《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》真実(マアート)は遠そうでいて、ひたひたと迫る
*6*
イザークはティティの驚きなど気にもせず、ぐいぐいと歩いた。ティティはまだあの二人の神の話がしたいらしく、ちょこちょこと話しかけて來る。
(神が人を助けるとは。それほど、俺とティティには何かじたのか、それとも)
氷の空とは珍しい。あの二神のどちらかが作ったのだろうか。おでしばかり明るく、足元の不安定さが緩和されるのは大助かりだった。
「ねえ、イザーク! あの二人って」
「イケイケの姉ちゃんと、暇そうな坊さん兄ちゃんだ。神は人など救わない。それはティも知っているはず。俺はあのサアラってヤツは好かん。ティティと俺を引き離した禮は三倍……いや、百倍で返すつもり」
「そんな言い方ないでしょ! 大、イザークが國境でみっともない小芝居を。え? 引き離したことを怒ってる?」
イザークは小さく舌打ちをし、會話を打ち切った。ティティとの言い合いは至極好きだが、正直、言い合いできるほどの元気がない。無言に気付いたティティも無言になり、二人はただ、歩いた。
は広く、しばかりり気がある。気溫も低い。外の気配もじられない。今がどのくらいの時間で、どのくらいの疲れなのか。マアトの夜がなければ、夜すら分からない。有限の命の終わりが見えない如く。
「そろそろ休んだほうが良さそうだな。テネヴェまではまだ遠い」
「テネヴェってどんな國? アケト・アテンと外はしていないの。遠すぎて」
「行けば分かる。俺は寢る。サアラの剣を持っていると疲れるんだ。剣まで厭味かよ」
噓だ。本當はテネヴェの話を避けているだけ。イザークはテネヴェで起こった悲劇を思い返して震いした。
(マアト神。徹底的に俺を痛めるつけるつもりか。生憎男神に跪くつもりはねえ)
「あ、まって」ティティは袋を探ると、薄い布を見つけ出した。同じように座って、一枚の布にくるまった。ふと見れば、ティティの瞳は元のに戻っていた。マアト神が世界から遠ざかった影響だ。おしい二つの眼がしだけ青く、輝いていた。
出逢った時のティティインカの瞳だ。いつも潤んでいる。
「やっぱり、そのほうがいいぜ。可い」
「イザークも。片眼が白いとオバケみたい。この世界からマアト神が消えたからって……なんであたしたちはこんなにも見張られているのだろう」
「さてな」イザークはティティに腕を絡ませ、溫かいに顔を埋めてみた。ティティは怒りもせずに、イザークを抱き留めてくれた。
この旅が終わる頃には、モノにできそうな良い兆候だ。思いながら、(あのオベリスクはまだあるのか)とゆっくりと想い描く。
(思い出したくないが、イホメト・シュラウド・テネヴェと呼ばれた俺……ティティが全てを知ったとき、どう思うだろうか)
それより。
(好きだと告げて良いものか……? 一目惚れだと。哀しませるが分かってて? ま、いい。まだ時間は殘っている。最大限考えるか。傷つけない方法があるはずだ)
イザークはすやすやと寢息を立てるティティの頭をでた。
「テネヴェで、何が起こっても、俺を信じろ。――何が起こっても、だ」
真実マアートはまだまだ遠そうでいて、ひたひたと確実に迫っているのだった。
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