《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》4-11 「嫌いじゃないよね?」

水著から私服に著替えた後。

一番乗りで川岸に戻った俺は小石を片手に水切りの練習をしていた。

しかし投げた石は相変わらず綺麗な弧を描き、垂直に落下して消える。飛び跳ねる素振りすら無い。

やはり石の形とか投げ方にコツがあるのだろうか……。

しばらくの間、年のように無心になって石を投げ続けた。そんな中、背後からすたすたと軽快な足音が近付いてくるのが聞こえた。

「宮ヶ谷君何してんの? 砲丸投げの練習?」

都筑だった。白地のTシャツとデニムのホットパンツといった裝いで私服姿は実にシンプルだ。

「…………水切りの練習……だが」

砲丸投げと言われ、々イラッとしたが渋々答える。

すると都筑は腹を抱えて大きく笑い出した。

「うっそぉぉー!? 水切りを両手でやる人なんて初めて見たよ!」

「っせーな。投げ方とかよく分からないんだよ」

「だからって高く投げすぎでしょ。いいわ、私がお手本を見せてあげるね」

笑顔で答えると都筑はしゃがんで小石を手に取り、ブツブツと何か呟きながら見回し始めた。投げる石の選定をしているようである。

やがて決め終わったらしく、「よしっ!」と弾んだ聲と共に勢い良く立ち上がった。

「この石を見て。他のと何が違うか分かる?」

「ん……何かやたら平べったいな」

「そう! あとは丸い形をしているでしょ? こういう石だと上手く跳ねるの」

ほうっと思わず唸ってしまう。

なるほど、闇雲に落ちてる石を投げてはいけないのだな。

「いかに回転させるかが大切だからこう……親指と人差し指で摑んで、水面と平行に投げるように意識して片足を一歩前に出して、ひょお!」

都筑の掛け聲と同時に平たい小石が放たれる。

水上をるかのような軌道を描き、ぴょんぴょんと跳ねていく。

あっという間だったが、実に四回もの飛び跳ねに功していた。當然の如くこなす彼に俺は開いた口が塞がらなかった。

もしかしてこれが普通なのだろうか……?

「都筑先生! ぜひ俺にその投げ方を教授いただきたい……」

「あはは、そんなかしこまらなくていいよ。簡単だからさ!」

満更でもない表を浮かべる都筑が、今だけは天使のように見えた。

「お、また跳ねたぞ!」

「わぁ、宮ヶ谷君飲み込み早いねー! 結構意外かも」

レクチャー開始から數回で水切りができるようになった。

一言余計だが都筑にも褒められた。まあ、投げる事には多自信があるからな。

「ありがとな、都筑。……これで良い勝負ができそうだ」

「勝負……? 誰かと戦ったりとか?」

「あぁ。堂庭と水切り対決をする事になってな」

すると都筑は「なるほど」と呟いてニヤリと口角を上げる。

「二人って何かにつけて一緒にいるけど、宮ヶ谷君って瑛りんの事好きなの?」

「は、はぁ!? んなわけないっての!」

唐突な質問にたじろぐ。

確かに堂庭とは行を共にする事も多い。クラスも同じだし、下校する時も一緒だ。

でもそれは馴染みという特殊な関係があるからで、決して好きとかは……無い。恐らく堂庭も同じ考えのはずだろう。

「でもさぁ、瑛りんに抱きつかれた時、めっちゃ照れてたじゃん」

「あ、あれは不可抗力だろ!?」

寧ろ冷靜でいられる方がおかしい。

「でもでもぉ、嫌いじゃないよね?」

「そ、それは、まぁ……」

「なら何でいつも側にいるの? …………を守るため?」

「…………」

言葉が詰まった。

都筑は堂庭の素の姿を知っている。だからこそ浮かぶ疑問。

堂庭の相手をしてあげているのは日頃、俺の面倒を見てくれているからだ。

課題の提出を催促してくれたり、遅刻をすれば叱られるけどその後はフォローをれたりしてくれる。まるで母親みたいに。

だからこそ俺はその恩返しになればと堂庭の我が儘に付き合ってあげている。彼のロリコンがバレないように配慮しつつ、更生させているのも恩返しの範疇はんちゅうだと考えている。

「アイツには々世話になってるからな。そのお返しをしているだけだよ」

「そう…………なら……」

し曇った顔つきになった都筑がゆっくりと問う。

「お返しが終わったら、瑛りんから離れるの?」

「え…………?」

「仮に瑛りんが宮ヶ谷君と口を聞かなくなって、でもその時瑛りんは思い悩んで泣いていたら……どうする?」

「それは……無いだろ、きっと」

「だから仮って言ってるじゃん!」

都筑の目は真剣だった。何故そんな突拍子も無い質問をしたのかは分からないが、俺も真面目に答えなければならない。そんな空気だった。

「助けるだろうな。無理矢理にでも」

々矛盾するかもしれないが、堂庭の悲しむ顔は見たくない。例え無視されようと罵倒されようと彼が困っていたら俺はきっと手を差しべるだろう。

それは馴染みとして…………?

「あはは、変な事聞いちゃってごめんね。私結構心配だったから」

「……別に大丈夫だけど」

「そっか。でも安心した。宮ヶ谷君ならきっと瑛りんを守れるよ!」

ニカッと白い歯を見せた都筑が笑う。それはお前に任せたぞ、託すぞと言わんばかりに……。

「なあ都筑、どうしてお前は堂庭をそんなに気にするんだ?」

「え、私!?」

同じクラスの仲間として気にかけてあげるのは當然だろうが、踏み込み合がおかしい気がした。

俺に聞く時の必死さが並みの友達レベルではないような……。

「もしかして都筑ってロリコンか?」

「いやいやいやいや! 私は地味でふっつーな人間だよ? …………まぁ瑛りんは凄く可くて萌えると思うけど」

後半の一言のせいで説得力が皆無である。

「じゃあ堂庭の長があと二十センチ高くなったらどう思う?」

「えぇぇ!? それは萌えないじゃん! 普通のの子じゃん!」

「やっぱロリコンじゃねぇか」

きっと都筑はとても素直な奴なのだろう。

ほっと溜め息をつく。

「別にロリコンとかじゃなくて……ただ個がある子に萌えるの」

目線を俺から川の水面に逸らし、落ち著いた口調で話し始める都筑。

「私って地味だし特技も無いし何の取り柄もないからさ、目立つ子に憧れちゃうのよね……」

水流を眺める彼はどことなく寂しそうに見えた。

「瑛りんがってんでいたのは驚いたよ。でもあの子、とても幸せそうな顔をしてた。周りには言いにくいけど素敵な個・・だと私は思うな」

「素敵な個、か……」

考えてもみなかった。堂庭の癖を個として尊重する意見が有る事を。

確かにについて語っている時の堂庭は凄く楽しそうな表をしている。

仮に堂庭のロリコンを直せたとしたら、周囲の目を気にする必要がなくなる。だが同時に彼の笑顔まで奪ってしまうのではないか?

そう考える事もあった。でも仕方ないと思っていた。ロリコンは迷をかけ、本人も後に苦しむのだから。

しかし個として捉えるのであれば……矯正する権利は俺達には無い。決めるのは堂庭ただ一人になる。

「もし瑛りんのコンプレックスを直そうとしているのなら一旦考えてしいな。それは本當に瑛りんの為になるのか? ってね」

「なるほど……」

こそぎ直す必要はないんだ。

好きが迷な訳じゃない。その延長線上にある行き過ぎた行がいけないだけなんだ。

だから俺と桜ちゃんは堂庭を健・全・なロリコンにする為に努力する。

それが彼にとっても幸せに繋がるんだ、きっと。

「ありがとな、都筑」

「えぇぇ? 何でお禮?」

「いいからいいから。言わせてくれ」

「はいはい、どういたしまして」

ニコッと笑顔で返される。

俺はその時都筑を直視できなかった。余りにも素直な態度を真にけて、し恥ずかしくなってしまったのだ。

そんなけない心を都筑に悟られないように俺は目線を草むらに向けて話す。

「そういえばさ、アイツ等戻ってくるの遅くね?」

都筑と話してからかなりの時間が経っていたが堂庭や平沼が戻ってくる気配は無い。

もしかして迷子になったのではないのかと心のどこかでずっと気になっていた。

一方、都筑は悪戯っぽい笑みを浮かべながら答える。

「瑛りんは多分車の中かな。替えの下著を忘れたからメアリーちゃんに買いに行ってもらってるって!」

「なんだ……水著で來て著替え忘れるとかアホかよあのお子様は」

「萌えるよね!」

「え?」

都筑はやけに嬉しそうな表をしているが俺にはその思考が分からない。分かりたくもない。

「あと平沼君はバーベキューの材料で足りないがあったからその買い出しに行ってるよ」

「なるほどな。じゃあもうし時間がかかるわけか」

「そうそう! だから今のうちに水切りの特訓をしよ? 瑛りんに勝ってムフフな事したいんでしょ?」

「したくねーよ。つかそんな約束してねーよ」

ノリノリな都筑のテンションに合わせるのは大変だったが、刺すように照らしていた太は雲に隠れ、かすには丁度良くなった。

それから數十分、俺は都筑のアドバイスを聞きながら小石を川へ放り投げる作業を続けるのであった……。

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