花の輝き

次の日。

俺と蘭華はいつものように登校して、教室にった。

教室には、殆どの人が既に座っていた。

俺と蘭華は、いつも通りに教室にる。

絵里の橫を通った時だった。

俺の耳元に、絵里が突然囁いた。

「放課後……。ここで」

直接話があるのだろう。

とにかく彼の口調と聲のトーンがいつも通りになっていて一安心した。

俺は頷き、そのまま自分の席へと向かった。

誰もいない靜かな放課後。

２人きりの教室。

これで何度目だろうか。

絵里は、俺の席の隣に座って俺と向かい合わせになっている。

だが、座ってからずっと彼は下を向いたままだ。

夕方の外は、カラスの鳴き聲が響く。

その聲はガラス越しでもハッキリ聞こえるくらいに教室は靜寂に包まれている。

何一つ喋らないまま、15分経った。

いい加減こっちから話しかけた方がいいだろうか……。

「あのさ……。何か話あるんだろ？」

その言葉を聞いて彼は顔を上げた。

その彼の表は、とてもしょんぼりとしている。

「うん……」

俺の問いかけに彼は小さく返事をした。

そして、一息吐いた後に彼は話し始めた。

「本當に、ごめんなさい……。剣也君」

そう謝り、彼は頭を下げた。

「顔、上げろよ。別に謝らなくてもいいよ」

そう言うと彼は顔を上げる。

そして再び彼の顔を見た。

すると、頬にるものが伝っていた。

「私、本當に剣也君のこと大好きだった……。だから校舎裏のを見た時にすごいショックだった。フラれたことが悲しかった……」

學校祭最終日の校舎裏。

俺は蘭華に好きだと伝えた。

その現場をこっそりと彼は見ていたのだ。

「私を選んでしかった……。その為にずっと頑張ってきたの……。その努力が水の泡になったと思ったら、この現実から逃げたくなって……。フラれたという事実から逃れたくて……。だから、だから……」

だから、演技をして本當の自分はフラれていないという事実を作り出そうとした。

でもそれは現実からの逃げ。

フラれた事実を認めない限りは、次に進めない。

その事に気付いて彼は、元に戻ったのだ。

……、振った自分が言う事じゃないけど……。

彼は涙に顔を濡らし、グチャグチャになっていた。

伝っていた涙もポロポロと、床に滴っていた。

「涙、拭きなよ」

俺はいつも持っているハンカチを鞄から取り出し、絵里に手渡した。

「ありがと……」

彼はそのハンカチで涙を拭う。

「俺はさ……」

俺はさ……。なんだよ？

彼に優しい言葉をかけてめるのか？

「絵里の……」

優しさは時に人を傷つけるのだと、既に學んでいるはずなのに……。

「そんな顔は……」

同じ過ちを何度も何度も繰り返して……。

「見たくないからさ……」

また、人を傷つけてしまうのか？

「笑っていてしい……」

余計なお世話だと分かっていても……。

俺は彼を放っておけない。

悲しそうな、涙に濡れた表をしている彼を見たくないというのは紛れもない本音。

彼には笑っていてしい。

これから先も咲き続ける一の花として、綺麗に咲いていてほしい。

そんな願いがあるから、俺はそう言うのだ。

「剣也君って、本當に優しいよね……」

彼の顔には嫌そうなじはなかった。

だけど、心の中でどう思っているかは分からない。

「そんな優しい所に私は惚れたんだろうな……」

彼は天井を見上げた。

涙を堪えるためだろうか。

それとも今までの思い出を振り返っているようにも見えた。

そして、拭き取ったはずの涙は再び頬を流れる。

「現実、け止めなくちゃ駄目だって分かってるけど……。やっぱり……」

俺は無言で彼の様子を見守った。

振った俺が口出ししてはいけない。

自分で立ち直って、再び歩き出さないと意味が無いのだ。

彼は袖で涙を拭って俺の方を見た。

「ねぇ、剣也君……？」

「うん」

「これからも友達でいてくれる？」

その質問の意味……。

彼は、決心したようだ。

新たな一歩を踏み出すと。

俺は、彼の後押しをするのは當然だと思っている。

それは、振った相手だからという理由ではなく彼は1人の大切な友達だから。

「當たり前だろ？これからもよろしくな」

「ありがとう！」

そういった彼は、笑っていた。

こうして一の花は、再び輝きを放った。

そしてその輝きは、きっと周りの人を照らしてくれる大事な存在になるだろう。

「ねぇ、剣也君……」

「ん？」

……。

これが彼の再スタートの足がかりになるのだろう。

俺は、頬にキスされた。

「今までありがとう！」

「あぁ」

雲の間からす夕日のは、俺たちを照らしていた。

外は近づいてくる冬の関係でとても寒いけど、俺たち2人の間は暖かかった。

「お疲れ！」

俺たちは、一緒に玄関に向かった。

「絵里ちゃん！おかえり！」

玄関で待っていてくれた蘭華が、絵里に抱きついていた。

「うん！ただいま、蘭華ちゃん！」

「よーし！これから絵里ちゃんの復活祭をするぞー！場所はいつもの喫茶店だ！今から競走で1番遅かった人の奢りだよー！」

復活祭するのは良いけど、もし絵里がビリだったらどうするんだよ？

そこの所、しっかり考え……。

「ちょっと待て！勝手にスタートするな〜！」

「フライング止なんて言ってないよ〜！」

「小學生の言い訳かよ……」

蘭華は、勝手にスタートして走り出してしまった。

おかげで俺と絵里は取り殘されてしまった。

「待ってよ〜！蘭華ちゃん！」

「じゃあ、俺達も行くか！」

このまま走れば、もちろん俺が勝ってしまうので俺はゆっくり走ることにしよう。

はぁ〜、奢りかぁ。

金足りるかな……。

俺たちは、2人揃って蘭華を追いかけた。

こうして再び、平和な生活が戻ってきた。

でも、それは束の間。

大事なことを俺や周りの人は忘れている。

時は待ってくれない。

だから、別れの時はどんどん近づいているのだ。

今日は10月29日。

間もなく11月を迎える。

彼との別れの日までは、あと5ヶ月なのだ。

そう。俺達が忘れているのは……。

『蘭華の留學』