《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》4-14 「お願いがあるの……」

「ねぇ――る。起き――。聞こえて――――」

「…………」

「ゴホンッ……起きて、晴流……」

「……むぁ?」

鋭いが差し込んでくる。

重たい瞼まぶたを押し上げて見えたのは高級漂う真っ黒なソファーと壁掛け時計。

時計の針は五時を指していた。窓の外はまだ暗いので恐らく明け方。結局俺はあのまま寢てしまっていたのか。電気も點けっぱなしだし……全然疲れが取れた気がしないな。

「ゴホッ、ゴホンッ」

「ん……?」

首を下に傾ける。俺の太ももを枕にして橫たわっている堂庭と目が合った。

は俺に助けを求めるかのような視線を送っている。おまけに顔も赤く、酷く咳き込んでいる。

まさかとは思うがもしかして……。

「お前、風邪引いたか?」

「ゴホンッ、うん、桜のが移ったみたい。それに布団もなにも掛けないで寢ちゃったから……」

辛そうな顔をしながらも、「あたしって馬鹿ね」と微笑む堂庭。

――また強がりか。辛い時は辛いって言えよ頼むからさ……。

「熱、有るんじゃないのか?」

「うん……なんか頭がボーッとするし、もしかしたら……」

弱々しい聲音で話す堂庭の額に手を當てる。

「熱っ! お前ヤバいって! 取り敢えず濡れたタオル持ってくるからそこで待ってろ」

想像以上だった。

放っておいたら全が焦げてしまうのではないかと思うほどに熱かった。

堂庭の頭をそっと下ろし、急いでキッチンへ。

吊されていた手拭き用のタオルを濡らして強く絞る。

使用済みに見けられたが今は急事態。やむを得ないだろう。

「ほら、おでこに乗せるぞ。……どうだ?」

「うぅーん……。よく分からないなぁ。も熱いのに寒気するし……」

堂庭は口を開くのに一杯の狀態だった。

因みにコイツは普段病気とは無縁の元気バカである。

しかし數年に一度、桜ちゃんから風邪を貰う事がありその度に苦しんでいた。

いつもは健康。だからこそ調を崩した時に味わう辛さは人一倍強いのである。

「晴流……また、膝……まくら……」

「いやいや、それよりベッドで寢た方が……」

「まくら、して?」

「……メアリーさん起こしてくるから」

「待って……!」

呼び止められる。

堂庭は何かを必死に訴えるような目で俺を見つめていた。

しばらく無言が続き、やがて俺が折れる。堂庭の我が儘に付き合ってあげる義理もないけど奴の顔を見るとどうしても反抗できないんだよな。

「はいはい……マジでヤバくなったらすぐに言うんだぞ」

「うん……ありがと……」

その小さな頭を乗せた堂庭が優しく微笑んだ。

「別に……禮なんていらねぇよ……」

いつもと違う素直な態度に揺してしまう。

恐らく熱のせいで俺と張り合う気力を失っているのだろう。

でも……コイツも可らしくお禮なんて言うんだな。

普段も素直でいればいいのに……いや、それはそれで気持ち悪いのかもな。

「晴流にお願いがあるの……」

綺麗な堂庭を想像していたところで、本人から話し掛けられる。

堂庭はわざとらしく咳き込みながら俺に向かって

「あたしの寶を託すわ……ゴホッ、『カスタム3D』を……。ゲームだけどあたしだと思って大事に使って……」

「いやいらねぇし! つかそれエロゲーじゃなかったか?」

以前半強制的に遊ばされたVRヨウジョ(R18)の他にもイケナイ代があったのか……。

「エッチな事しなければ全年齢対象だよ……。だからあたしが星になっても晴流の心に……」

「ちょっ、さりげなく自分で死亡フラグ建てるんじゃねえよ!」

言ってる事もよく分からないしこれは思いの外重癥かもしれない。

「ゴホッ、ゴホンッ……うっ」

「無理して喋るからこうなるんだよ。今は黙って寢てろって」

「ふふ、晴流は優しいね……」

を真っ赤に染め上げた堂庭がむくりと起き上がる。

「おいこら言ってるそばから」

「むにゃあぁ……」

ぼふっ。

そのまま正面に倒れてきやがった。

耳元には堂庭の頭が、そして長い髪からシャンプーの甘い香りが漂ってくる。

これも悪くないか……いや、それよりも熱い、暑苦しい!

「もう離れろ、くっつくなって」

「あたし好きかも、ハル」

「は…………!?」

今こいつなんて……?

俺の事が好き……だと!?

「おい堂庭、お前」

「うむ……夏も捨てがたいわね……」

「え?」

「いやでも、ゴホッ、秋も良いかも」

「あ、あぁ、秋ね……。いいんじゃない、秋」

季節の話かよ!

ったく、紛らわしいなぁ。一瞬ビビったじゃねぇか。

「ドリアンが食べたい」

「今度はなんだよ……」

「ゴホンッ、ヤバい、あたし本気で死ぬかも……」

「支離滅裂だなおい。よし、メアリーさん呼んでくるぞ」

「あ、それだけは……!」

俺と向き直ろうとした堂庭が勢い余って勢が崩れ、そのまま床に向かって落ちていく。

「堂庭!」

寸前で彼の背中に手が屆いた。

そこからぐっと力をれて引き寄せる。しかし思ったより力は要らなかった。こいつ軽すぎやしないか? 重何キロなんだろう……。

どうでもいい想像を膨らませていたが束の間、勢い余って堂庭のは再び俺の元へ。

構図こそは同じであるものの今回は……。

「あっ……とこれは…………っ!」

俺の両手は未だ堂庭の背中。それはまるで大事なガラス瓶を包み込むように……。

要するに堂庭を抱き締めてしまったのだ。

これはマズい。早く手を離さないとお子様とは思えないあの強烈なパンチが來るぞ。

だがしかし俺の両手は言うことを聞かない。くそっ、なんでかないんだよ……。

一方堂庭も黙ったまま微だにしなかった。顔が見えないので様子を窺うことはできないが、さっきよりが熱いじがする。もしかしたら熱が上がったのかもしれないな……。

俺は引き続きかない両手と闘う。揺し過ぎてどれだけ時間が経ったのかも分からない。

突如、部屋の外から複數の足音がした。音は口のドア付近で止まる。

ヤバい、誰だか知らんがこの狀況を見られたら……!

來るな! こっちへ來るな……!

ガチャッ。

無慘にも扉は開かれてしまった。つかノックぐらいしてくれ。

そして足音の主が現れる…………平沼と都筑だった。最悪だ。

「宮ヶ谷…………邪魔したな」

「は、はわわわわ! 私、何も見てないから、見てないからねっ!」

「待て! 誤解だぁ!」

バタンと勢い良くドアは閉められた。ああもう、アイツ等なんてタイミングでってくるんだよ。完全に勘違いされたじゃないか。

このままでは俺と堂庭の夫婦説がより濃厚になってしまう。しかも都筑の手で校新聞にでも掲載されたら……。よし、後で二人まとめて処分するか……。

時刻は午前六時を過ぎていた。

メアリーさんの運転するゴツい車に揺られ小一時間。

予定は急遽変更となり、俺達は箱を後にしていた。堂庭だけ離する手も考えられたが堂庭からってもらった手前、俺や平沼達だけで楽しむのは申し訳ないというのが総意だった。

あれから堂庭はメアリーさんの看病によって多調は回復していた。しかし熱は変わらず高いままで見るからに辛そうな顔をしていた。

聞くところ、堂庭は早朝発生した一連の流れをよく覚えてないらしい。やはり意識は朦朧としていたようで、俺が間違って抱き締めてしまった事件も水に流すことができる……訳でもない。寧ろ逆流しそう。

車に乗り込む時、平沼と都筑は俺と堂庭を並んで座るよう促し、それから終始俺を見てはニヤニヤしていた。

頼むから口に出すなよ……。

殘りもない夏休みなのに悩みの種がまた一つ。

宿題も全然終わってないのにどうしようか……。

揺れる車で俺は溜め息をつくことしか出來なかった。

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