《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》2-1 「噓でしょ……」
高校二年生に進級してから二ヶ月が過ぎ、季節はじめじめとした梅雨の時期に差し掛かっていた。
東羽高の生徒となった堂庭の妹、桜ちゃんは時々俺たちのクラスに遊びに來るものの、男子に聲を掛けられると怖がってしまい、堂庭に追い出されることがほとんどだ。
俺の周囲で起きた変化はざっとこんなもので、授業中の居眠りは今までどおり欠かせないし、その都度堂庭に毆られるのも必須となっている。
そして堂庭のも相変わらず健全だ。ロリコンが直るような素振りすらない。
俺は溜息をついて隣に座っている堂庭に聲を掛ける。ちなみに今は帰り道の途中で電車に揺られている。
「お前桜ちゃんにやたら厳しくないか? 今日も教室から追い出していたし」
「え、そう? あたしは姉としての職務をしっかりこなしているだけだと思ってるけど」
「……姉として?」
「そうそう。だって桜って真面目だし頭もいいし、正直あたしより良い子じゃない?」
「うん、実にそう思うな」
「ちょっ! そこはし否定しなさいよ」
堂庭は眉間に皺しわを寄せて、こちらを睨みつけた。
「……まあいいわ。それでね、一緒の學校に通う以上、変な噂が流れるのは避けたいのよ」
「要するに姉の威厳ってとこか?」
「そうよ、なくとも學校では妹に慕われている姉って思われたいからね」
意外と堂庭は姉としてのプライドがあるらしい。
「でもそんな周囲の目を気にする必要あるか? 俺は別に『だらし姉』でも良い気がするけどなぁ」
「晴流の意見なんか聞いてないわよ! 大あたしはクラス委員長なのよ! 高貴な存在でいる必要があるじゃない?」
「ならまずロリコンやめろよ」
「はぁ!? 出來るわけないでしょ!」
あんたバカァ!?と言わんばかりの顔で睨んでくる堂庭。なんで俺がおかしな事言ったみたいになってんだよ。
「ん、ちょっと待て。この前勉強會とか言ってたのは……」
「あぁ、あれね。もちろん桜にテストの點數で勝つためよ」
あ、そうですか。やはり急に勉強しようなんておかしいと思ってたけど、そんな理由だったんだな。
「あと晴流はやたら桜に構ってるけど、あれやめてくれない? 桜にあんたのだらしなさが移るんだけど」
「いや桜ちゃんが勝手に近づいてくるだけで……。つーかお前には一番言われたくないけどな」
こいつ、自分のロリコン屬が妹に迷をかけていること自覚しているのか?
「晴流と桜がくっついてるとなんていうかイライラするのよ。だから極力控えて頂戴ね」
「理由が自己中過ぎんだろ」
注意するなら桜ちゃんに言ってくれよと思いつつ、俺はポケットからスマホを取り出す。
新著メールが屆いていた。差出人は舞奈海だ。
『大仏チップス2袋はよ(`^´)ノ』
……あいつまだ覚えていたのか。
翌日の放課後。
帰り支度をしていると一人のクラスメイトに聲を掛けられた。
「大変だよ宮ヶ谷君!」
「えっと……。名前何だっけ?」
「もー! 都筑だよ! 都筑紗彌加!」
腕を腰に當て怒った素振りをみせているこの子は都筑つづき紗彌加さやか。俺と同じクラスの子だ。
あまり話した事は無いので、詳しい素は分からない。すまないな。
「で、何が大変なの?」
「もう大変どころの騒ぎじゃないよ! 宇宙規模だよ!」
何だそのスケールは!?
第二のビッグバンでも起きちゃうのか?
「部長も呼んでるから今すぐ部室に來て! あ、瑛りんも忘れずに連れてかなきゃ!」
忘れずにって、堂庭は持ち扱いかよ。
「その前に部室ってどこの部だよ」
「え、新聞部に決まってるじゃん! 私のってる部活だもん!」
知りませんよそんな事。
都筑は困している俺の心も知らず、腕を摑んで強引に引っ張ろうとする。
「おい待てって。俺まだ支度終わってないんだけど」
「そんなの後でいいから! 今は急なの! 一大事なの!」
都筑さんは更に堂庭にも聲を掛け、やはり強引に連れ出す形で俺たちは新聞部の部室に向かった。
「速いよ紗彌加ちゃん。あたしもう息が……」
「二人とも急いで! もう大変なんだから」
放たれた矢の如く、廊下をダッシュする都筑さん。足が速くて男子の俺ですら追いつくのがやっとな位だ。
「著いたわ。ここが新聞部の部室よ!」
「はぁ……。こんな學校の隅にあったのかよ新聞部は……」
辿り著いた場所は特別教室棟の一階最奧部。廊下に窓は無く、晝間だというのに辺りは暗い。
「何でここ明かりがないのよ……。それにし寒いし気味が悪いわね」
「電球切らしてるからね。まあこの辺りって授業でも使わない部屋ばっかだし、不気味でも仕方無いよねー」
都筑さんは當たり前のように答えると、目の前の引き戸をガラリと開けた。
「さあ、って。中に部長たちもいるから」
「あぁ。……お邪魔します」
「部屋の中は明るいんでしょうね? ……お邪魔します」
広さは教室の半分程度の小さい部屋だった。
あちこちに段ボールが山積みになって置いてあり、部屋の真ん中には生徒が使用する機と椅子が向かい合わせに六つ並べてある。
その一番奧の二つの席にそれぞれ子生徒が座っていた。
「部長、例のの子とその旦那を連れて來ましたー」
「誰が旦那じゃい!」
「誰が晴流の嫁じゃい!」
ツッコミが被る俺と堂庭。
その様子に座っている子生徒は笑い聲を上げ、片方が立ち上がった。
「ふふ、話は聞いていたが、本當に二人とも息ピッタリだね。……私は三年の本村香凜もとむらかりん。一応この部の部長を務めさせてもらってるよ」
そういった後、小さく禮をしてらかい笑顔を浮かべる。目元が鋭くて怖い人なのかなと思ったけど意外と優しい人かもしれかい。
「あとこっちにいるのは同じく三年の大黒おおぐろいずみ。世話焼きな奴で周りから『保母さん』って呼ばれている奴だ」
「保母さん!?」
突如堂庭が大きな聲を上げる。おいおい、ロリコンに関係する言葉なら何でも有りなのかよ。
「えっと、紹介に與った大黒ですう。堂庭さんに宮ヶ谷君。よろしゅうな」
「本村部長に大黒先輩、ですね。よろしくお願いします。……って結局俺たちに何の用があったんですか?」
都筑にもはや拉致されるが如く、やってきた新聞部の部室。
何が大変なのか用があるのかさっぱり分からない。
疑問を浮かべる俺に、本村部長は笑って答える。
「はっは、そうだな。都筑、アレを見せてやれ」
「はい! 承知しました部長!」
すると都筑は機の中から一枚の茶封筒と一枚の書類。それに複數の寫真を取り出した。
その様子を眺めていた本村部長は笑顔から一転、真剣な面もちで口を開いた。
「これは今朝、我が校の新聞部宛てに屆いた書面だ。寫真に映っているのはあなたたちで間違いないのだろう?」
俺と堂庭は寫真を手に取り、容を確認する。
それは確かに俺たちが映っている寫真だったのだが……。
「は!? マジかこれ?」
「噓でしょ……」
鼓が速くなる。
大変な事になった。都筑が言っていた通りの急事態だ。
まさかこんな事が起きるなんて。
寫真に映っていたのは先日、堂庭が保育園前で暴走し俺の腕に抱きついている姿だった。
「これだけじゃない。その紙に書かれた容も見てほしい」
本村部長はそう言って俺たちに一枚の書類を見るよう促した。
それは真っ白なコピー用紙だったが、中央に達筆な字でこう書かれていた。
『注意。堂庭瑛は小児者です。』
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