《攻略対象外だけど、好きなんです!》11 「乙哉 太一」
 砂原くんがみんなを呼び出した。
「さて、紬以外はみんないるな。急に聲をかけてごめんね。でも、集まってくれてありがとう。」
「澄くん、どうかされたのですか?」
 伏見くんが答える。
「し合が悪いみたいなんだ。本人は大丈夫だと言っているが、今は部屋で休ませてるよ。」
「…そう、ですか。あとで、様子を見に行ってもいいですか?」
「いいんじゃない?重病人でもないんだし。……それより、どうして地上に降りたのかな?買い出しならこの前したばかりじゃない?」
神楽くんが言う。
…それは、能力者が乗ってくるからだよ!
なんて言えないけどネ☆
「……分からない。何か、理由はあるのだろうが……。」
「何の連絡もなく著陸するのは何度かあったよ。まぁ、今までは能力者を乗せるっていう確かな理由があったんだけど。この通り全員揃ってるからね。念のため、船に殘っておいてくれ。」
「……話はそれだけ?」
 菜々香ちゃんが砂原くんに聞く。
「いや、これからが本題だよ。この船のルールを決めたいと思うんだ。」
「ルール?チーム分けだけじゃなくて、ルールにも縛られなきゃいけないの?俺は規則とか苦手だなぁ。ねぇ、ロンさんもでしょ?」
 神楽くんが桐ヶ谷くんに言う。
「さぁ、容にもよるんじゃないかな?」
 桐ヶ谷くん、久しぶりにしゃべったな。
「そんなに難しいことじゃないよ。むしろ、これで気が楽になる人もいると思う。」
「……どんなルール?」
「能力、出自、生い立ち……
  何も詮索しない、立ちらないこと。」
「…………」
「ちなみに紬は賛だった。和樹は……ちょっと悩んでるみたいだけど。」
 そこで、伏見くんが言う。
「反対なわけじゃないんだ。ただ、こうやってルールを敷くことで、親を深めることが出來なくなるんじゃないかと思ってな。」
「それは俺も思うよ。ただ、あの新聞記事のことがあるだろう?」
「!あれは誤報だと言っただろう!信じるだけ無駄だ。」
 どうして、伏見くんが誤報だと分かるのか。
 それは、彼が『世界』側の人間だからである。
 だから私は警戒せずに済んだが、他の人は違う。
「そうかもしれない。俺も気にしないようにしてるよ。……でも、多なりとも警戒心を持たずにはいられないと思うよ。」
「警戒心、って……?何を警戒する必要があるんですか?」
 あ、葉月くんがしゃべった。
 ……かわいい。
「いずれ敵になるかもしれない相手に、手のをさらすのは良くないってことかな。」
「……!」
「ありえない話じゃないよね。勢次第では戦爭になるかもしれない。戦爭で一番最初に駆り出されるのは、力を持っているものなんだから。」
「ロン……!」
 伏見くんが、桐ヶ谷くんにこれ以上はやめろという視線を送る。
「……その話はやめませんか?今話しても良いことなんてないと思いますし……。」
「……はーい。」
 よかった。素直に聞いてくれた。
「そうだね。この件に関しては個々人の裁量に任せるよ。話したければ話していい。ただ、しつこく聞くのはだめだ。」
「……私は、賛する。……聞かれたくないこと、あるから。」
「菜々香ちゃん……。」
 そういえば、菜々香ちゃんには親の命令でたくさん能力を使って、罪悪をじていたんだっけ。
 結局、反対者は出なかった。
 會議が終わった後、私は急いで澄くんのもとへ向かった。
「紬様……いえ、澄くん。大丈夫ですか?」
 つい、家にいるときの癖が…!
 気が抜けてきてるのかもしれない。
 気を引き締めないと。
「雪月、心配してくれたの?…もう大丈夫だよ。ありがとう。それより、湊くん知らない?」
 湊くん?澄くんが葉月くんのことを気にかけるなんて珍しい。
 何かあったのかな…?
「葉月くん、ですか?それなら泉の近くにいましたけど……。」
「そっか。ありがと。」
 もしかしたら、葉月くんと倒れたこと、何か関係あるのかもしれない。
 …てことは、もしかして…!
 
「何かあるんですか?…もしかして、未來が、視えたのですか?」
「実は、ね。じゃあ僕は行くよ。」
 やっぱりね!
「はい。それでは。」
 澄くん、葉月くんと何を話すのだろうか?
 葉月くんに関わる未來、何が視えたのだろう?
《うおー!何だここー!?》
「!?」
 いきなり、聲が聞こえた。
 何故か、頭に直接聞こえるような…。
 頭に響くというか…。
 そういえば、これ、神応力っていう能力だった気がする…!
 ということは、乗って來たのは乙哉くんだ!
《でけー! すっげー! きれー!》
  神応力とは、離れていても自分の聲を屆けることができる能力だ。
 それは、能力でも同じことができる。
 夢見の能力と掛け合わせて、たくさんの人に同じ夢を見せたり、記憶を消す能力と掛け合わせて、たくさんの人々の記憶を一度に消すこともできる。
 しかし、記憶を消す能力を持っている菜々香ちゃんは、能力を使うことを拒んでいるため、たくさんの人の記憶が消されることはないだろう。
「あ!砂原くん。さっき、聲?でしょうか。聞こえてのですが、砂原くんも聞こえましたか?」
 砂原くんが來たので、聞いてみる。
「君も聞こえたってことは…能力?」
「その可能が高いですね。…新しい能力者さんは、どこにいるんでしょうか?手分けして探しましょう!」
「そうだね。…二階にはいなかったから、君は一階を探して。俺は三階を探す。」
 まぁ、三階にいることは分かっているんだけど…。
 怪しまれちゃうし、さっさと一階に行くか!
「分かりました!」
 私は走って一階へ向かった。
「つーことは、『世界』から何も聞いてねぇのに、自分から乗ってきたってことか?」
「そういうことになるね。間違いないよね、太一?」
 自己紹介を済ませ、東くんと砂原くんが聞く。
「おう。ちょっと面白そうだったから、ってみた。」
「面白い、か。さすがの俺も、この船を見たときはそんなこと思う余裕がなかったな。こんなものを作ってしまう『世界』に対しての恐怖をじてたよ。」
「何で恐怖?この船、敵なのか?」
「そうじゃないけど。巨大なものに対して畏怖のを抱くのは普通だと思うよ。」
「へー、そうなんだ。オレは、壁の周りのツタでターザンごっこが出來そうだとか、泉のとこで泳げそうだと思ったけどな!」
 ……うん。知ってた。乙哉くんが殘念系イケメンだった、てこと。
 ただ…ここまで殘念だったてことは、全然思ってないよ?…うん。まじで。
すごーく殘念だ、なんてしも思ってないんだからね!
「それは……確かに楽しそうだね。」
「ンなこと考えてるのはてめぇだけだ。頭のネジ緩んでんじゃねぇか?」
「緩んでねーよ!何考えようがオレの自由だろ!」
「話をもとに戻そう。俺たちが招集をけた理由は説明したけど、ここまでで何か質問は?」
「質問?うーん……」
 乙哉くんは、し考えてから…
《いまいちよく分かんねー。》
 能力で、心の聲をらした。
「……よし、もう一回説明しよう。」
「おう!」
「返事はいいんだな……」
「ここにいる人間は全員、何らかの能力を持っている。『世界』は能力を平和のために活かすべく、俺たちを招集したんだ。ここまでは大丈夫?」
「ギリギリ」
「ここでギリギリならこの先話すのが不安になってくるよ。まぁいいや、とりあえず最後まで話そう。…この船の目的地は『世界』のいる場所って言われてるんだけど、明確な場所は聞いてない。俺の予測、というか新聞ではアメリカだって書いてあったんだけどね。…能力者について書いてるんだよ。簡単に言うと、『世界』が能力者を集めたのは、戦爭の道にするためじゃないかって容だね。」
「その新聞に書いてあることは全てデタラメだ。何一つ真実はない。」
 伏見くんが言う。
 ま、私もデタラメだってことは分かってるんだけど、
「それは何度も聞いたよ。でも、ここに書いてあることは俺が想像していた全てなんだよね。信じる信じないは個々人の自由だよ。船に乗ってしまった以上、……いや、『世界』に命じられた以上は逆らえないしね。説明してあげるって言ったけど、殘念ながら俺たちも知らないことが多いんだ。」
 砂原くんをはじめ、この船のみんなはあんまり信じてなさそうだね。
「……そんな狀態で、よくお前らはこの船に乗ってるな。ここ、不安とかが渦巻いてる。何か居心地悪いわ。」
「君の能力は、人の心も読めるんだね。」
「読めるってほどじゃない。相手のが人より伝わってきやすいだけだ。」
「…………あの。私は、その新聞のこと、信じてないです。今まで平和を保ち続けた『世界』がいきなり戦爭なんて言いだすはずはないと思ったからです。今まで小さな紛爭はところどころでは起きてましたけど、『世界』が國同士の衝突を防いできたんですから。」
 私は勇気を出して言ってみた。
「國同士の衝突……って?そんな危ねーことあったのか?」
 まぁ、盜み聞したことなんだけどネ☆
「ええ。もちろん全部、戦爭にはなりませんでしたけど…」
「雪月。それはあまり公になっている報じゃないよ。僕らはそういう話を大人からよく聞いていたけど…」
「公になってない報って、どういうことだよ?」
 東くんが聞く。
「『世界』が各國に圧力をかけてるって話さ。まぁ噂話程度にはあったけど、公家の二人から聞くには真実みたいだね。」
砂原くんが分かりやすく説明してくれる。
「戦爭が起こらないためには必要なことなんです。私たちが戦爭の道になんてされるはずないと思ってます。だけど……大きな力が抑止力になることも分かります。そういう意味で『世界』が私の力を必要としてるなら協力は惜しまないです。」
「真面目なお嬢さんだねぇ。俺は食うに困らないって聞いたから來ただけなんだけど。」
「さすが、雪月は國の要所を守ってきただけあるね。俺もどちらかっていうと晴翔よりの理由かな。和樹は……雪月より、だよね。」
「え?あ、ああ。」
 伏見くんは、『世界』側の人間なので、し揺しているみたいだ。
 ……揺、し過ぎじゃない?
「ふーん……、みんな々理由はあるんだな。」
「俺は拉致されて來たぞ。」
「そうだったね。後にも先にも、拘束されて乗って來たのは君だけだったよ。」
 私も、東くんが拘束されて乗って來たのはびっくりしたな……。
「分かんねぇぞ。もしかしたら、他に乗ってくるやつがいるかもしれねーじゃねぇか。」
 「確かに。いつの間にか能力者は九人だと思い込んでいたけど……君が乗って來たことで、この前提が崩れてしまったね。」
「お?この船、九人しか乗っちゃいけねーのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……ここ、私室が九つしかないんだ。だから勝手に九人しか乗ってこないんじゃないかと思ったんだよ。」
「ああ、そうだ。彼が乗ってきたから部屋が足りなくなったね。どうしようか。」
「誰かが相部屋になるしかないだろう。」
「俺が湊の部屋に移しようか。彼奴をみはるのにちょうど良いし。」
「!!!!」
  葉月くんは、怯えていても可かった。
「うお!!こいつすげー怯えてるぞ!食われる寸前のウサギくらい!!」
「そんなことないよ。俺たちは仲良しだもんな、湊。」
「ひぃう!!」
「み、湊。服を引っ張るな!」
「むやみに湊くんを脅かしちゃダメだよ、隼。」
「別に脅かしてるつもりはないよ。食生活の不安定な湊は、見張るべきだと思っただけ。」
 食生活は私が管理してるから大丈夫だよん☆
「……!そうだ。隼、俺とお前が同室になろう。」
 伏見くんは、何かを思いついたように言った。
「え?いいけど……急にどうしたの?」
「あ、い、いや、湊をこれ以上追い詰めるのは可哀想だと思ってな。」
「遠矢さん!!あなたは何ていい人なんでしょう!今まで馬鹿にしてすみませんでした!」
 何という手のひら返し。ぷぷっ
「馬鹿にしてたのかお前……」
「湊が可哀想、ね。てっきり俺のことを監視したいからかと思ったよ。」
「うっ!」
 …だから伏見くんは、分かりやす過ぎるんだって。
「見張る、って言葉に反応したみたいだったし。」
「監視って……どうして隼を?」
 それは砂原くんが砂原 史郎の息子かもしれないからだヨ☆
「ち、違う!俺は別にそんな…!!」
「はいはい、分かったよ。それじゃあ、俺が和樹の部屋に行くから。ちょうど地上に降りてるし、寢一式買ってきていいかな?」
「あ、ああ。それはもちろん。俺もついて行こう。」
「太一、君も一度ご家族に挨拶してきたら?何も言わずに出て行くのはよくないからね。」
「ん?あー……」
「…………」
「じゃあしばらく自由時間だね。あー、久々の街嬉しいなぁ。」
 私はお菓子の材料を買いに行こうっと。
 近々襲撃されて、桃が落ちてくるはずだから、パイやジャムを作る材料と…あと、クッキー作りたいな!
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