《~大神殿で突然の婚約?!~オベリスクの元で真実のを誓います。》偉大なる冥府の王へ屆け!

*1*

置いた一つのスカラベ。

〝余計なお世話ですよ。ティティインカ〟裁かれたはずのクフの聲が聞こえた気がする。

いつも、笑って殺意を剝き出しにしていたイザークの弟で、テネヴェの最後の王――。

神の爪痕が殘った神殿の柱は恰も終わった歴史の如く、沈黙していた。

赤いオベリスクだけが変わらずに空に反旗を翻している。

たった一人、荒れ地で世界を眺めていると、わけもなく涙が零れた。

(イザークの裁かれる前の夜に、子供のようにをときめかせ、を預けた。わたしは、嫌らしいなのかと、かつてネフトに震えながら、聞いたこともあったわ)

答はにある。好きなら、當たり前の行為だ。恥じる話じゃない。

(うん、わたしは嫌らしいじゃない。だって、ちゃんと、しているもの)

ティティは思考を止め、ふふと笑った。だった心は、もう綺麗な大人のへと育っている。それでも、コブラ頭のあの頃の自分が可くて懐かしく、なる。

ふと、夜が訪れた気配を察した。月の泣き聲はないも、空がぐっと暗くなった。

(そういえば、マアト神はやたらに流れ星を気にしていたわね……)

『サアラが星を墮ろし始めた』

過去を想い出し、ティティは(まさか)と、足早になった。またキィンと星が墮とされる。夜空の星のをかき集め、一手に墮ろすは神なら、できる技。

(サアラさまが近くにいる! ……サアラー神が!)

容姿はイザーク曰く〝暇な坊さん〟。サアラとネフトのいる、國境なき孤児院ネメト・ヴァデルのり江で過ごした數日は忘れやしない。

(神の中にも人を助ける神もいるのだと。サアラさまの力強い言葉は忘れない)

マアトの裁きで狀化した塩湖が目下、拡がっていた。三角形の王墓は斜めに傾ぎ。サアラは三角錐の尖った場所に立ち、夜空に手を翳し、を集めているところだった。

立ち盡くしているティティの前で、サアラがいた。

「しばらく裁きが止んでいたと安心していたら、ティティインカ、この國で何があった。まあいい、探していたんだ、ティティインカ」

「わたしを?」サアラは頷かず、また眼を夜空に向けた。

「罪人アザエルは?」ぎょろりとサアラの研ぎ澄まされた橫顔が向いた。罪人。イザークの話だ。

「イザークは、裁きの標的にされて消えたわ。數年前にね」

ティティはふいと背中を向けた。指を組んで、頬を緩めた。

「でも、遠くなって、間違いなくし合ってるって、自信が持てた。だから」

「聞いていないよ。ティティインカ。それとも、聞かせたいか」

(やっぱり、この神さま、苦手)思いつつ、ティティはしだけを尖らせた。のような作だが、相手が神な以上、背びしてもどうにもならない。

「神さまに惚気は言わない。アケト・アテンへ戻ろうと思うのだけど、道がないの」

ティティは飛沫のように空を翔るを見上げた。以前はこの三角錐の建の鍾を通って、隣國からやってきた。しかし、裁きで鍾はおろか、出り口だったは、今やのように赤く、き通った湖の中だった。

「ついて來たまえ」

***

優雅だった神殿の床のタイルはすべて頽れ、土煙を被っている。サアラは足音を立てずに歩き、ティティもパタパタと後に続いた。

「ティティインカ」サアラの聲に気付けば、鮮のオベリスク前に到著していた。

「汝と我ならばできるだろう。オベリスクの本當の呪を解き放ち、元に戻す――二つの世界を繋ぎ、マアトを倒せ」

ティティは驚愕でサアラを見やった。

(神を倒せ? ……何を言っているの?)

サアラの剣が真っ直ぐに、ティティに向いた。に刺さりそうな距離だ。

「汝は斷の諱を詠む力で、人を神の世界に近づけ、呪いをけたはず。イザークと汝の呪いは、マアトが生きている限り、解けない。とはそんなものか。見誤った」

ティティは相手が神だという事実を頭から吹っ飛ばした。

(わたしとイザークのを馬鹿にして!)

「そんなもの、ですって? 上から目線の神にはわからないのよ」

サアラは手にしていた剣をオベリスクに向けた。

「自分たちの幸せが前提の壊れた理屈の人のか。愚かだ。ネフトの見込み違いだ」

ティティはしばらくサアラを見詰めていた。

(やはり神さまに、人の気持ちなど分かりはしないの。わたしを理解して、抱いてくれる人は一人でいい。だから、高みはしない。頑張る方向を変える)

イザークとのをただ、信じる。心は信じられないほど、穏やかだった。

「確かに、愚かかも知れない……馬鹿みたいだって笑えばいい。王家の宿命だと判っている。それでも、天涯孤獨になったわたしを、イザークは心からしてくれた」

「果たして、そうか?」サアラは続けた。

「イザークは単に目的のために、利用しただけだ。神には判るんだよ。イザークは裁かれるに値する。罪の逃げ場所に汝とのを選んだに過ぎないと見る」

「ねえ、意地悪ばかり言わないで。神さまなのに」

「それが真実マアートだ。我は狂言はしない質だ。軽いマアトとは違う」

(マアトの言葉なんか聞きたくない)

俯いた頬に水滴。イザークが消えてから、封印したはずの涙だ。手の甲で拭っても、拭っても零れて止まない。

「やれやれ」とサアラはオベリスクに両掌をくっつけると、眼を閉じた。

「靜かに。ティティインカ、世界は諱で繋がる。霊魂アクを現化したものが諱。だが、神にあるは悪諱だ。我らを勝手に表現しては、勝手に敬い、勝手に絶する。本當の名も、姿も見ず。まったく勝手な生きだよ人間は。世界を取り戻そうとすらしない。だが、イザークは気付いた。世界を取り戻す、と汝に誓ったはずだ」

サアラは背中を向けたまま、続けた。

「世界を取り戻すには、悪意があっては不可能。ネフト、我が妻ネフティスへ繋げ……

ネフティス、ネフティス、偉大なる冥府の王はこの世界をより近くする」

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