これは多重人格と言ってもいいのだろうか。

俺は、青川靜香という一人のの子についてし調べてみてわかったことがある。

それは、俺と二人きりの時以外は一切表を変えないということだ。

こう言うと、どこか自惚れているかのように聞こえるかもしれないが、これは事実だった。

いや、まぁ、言い換えると、可いの子が俺だけに笑顔を見せてくれているということになるが、俺は彼にしうすら寒さをじていた。

俺に見せる笑顔が偽だとかそういうことではないのだが、なにかしら違和がある。

というよりまず、何故俺以外の前では完全に無表なのかを考えたほうがいいと思うのだが。

しかし、青川が俺のことを、その、なんというか、好き？　だから俺にしか笑顔を見せない可能もあるわけで……

俺は休み時間の教室、自分の席で周りの者に悟られないようにスマホを起した。

「ティア、青川の好度判るか？」

「……はい、えぇっと、だいたい53％ですね」

妙な間とだいたいという言葉がし引っかかったが、青川の好度は解った。

まぁわかってたけど青川が俺のことを好きってことはないようだ。

「馨さん、あの生徒會長に會うのはやめておいた方がいいと思います」

「は？　なんでだ？」

「なんでって、その……なんというか、馨さんたちのためです」

いつもは某テニスコーチ並みに元気が有り余っているティアだが、今日のこいつは明らかに様子がおかしかった。

妙に靜かで、自分の髪を弄ったりしている。

さらにさっきまでのどこか煮え切れない態度。俺はこいつが何かを隠している様な気がしてならなかった。

そこで、一つの仮説に辿り著く。

青川の正はティアなのではないか、ということだ。

もし、以前の青川のようにティアが現化して青川という人間に化けているとしたら、好度を答えるときにし口ごもった理由や青川が呪いについて知っていた理由も明らかになる。

さらに、ティアは遊園地に行ったとき、金髪のにも化けた。これによりティアが様々な姿に現化できることも立証されている。

頭の中で理論を組み立てていくにしたがって俺の、青川がティアなのではという疑問、いや確信は確かになっていった。

「なぁ、ティア……」

「あ、馨さん、授業始まりますよ？」

俺の聲を遮りそう言うと、ティアはディスプレイから消え去った。

＊＊＊

つまらない授業を右から左へ聞き流し、時は晝休み。

教室は子のしい話し聲や男子が騒々しくじゃれる音に包まれている。

その中でも周りとし違った雰囲気を醸し出すグループの中心、そこには六実小春がいた。

笑顔を浮かべて友達の話を聞き、相槌を打つ彼はとても楽しげだが、たまに見せる哀しげな表は健在だった。

いろいろとあったが、いまだに彼があんなに哀しそうな顔をするのかわかっていない。

ティアのことといい、俺は知らないことが多すぎるのかもしれないな。

俺はそんなことを考えながらそそくさと晝食を済ませ、教室を出た。

向かうのはここ數日間育祭実行委員會が行われている會議室だ。

廊下を友達とはしゃぎながら歩く生徒たちにしの嫌悪を覚えながらてくてく歩いていくと、すぐに會議室には著いた。

時計を見ればまだ會議までは時間がある。自販機で飲みでも買うかと思っていると、突然肩をとんとんと叩かれた。

何者かと振り返ればそいつの指が俺の頬を刺した。

「おっ、引っかかった♪　早いね～かおるん」

「かおるんとか言うな。というか青川も今日は早いな」

俺の肩を叩いた彼、青川は二ヒヒ、という悪戯っぽい笑みを浮かべてそこに立っていた。

というかかおるんってなんだよ。ほんと。

「いやだなぁ、五分前行は常識だよ～？」

「最初の會議に思いっきり遅れてきた人が言えることかよ……」

「え？　何のことだっけ？　ま、とにかくろう！」

青川は下手くそな口笛を吹いてとぼけると、俺を押して會議室の中にった。

俺と青川が會議室にって數秒もしないうちに會議室には別の生徒がってくる。

もうその時には青川は無表の仮面をかぶっており、俺と目があっても微笑さえ零さなかった。

＊＊＊

青川の働きもあって會議はつつがなく進み、今日のところはお開きとなった。

ちなみに俺は毎度の如く殘されている。

會議室から俺と青川以外で最後の一人が出ていった瞬間、青川は俺の方に向き直った。

その青川は、先ほどまでの無表でも、俺と話すときのようなおどけたじでもなく、ただ真摯な視線で俺を見つめていた。

「かおるん、一つ考えたんだが聞いてくれるかな」

彼はその真摯さ、真剣さを変えないまま、俺にそう言った。もちろん俺はそれに無言で頷く。

「君のスマホに住み著いている――ティア、といったね。彼のことを信頼してはいけないかもしれない」

青川は、淡々とそう告げると俺の方へ近づいてきた。

「いま攜帯の電源はってる？」

「いや、一応電源は切ってある」

「よかった。かおるん、いや馨くん。一回しか言わないからよく聞いて。彼は、ティアは、私たち人間と同じように自我を持っている。だから、彼は……噓を吐くこともある。賢いキミならこの意味が判るんじゃないかな」

青川は諦観とも取れる様な微笑を浮かべ、そう言った。

ティアが、噓を吐く。このことから彼が言いたいのは、ティアが好度を偽って俺に伝える可能もあるということなのだろう。

しかし、その好度が本當なのか偽りなのかなんてわかるのはティアしかいない。今更そんなこと聞いたって……

俺のその思惟をじ取ったのか青川はふっと笑うと、「きっと役に立つと思うよ？」と小さく言った。

彼はその後無言で俺の橫を通り過ぎ、會議室を後にした。

夕暮れ時の斜が差し込む會議室は妙に幻想的で、機が作り出した影に俺はしばし見っていた。

突如、ポケットが振し、通知音を立てる。

すると、そのポケットは青白くり始め、そのはやがて俺の視界を包んだ。

目がくらむような閃はすぐに終わりを告げ、俺の視界は開けていった。

そこにあるのは先ほどと変わらない會議室の風景。……だったが、俺の視界の中心には一人、金髪を揺らすが佇んでいた。

「こんにちは、馨さん」

にこりと寒々しい笑顔を浮かべるに、俺は思わず後ずさった。

「ティア……聞いてた、のか？」

「はい、電源系統のシステムをハックしたって言ったじゃないですか。もう忘れちゃいました？」

ティアは再び口元を歪め、小首を傾げた。

やばい。なにがやばいかなんてわからないがとにかくやばい。俺は震えそうな足を必死に抑え込み、ティアを睨んだ。

「馨さん。生徒會長に會っちゃだめって言ったじゃないですか。まったく……。あんな人の言うことなんて信じちゃだめですよ？」

「あ、あぁ。そうだよな。お前が噓なんて……」

「えぇ。噓なんて吐くわけありません」

俺のし震えた聲にティアはわざとらしく頬を膨らませてそう言った。

しかし、これで一つ分かった。

ティアと青川は確実に別人だ。的な証拠なんて知らない。だが、俺はそうじた。

「ま、いっか。都合が悪くなったら消せばいいし」

「何か言ったか？」

「いいえ、なにも」

ぽつりと、呟いたティアに怪訝そうな視線を向けた俺へ、彼は満面の笑みでそう返した。