「會ったばっかだし……私、だし……変かもしれないけど私は瑠ちゃんの事がとして好き……もっと知りたいって思う！」

……あぁ、そうだ。"あの時"もこんな表してたっけ。

俺の脳裏に浮かんだのはあの頃、學して間もない頃の記憶。あの頃も麗はこんな顔をして俺に告白をしてきたんだ。

………………

「あのっ、如月瑠くんっ！　その……會ったばっかで変かもだけど……良かったら私と付き合ってくださいっ！」

「えっ……誰、お前？」

「あ、そうですよねっ……私、隣のクラスの天野麗って言います！　それでその……良かったら私と付き」

「あぁ……ごめんっ、俺そういうの興味ないんだ」

   それからも麗は、懲りずに何回も俺に告白をしてきた。俺はそんな麗の事を、簡単に人を好きになる軽薄なだと思っていたけど、ある出來事でそれが間違いだったのだと知る事になる。

その日は新発売のパンが出たとかで、購買がやけに混み合っていた。その景を見た俺は、言うまでもなく教室へと引き返そうとしていた。するとその人だかりの中から、こんな會話が聞こえてきたのだ。

「麗ったらどんだけ瑠くんの事好きなんだよっ」

聲のした方を橫目で見ると、やはりそこには麗の姿があった。

「マジ本気でやばいかもっ、麗の運命の人かもーっ」

    麗のその返答に、つい鼻で笑ってしまう。

マジと本気は一緒だろっ！　それにお前の人生には何人運命の人がいるんだよ。

    すると、麗と一緒に居た友達の口から耳を疑うような話が聞こえてきたのだった。

「麗が人を好きになる日が來るとはねぇ……この十何年、男の気配なんてこれっぽっちも無かった意外度千パーセントのあの麗が男に惚れるたぁ、こりゃ富士山の噴火も近いね」

「ですよねー、日本の終わりも近いねぇ……」

「何それっ、ひどっ！　私だって初めての事でもう訳わかんないんだからちゃんとしたアドバイスしてよね」

「はーいはい、じゃぁまず一つ！　麗、告り過ぎっ」

「どうかーん」

    そんな會話を聞いて、俺は心の中で"なんか悪かったな"と麗に謝ったのだった。

「ごめんねっ！　やっぱりおかしいよねっ……変な空気にしてごめんっ」

    その聲でふと我に返ると、今にも泣き出してしまいそうに微笑む麗の顔が目に映った。

「……くない……思う。おかしく無いと思うよっ！」

    俺は無意識にそう口にしていた……それは麗に対してのフォローでも同でも無い。晝間見た小鳥みたいに……人間だってそう、見た目とか別とか、そんなの関係無いって思ったから。

「えっ……でも」

    その時だった。

「まーじかぁーっ！」

    教室の後ろの扉の方から、馬鹿にしたような笑い聲と共に大きな聲が響いた。

その聲の方に目をやると、見覚えのある短髪と背の高い男が二人、俺たちの方を見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。

……誰だよ、あいつら。他のクラスの奴か。

すると、短髪の男が勘にる半笑いを浮かべて口を開いた。

「噂の転校生見に來たらとんでもねーの見ちまったわぁ」

それを聞いた麗は、その男の前へと足早に移すると、腰に両手を當てて強気な態度でこう言い放った。

「何っ、何か用？　その笑い方、ウザいんだけど！」

麗の言葉にその男の目つきが変わる。

「は？　のクセにいきがってんじゃねーよレズ野郎、全部聞いてたかんな、お前がその子にの告白してたのとかさぁっ！」

「ねぇ！　そんな言い方な……」

    莉結の言葉を麗の手が遮った。それから麗が言い返すのかと思いきや、麗は下を向いたまま何も言わない。それをいい事に、短髪の男は再びその口を開く。

「何っ？　本當の事言われて何も言えなくなっちゃった？」

すると調子に乗った背の高い方もふざけた笑みを浮かべて同調を始める。

「しょんねぇよ、こいつレズだもん」

「いい加減にしてっ！」

見かねた莉結が前へと出ると、再び麗の手がび、莉結の腕をギュッと摑んだ。

「何っ？　もしかしてお前もレズ？」

    その時だった。

「ごめんね……私のせいで巻き込んじゃって」

    卑劣な男達の笑い聲に消えてしまいそうな麗の震えた聲が聞こえた。

……そして、俺の目に、床に落ちていく小さな雫が映ったのだった。

「として好きっ！　もっと知りたいの、の子のカ・ラ・ダ！　だもんなぁ！ まじきめぇーっ！」

それを聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。

気が付くと俺は、短髪の男の肩を摑み、腹の底から滲み出る怒りがを震わせていた。

「馬鹿にすんなっ！」

「な、何だお前っ……離せよ！」

    短髪の男はそう言って俺の手を払おうとしたが、私はぐっとその肩を握りしめ離さなかった。

「痛っ、まじ離せよ！　このクソアマ！」

暴れる男に振り回されながらも、俺はか細い腕に渾の力を込めてしがみ付く。

「なんだよこいつ……まじ、ちょっと頭おかしいんじゃねぇの……」

そして、ようやく大人しくなったその男に、俺は再び口を開いた。

「謝って。麗さんに謝って！」

「はっ？　ふざけんなよ、なんで俺が」

「じゃぁ何で麗さんにあんな事言ったの」

「當たり前だろ、レズなんだから」

「レズって何？　いけない事？　人が人を好きになる事の何がいけないの？　みんなしてる事でしょ？」

「話になんねぇ……お前もそっちかよ」

「だから何っ？　人は心がかな生きなんだよ？　心にして何が悪いの？　君らみたいな固定観念に縛られた人は、みたいに異にだけしてればいい。人として生まれたのに損してるね。ほんと」

そう言って俺は男の目を真っ直ぐ見つめたまま手を離した。

「まじ……頭おかしいわ、お前。勝手にしろよ……おいキョースケ、もう帰ろうぜ」

    男達はそう言うと、靜かにこの場を去って行った。

「ありがとう……」

背後で小さな聲が響く。俺が振り向くと、麗が濡れた睫を指でなぞって微笑んだ。

「瑠、カッコいいじゃん」

莉結がそう言って俺の肩へと手を置いた。

「別に……なんか、あぁいう奴ら嫌いなだけだから。莉結が傷害で停學とかんなったら困るし」

「ばーか。もしそうなったら正當防衛で通すもん」

    靜かな教室に三人の小さな笑い聲が響いた。

それから俺たちは教室に殘り、何でもない會話をした。いつの間にか麗の顔にはいつもの笑顔が咲き誇っていて……それを見た俺は、友達って存在も悪くないのかも、なんて思ったりしたのだった。