁ、あるぞ」
 俺の問いに、凜は當たり前のことのごとく首を縦に振った。
 「じゃあ凜……あの時のことも……!」
 「小學校の時は、田中と太田と佐藤と林田に告白されたな。あ、そういえば杉本も何度か告白してきたな」
 「……はい?」
 俺は予想外のその言葉に目を見開いて聞き返した。
 「中學では織田と臣と徳川が告白してきたな。いや、織田の告白には明智もしてきたな」
 「お前のって戦國時代ハンパないな」
 俺は半ば呆れかけながら凜にツッコミをれた。
 しかし、今の様子だと俺の告白は本當に忘れられていたようだ。まぁ、今までそれが普通だったのだが、し覚えているかのような素振りをされるとやっぱり期待してしまう。
 「いやぁ、遊びましたね〜」
 「そうだね〜たくさん乗ったね〜」
 そう言いながら歩いてくるのは六実とティアである。二人は凜がお化け屋敷でけたダメージを回復している間、適當にアトラクションを楽しんでもらっていた。
 「凜ちゃん、もう大丈夫なの?」
 「もう全快した。迷をかけてしまってすまないな」
 そうぶっきらぼうに言う凜だが、表には六実を心配する気持ちが滲み出ている。
 「私は大丈夫だよ! ほら、馨くんが守ってくれたから」
 「守るって言ったって何もしてないだろ俺」
 「確かにな。私に毆られ蹴られ、みっともなかった」
 「毆った張本人が言うなよ!!」
 俺は腕を組んでうんうんと頷く凜をビシッとツッコみ、ティアに小さな聲で聲をかけた。
 「どうせ、今回のもお前が関わってるんだろ?」
 「はて、何のことでしょう? 凜さんの傍からすっと消えて一人ぼっちにし、恐怖心を煽ろうなんて全然考えてなかったですよ?」
 「全部自分で言ってんじゃないか」
 隠す気ゼロのティアに呆れた俺は、コーヒーを飲み干してその空き缶をしっかりアルミ缶用のゴミ箱に分別して捨てた。
 こういうとこ結構大事だと思う。
 凜はそういうのちゃんとできんのかな? と思い、振り返ると、彼はゴミ箱のスペース削減のためか、しっかり潰して分別していた。さらにプルタブまで回収する徹底っぷり。
 俺は一枚上手を取られた悔しさを紛らわすように園を當てもなく歩き出した。
 
 
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