《本日は転ナリ。》8.行ってきます。
カーテンから差し込む、きらきらとした眩しい朝が居心地の良い世界から現実の世界へと俺を導いていく。
そのに眉を寄せつつも薄っすらと目を開くと、俺は仰向けのまま両手を髪へとばした。
その指に絡まる長い髪をすうっと天井に向けて弛(たゆ)ませると、溜息と共にその髪を落とす。そしてそのまま両手をへとゆっくり下ろしていく……そこでまた溜息が零れる。
    俺は枕元に手をばし、手探りで攜帯を探すと、攜帯の畫面を開いた。
あれからちゃんと一日経ってる……やっぱり夢じゃ……無いか。
手に持った攜帯を枕元へ放り投げると、またそこで溜息が零れた。
……俺は相変わらずのままだった。
    もしかしたら元に戻っているかも、なんて淡い期待はあった。むしろ元のに戻っているはずだ、なんて心の何処かで思っていたのかもしれない。
俺はのまま……つまり今日からとしての學校生活が始まる。そう思うと、はっきり言って不安しかない。
そこでふと橫に目をやると、そんな俺の気持ちを他所に、呑気にすやすやと眠りに就いている莉結の姿があった。
ったく、張してるのは俺だけだよなばからしい……そんな事を考えて鼻で笑うと、俺はそっと立ち上がり、まだ慣れないこのにもどかしさを覚えながらも洗面所へと向かった。
洗面所に著いた所で、顔を伏せたまま鏡の前へと向かってく。
自分の諦めの悪さにつくづく呆れる。
俺は鏡の前に立つと、"ふぅー"と息を吐いてから顔を上げた……やはりそこには見慣れないの姿が映っている。
俺は大きな溜息を吐き、気を取り直す。
それにしても何回見たってこのには慣れないな…
俺は肩を落としながらも朝の準備を終えると、部屋へと戻り、相変わらず呑気な顔のまま眠りについている莉結の側に歩み寄る。
そして小さく息を吐き、大きく息を吸い込んだ。
「莉結ちゃーんっ! おはようございますっ! 制服の著方教えてくださいなっ!」
    すると莉結が眠気眼のまま、ぴょんと飛び起きる。
「ん……あ?    えっ?    ああ……ビックリした。どこの子かと思った。おはよう、瑠」
ぽかぽかした微笑みを浮かべている莉結に、「制服の著方……」と言いかけ、ふと莉結の元へと視線を奪われた。
「お前っ、その服サイズ合ってないんじゃないの?」
俺が親切にそう言ってやったのにも関わらず、莉結はに手のひらを當て、「どこ見てんのよっ、えっち」と無邪気に笑う。
「はいはい、支度終わったら制服の著方教えてよ?」
すると莉結はポカンと口を開け真剣な眼差しで俺にこう言った。
「え……制服に著方とかある?」
「何となくは分かるけど、ほら、順番とか、スカートの前後とかよく分かんないとこあるし……慣れてる人に聞くのが一番だろ?」
「私は瑠の言う、よくわかんないとこが分かんないけど。まぁいいや、貸して」
「はいっ、まずはこっちから……こーやって……こっち前ね。はいっ終わり」
    瞬く間に著替えが終了してしまった。確かにこんな簡単な事を聞いていた俺が馬鹿だったのかも知れない。
「さすが子……ベテランは手際がいいな」
「當たり前でしょ、毎日やってるんだから」
    莉結の支度も終わり、洗面臺の鏡の前に移させられた俺は、莉結に言われるがまま立ち盡くしている。
「はい、髪のやるねっ。ドライヤー出して。あ、そのブラシ貸して」
まるで容室みたいだった。完全にスイッチがってしまった莉結にされるがまま、俺の支度が著々と進んでいく。
「はいっ出來た。やっぱ瑠ちゃん可いよっ! もっとお灑落しないともったないって! 取りあえず制服姿撮っていい?」
「はぁ? 別に構わないけどさ……」
    莉結が攜帯を構え、不気味な笑みを浮かべる。
パシャ……パシャ……パシャパシャ……パシャ
ピロン……
「ってお前ドサクサに紛れてムービー撮ってんじゃねーよ!」
「だってぇ……」
「何がしたいんだよホントに」
「あ……今日の占いの時間だっ、テレビ……」
「見んくていいわっ!」
    なんてふざけた事をしていたら、家を出なくてはならない時間になってしまった。
「もう時間じゃんっ! 行くぞっ」
「えっ? 朝飯は!?」
「そんな時間無いだろっ! 後で俺が購買で奢ってやるから!」
    そして俺は付いてもいない襟元の埃を払うと息を大きく吸い込んで「よしっ!」と気合をれた。
「じゃぁ莉結、一日よろしくお願いします」
「うんっ、頑張って」
    こうして俺は不安をに玄関へと向かった。
「ちょっと靴履くときはパンツ見えないように……」
「はっ?    気にしてたじゃん! てかもうちょっとスカート長くていいんじゃないの?」
「この方が可いのっ!    あとさっき俺って言ってたからちゃんと気を付けてよ?」
「はいはい、うるさいなあ、気を付けてますよっ」
そんな遣り取りをしながらも、俺はなんだか幸せな気分に包まれていた。
……なんか懐かしいな、こういうの。
    そして俺は玄関のドアノブをしっかりと握りしめ勢いよく開け放った。
「いってきますっ!」
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