《カノジョの好度が上がってないのは明らかにおかしい》第39話 名無しさんからのおい
何かがおかしい。
俺は六実小春という一人のの子にそうじることがある。
どこが? と訊かれれば口ごもってしまうほど曖昧な認識なのだが、そんな曖昧なものに俺は妙な確証を持っていた。
自分の格を偽って人を騙す悪とかそういうのとはし違うのだが、彼からはどこか諦めみたいなものが漂っていた。
ほら、今も。
教室の前の方で何人かの子と歓談する六実が見せる哀しい微笑。
俺はそれが何を表しているのか未だ知らずにいた。
育祭という一大イベントを終え、教室の雰囲気はし落ち著いてきたかのように見える。
しかし、育祭が終わった直後からすぐに夏休みへと思考をシフトさせる幸せな脳味噌を持つ野郎たちもいるわけで、教室の後ろでは何人かの男子が夏休みの予定についてわいわい話し合っていた。
その中でも特に目立つのが、そのグループの中心に佇む一人の茶髪男子だ。
名前は、えぇっと……なんだったっけ? 面倒くさいから名無しさんでいいや。
その名無しさんは制服を校則違反ぎりぎりに著崩したりカラフルなミサンガを手首につけたりと、まったくもってふざけた格好をしていた。校則どうり完璧に制服を著こなしている朝倉馨くんをもっと見習った方がいい。
とにかく、そのイケイケゴーゴーな名無しさんと愉快な仲間たちはとっても楽しそうだった。うん、楽しそうだったのだが、さっきから俺をちらちら見てるのはなぜ?俺に惚れたの?
もし告って來たらどうやって斷るかと思考を巡らせていると、例の名無しさんと目が合ってしまった。
やべっ、と俺が反的に目を逸らそうとすると、何故かそいつは爽やかに微笑みやがった。
俺が、なんだよ、と怪訝な視線を送ると、彼は俺の方へとてくてく歩み寄ってくる。
「朝倉馨くん、だよね」
「そ、そうですがなにか……?」
ユニークスキル、人見知りを発した俺は最後當たりは聞こえないほど小さな聲でそう言った。
「いや、朝倉くんいつも一人でいるから寂しくないのかな、と思って」
「ッ!……別に寂しくは……」
あぶねぇ……危うく「寂しくないわけないだろうがこのえせイケメンッ!」とか言いそうだった。でもこの名無しさん意外と顔面偏差値高いな。
しかし、そんな名無しさんが俺みたいなカースト最底辺に何の用だろう。いや、カースト最上位にいる六実と付き合ってる俺はもしや意外と上位にってるんじゃないか? ……んなわけないか。
「へぇ……一人が好きなのかな?」
「そういうわけでもないけど……」
「そうなんだ。 なら、こんど俺たちと一緒に遊びに行かないか?」
「……は?」
思わず素っ頓狂な聲が出てしまったのは仕方がないことだと思う。
いやだって、他人から遊びにわれたのなんて小學校の時以來だし。ほらなんというか、嬉しい、じゃん? 俺キモいな。
しかし、こういう時は絶対に期待してはいけないのだ。絶対に裏があるはず。
たとえば、あのグループで何かゲームをして、それで負けたから俺に話しかけるという罰ゲームをけてるとか。
あ、あと俺を金づるとして利用する気かも……。いや、もしかしたら集団リンチするつもりか?
「それでさ、早速今週末どうかな?」
「わ、わかりました……」
急に言われたから思わず了承してしまった……。てかなんで俺は敬語使ってんだよ。
「じゃ、土曜の十時駅前集合な。來てくれよ」
名無しさんはそれだけ言うと元いた人のへと戻っていった。
いや、でもなんだったんだ……? もしかして本當に俺に惚れてんのか?
俺がそんな変な妄想をしてると、ポケットのスマホがピロリンと通知音を立てた。
『え? 馨さん浮気ですか? 浮気なんですか?』
「なわけないだろッ!!」
例によってそのディスプレイに表示されていたのは我がナビゲーターティアだった。
そいつのわけのわからない言葉によって俺は教室でスマホに怒鳴ってしまった。したがって、俺が周りの怪奇な視線に曬されたのは言うまでもない。
『で、行くんですか?』
「まぁ一応、な。せっかくわれたわけだし」
『ふーん。つまり、われたのがうれしかったんですね』
「……うるせぇ」
俺はそう小さく言ってスマホの電源ボタンを長押しした。ま、意味ないんだろうけど。
***
大して面白くない授業を割かし真面目に聞いていると、あっという間に時は放課後となった。
今日は予定もないしまっすぐ家に帰るか、と昨日も言った獨り言を教室で呟き俺は生徒玄関まで下った。
「馨さん、いつも思いますけどあの獨り言やめた方がいいと思いますよ。まわりの視線超冷たいですし」
「んなことわかってるっての。……あのくらいしないと自分をめられねぇんだよ」
「うわー。この人悲しすぎる……。あ、でも馨さんには、ほら」
そう言ったティアが指差した方を見れば、そこにはサイドテールを揺らして階段を下ってくる六実がいた。
「ごめんね、待った?」
「いや、待ったも何もないだろ」
「ふふっ、そうだね」
六実は待ち合わせをしたわけでもないのにそんなことを言ってきた。他の奴が言ったらただのうざい奴になるだろうになぜ六実が言ったらこんなにかわいいのだろうか。なんだろう、化學反応でも起きてるの……?
俺と六実がごそごそと靴を履き、玄関を出ると、ぽつぽつ小さな雨粒が空から落ちだした。
「あー降り出しちゃったかぁ」
そう言う六実の手には傘が握られていない。傘は俺の右手に握られた一本のみ。
これは……そういうことなのだろうか。でも……ねぇ。やっぱり実際にやるとなると恥ずかしいじゃないですか。ほら、の子とものすごく近い距離で歩かなきゃいかないんでしょ? うん、俺には無理だな。こうなったら「ん」とだけ言って傘を差しださないといけないのかな。いや、だけど……
そう俺が苦悶していると隣の六実は鞄から折り畳み傘を取り出し颯爽と差した。
「どうしたの? 行こう?」
「……あぁ、そうだな」
六実に気の抜けた返事を返した後、俺はゆっくりと歩き出した。なんだか今の會話をティアが聞いててニヤニヤしてる気がする。
「あ、そういえば、今度馨くんクラスの友達と遊びに行くんだってね」
「ん? あぁ、まぁな」
「意外だなぁ。馨くんそういうの斷る人だと思ってたから」
「別に、俺だって遊びぐらい行くから」
心なしか、嬉しそうな六実に俺はどこか気恥ずかしいものをじていた。
いや、なんだろう。何とも言葉にしがたいのだが、友達に今まで知られていなかった趣味を知られたときの恥ずかしさとでもいうのか。
お前友達いないからそんなことわからないだろ、だって? 小學校のころはちゃんといたんだよ。
「馨くんも行くなら私も行こうかなぁ」
「は?」
「私もね、あの人たちからわれてたの。今まではずっと斷ってたんだけど馨くんが行くなら行ってもいいかなぁ、って」
あぁ、そういうことか。俺は何となく何かをわかった気がした。俺のただの思い違いかもしれないが……
雲に隠された太は地上から一切見えず、雨粒が俺の傘を叩き続けていた。
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