二つのグループに別れ、修善寺さんとお祭り會場を散策することになった。

辺りの店からは香ばしい匂いが流れ、嗅覚が刺激される。お腹も空いてきたし、何か食べておきたい。

修善寺さんは時々起こる大きな音や聲が鳴り響くたびに握る手の力を強めていた。そう、俺は今堂庭に代わって修善寺さんと手を繋いでいるのだ。理由は『不良に絡まれたら怖い』ということらしいが、イマイチ理由になっていないと思う。

「そういえば、こんなの一ヶ月ぶり位だよな」

堂庭の策略によって修善寺さんとデートをしたあの日から一ヶ月。まさかまたこうして彼と二人きりになるとは思わなかった。

「ほほん、お主、またとデートできて嬉しいと思っておるな？」

「げっ！？　何故バレたし……」

「何故ってなにも、その顔を見れば誰だって分かるじゃろ」

俺の顔を覗きこんで小悪魔的な笑みを見せる修善寺さん。僅かにれた頬の緩みを見逃さなかったか。やはり彼の目は鋭い。

「そりゃ男ですし、の子とデートしたくないなんて思うわけないじゃんか」

「ふむふむ。の子と、ねぇ」

うんうんと頷いて、一つ間を置いた修善寺さんが問う。

「なら、瑛殿とデートできたらお主は嬉しいのか？」

「え？　堂庭と！？」

堂庭とデート……？　いや、あいつは馴染みだし枠の外というかなんというか……。

「いや、堂庭は馴染みという付き合いがあるからデートとか、そういうのは想像すらできないな」

「そうか。まあお主ならそう答えると思っていたがな。……じゃあ彼にはない、という事じゃな？」

「れ、！？」

じっと俺の顔を見つめながら返答を待つ修善寺さん。俺は何と答えたら良いか分からず揺していると

「うむ。もうこの質問には答えなくてよい。……大分かったのじゃ」

眉を八の字にして、苦笑いを浮かべながらそう言った。

「あはは……。何か悪いな。俺、ちょっと張してるみたいで……」

堂庭とデートやといった妙な事を考えていたら頭がボーッとなり、手汗も出てきてしまっていた。

「ふむ。それはもしかしてこれじゃな。これの仕業じゃな？」

そう言って修善寺さんは俺と繋ぐ手を勢いよく上に掲げる。

「あ、まあそれも一理あるな。こんな人前で恥ずかしいし」

前回の橫浜デートでは手を繋がなかったので、彼の手を握るのは今回が初めてなのである。張する原因の一つには違いないが修善寺さんはどう思っているのだろう……。

「わしなんかで照れるでない。もっとの力を抜いて。そう、ゆっくりと深呼吸をして」

「お、おう……。すぅー、はぁー……」

「うむ！　これでバッチリなのじゃ！」

何故か修善寺さんに落ち著かされる。

と、その時遠くで大きく野太いび聲が聞こえた。

「ひゃあああぁぁぁ！？　一なんなのじゃあああぁぁぁ！！」

「おい！　修善寺さん落ち著け！」

彼にはまず自分の心配をしてもらいたいと思う。

「修善寺さん、何か食べたいはある？」

「うむ……そうじゃな……」

この後予定されているライブに行く前に腹を満たしておこうと修善寺さんに聲を掛ける。

先ほどからだが、彼は立ち並ぶ店を珍しそうに眺めていた。

「もしかしてこういうお祭りに來たの初めて？」

「うむ、左様。何分學園の外に出ないものじゃからな」

遠い目をして答える。彼にとってこのような庶民的なイベントは新鮮にじるのかもしれない。

「まあ気になった奴があったら言ってくれ」

「そうさせてもらうのじゃ……あ、宮ヶ谷殿！」

ぐいぐいと手を引っ張る修善寺さん。早速何か見つけたようだ。

「あのチョコバナナっていうのを食べてみたいのじゃ！」

「おう、あれか」

指差す先には綺麗に並べられたチョコバナナの店があった。まあ妥當、というか定番の一品であろう。

「な！　一本三百円だと！？　余裕で一房買える値段ではないか！」

「ちょっ、店の前でそういう事言わない」

確かに店の商品の価格はインフレし過ぎているとじるが……意外にも修善寺さんの金銭覚は俺たちに近いんだな。

「すみません、一本下さい」

「はいまいど。三百円ね」

恰幅のいい店のおじさんに小銭を渡す。

「宮ヶ谷殿も食べるのかえ？」

「いや俺は大丈夫。ほら、早く選びな」

「え……？　あ、わしのためにお金を出してくれたのじゃな！　謝するぞ宮ヶ谷殿！」

笑顔でそう言われし恥ずかしくなってしまったが、男である以上これくらい當然、と俺は思う。

一方修善寺さんは目を輝かせてどれを選ぶか見回していた。それを見ていた店のおじさんは大きな笑い聲の後に

「いやぁお二人さんラブラブだねぇー！　俺もあと三十年若ければなぁー！」

「いえ別にそういう関係じゃないんですが……」

「はっはっは。そんな隠す必要はないんだぜ？　青春というモノはあっという間に過ぎていくものだからなぁ！」

店のおじさんに変な誤解をされてしまった。まあ手も繋いじゃってるし、傍から見たら仲睦まじいカップルにしか見えないのだろう。

軽く一禮をした後、店を離れる。修善寺さんは手にしたチョコバナナに夢中でおじさんの冷やかしは耳にっていないようだった。

「今更じゃが、お主のデートのい方はレベルが高かったのう」

「ちょっ！？　これは意見が割れたから別行になっているだけであって、決してデートとかそういう疚しい気持ちがあった訳じゃないからな！」

「ほう？　の前で照れ隠しはいらないのじゃぞ。ほら、お主も瑛殿のように自・分・に・正・直・にならなくちゃ人生勿無いぞ」

「俺はただ事実を言っているだけでそんな……」

ニヤニヤと疑いの目を修善寺さんに向けられる。

「そういう頑固な所、瑛殿とそっくりなのじゃ」

「堂庭と……？」

「そうじゃ。……はぁ、似た者同士なのに難しい二人じゃのう」

目を下げ、呆れたような聲でそう言われた。