《Waving Life ~波瀾萬丈の日常~》66話 想いは今
想いは今
カラスの鳴く聲が響く、夕刻。
既に外は暗く、辺りは息が白くなるほど寒い。
そんな中を俺は、立ち止まることなく走り続ける。
寒さは走るうちに薄れ、疲れは吹き飛んでいた。
彼の元へ。
今すぐ會いたい、今すぐ話したい……。
強い想いは、が張り裂けそうなくらいに強い。
「蘭華、蘭華、蘭華〜!」
彼の名前を口にしたのはいつぶりだろうか……。
長い間、心にしまってあったからか俺の聲は凄く大きい。彼への想いのように大きい。
彼はきっとあの場所にいる。
俺たちの始まり。
最初に告白されたあの場所。
……。
見つけた……。
俺のする人。
「剣也?」
俺は彼を強く抱きしめた。
「この1ヶ月の間……。俺は辛かった……」
好きな人と話せないのは本當に辛かった……。
近くにいた人が急に居なくなってしまうとこんなにも辛いのだと、気付いた。
そんなことを思い出すと、気持ちが溢れ出てくる。
頬には熱いものがつたっていた。
「蘭華の事が好きなのに……、話せなくて……。寂しくて……。心が痛くて……。蘭華がどれくらい俺にとって必要な人なのか……。よく分かったよ……」
蘭華は微かに揺れていた。
抱いているから、彼の顔は見えないけどきっと彼も俺と同じものが頬をつたっているのだろう。
「だから……、改めて言わせてしい……」
『私、剣也のこと好きだから』
この言葉から俺たちは始まったんだと思う。
馴染だけど、はこの時が始まり。
そこから波瀾萬丈の日々だった。
楽しいこともあればすれ違いだって起きた。
でも、今思い返せばその日々の1秒1秒が楽しい思い出。
蘭華が傍にいてくれた。だからきっと楽しい日々になったんだと思う。
「ねぇ、剣也?私にも言わせてよ……」
俺は無言で「いいよ」と伝える。
彼の聲で、泣いているのは明らかだった。
んな気持ちが彼の聲には乗っている気がした。
「私も剣也と同じ、いや剣也よりももっと苦しかった……。が張り裂けそうで……。一緒にいた時はハッキリしていなかったけど、きっと剣也が居なかったら今の私はいなかったと思う。だから、私には剣也が必要なの……」
俺と同じ思いを彼はしていた。
だとしたら余程辛かったのだろう……。
俺はより一層彼を強く抱きしめた。
の溫もりが、直接伝わってくる。
今、彼はこんなにも近くにいる。
そう実できる。
「私も……。改めて言わせてしい……」
『好きだ』
2人の聲は重なる。
俺たちの心は、今1つになれた。
そんな気もした。
俺は抱いていた手を解いた。
そして、彼の顔を見た。
「何だよ?ひっどい顔だな!」
自然と溢れたのは、さっきまでの涙とは反対の笑みだった。
それは俺だけでなく、蘭華も。
「剣也こそ!」
俺たちの笑い聲は、靜かなここの辺りに響いた。
「そう言えば、ここの桜は綺麗だったよな?」
蘭華に告白されたこの場所。
下校の時のいつも別れるY字の差點。
2本の道を挾んだ間に立つ1本の桜の木を俺たちは見る。
「そうだね!」
告白されたあの時に咲いていた桜は、最高に綺麗だった。
その記憶は半年経った今も鮮明に覚えている。
「あれから半年経って、あと半年もすればまた満開の花を咲かせるだろう」
「私は、多分その時にはここにいないと思うけどね」
あはは、と彼は苦笑いをする。
留學をするのは3月。
だから桜が満開を迎える4月には、もう彼はここに居ないはずだ。
「その満開の桜がもし見れないかもしれないけどさ……。別の花は、今咲くかもしれない」
俺は目線を彼に向けた。
「どういうこと?」
俺は、一呼吸置いた後に最高の笑顔でこう言った。
「俺と付き合って下さい」
「っ……」
俺がそう言ってからし間があった。
彼は1歩俺に近づいてきた。
深く頭を下げた俺の頭に手のがあった。
「とりあえず顔をあげて?」
俺は顔をあげる。
俺が彼の顔を見るとさっきとはまた違う表だった。
泣いている……。
「斷る理由……、あると思う?」
そして、泣いたまま笑っていた。
俺は彼を再び強く抱きしめた。
ずっとこのままでいたい。
そんな気持ちだ。
蘭華の鼓が早くなるのをじる。
好きな人と近くにいるとドキドキするんだろうな。
俺もドキドキが止まらない。
俺は1度抱いていた手を緩める。
彼の顔を一瞬見て、キスをした。
これまでに無いほど長い、長いキスを。
「ようやくここまで來たか……」
ちょっと……。
俺たちは気付いていなかったけど、あの人はずっと見ていたらしい……。
恥ずかしい臺詞も今の狀態も……。
俺たちは慌ててキスを止める。
「ちょっ、狹間っち!」
「ごめんごめん……。でも、止めなくても良かったのに。その幸せを分けてもらおうと思っていたんだよ」
「先輩……。空気読んで下さいよ……」
3人の間に笑いが起きた。
「でも、今こうしていられるのも先輩のおかげ何ですよね……」
1人だけでは、何も出來ない未な俺。
そんな俺を遠回りはしたけど、ここまで連れてきたのは紛れもなく先輩だ。
俺は先輩に心から謝してるし、尊敬している。
「私も……。狹間っちにはいつも助けてもらって……。さっき、『ここで待ってて』って言ったのも、私たちのためだったんだね……」
本當に先輩には謝の言葉しか出てこない。
いつも、ピンチの時には助けてもらった……。
だからその大きな謝を2人で伝える。
「ありがとうございました、先輩」
「ありがとう!狹間っち」
俺たちの言葉を聞いて、彼は頬を赤くした。
どうやら照れているようだ。
「い、いや。別に、謝されるようなことはしていないよ……」
暫く、ここに靜寂が流れた。
でも、それを打ち消したのはいつもの元気な蘭華だった。
「で〜も!やっぱり盜み見は駄目でしょ?」
悪戯げに蘭華は微笑む。
「よ〜し!遊びに行こう!そしてぜ〜んぶ、奢ってもらおう!」
「ちょっ、蘭華!」
「だってそれくらいの事はしたでしょ?それに祝ってくれたって良いじゃん!」
蘭華の自由さには、本當に參る。
でも、こんな所もきっと好きになった理由の1つなのだろうな……。
「ということで、レッツゴー!」
蘭華は、先に歩き出す。
それに渋々の様子の先輩がついて行く。
そして俺も置いてかれないように、2人について行った。
市街地へと出掛けた俺たちは、夜遅くまで遊んだ。
カラオケとかボーリング、そしてクレーンゲーム。
どれも楽しかった。
先輩は、『財布が空になった』と嘆いていたが……。笑。
そして、何よりも嬉しかったこと。
それは蘭華の弾けた笑顔を間近で見られた事だった。
でも……。
蘭華がはしゃぎ回ったおで、家に帰ったのは10時半頃だった……。
楽しかったからまぁ、いいか!
こうして、俺は蘭華と付き合うことになった。
俺たちの間に、遂に一の花が咲いた。
蕾の狀態から、時間はかかったけど見事な花が咲いた。
何よりもそれは嬉しかった。
そして、改めて思う。
俺は……。
「蘭華の事が大好きだ!」
と。
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